与太話:抱き締めてみよう!

 日本深界・志賀島

「千早!」

 鋼鉄の床に直に座っていた千早は、唐突に背後から聞こえたその声に振り向く。

「わぎゅ」

 そして急に抱き締められ、僅かな混乱の後にその相手を確認する。

「ストラトス様?」

「ああ、俺だ……」

 ストラトスは確かめるように更に強く抱き締める。

「あの……普段より積極的なのはとても嬉しいのですが……っ……強くし過ぎと言いますか……」

「あっ、すまん」

 抱く腕に込める力を緩めるが、まだ離れない。千早は虚を衝かれて放心していたが、程なくして彼の頭を優しく撫でる。

「どうなさったのですか?千早が恋しくなりましたか?」

「ああ。情けないことかもしれないけど、聞いてくれないか……」

「もちろんですよ。あなた様の千早は、どんなことでも聞き届けますよ」

 千早が優しく告げると、ストラトスは話し始める。

「今日、夢を見たんだよ。君が居なくなって、二度と会えなくなる……っていうさ」

「なるほど、それで千早が恋しくなったのですね?安心してください、千早はここにおりますよ」

 穏やかな抱擁によって、ストラトスは若干涙ぐむ。

「ほんっとうに……よかった……」

「あらあら……ご安心くださいな、千早はずっとここにおりますから。心行くまで童心にお帰りくださいませ」

 しばらくストラトスはしめやかに泣くと、安心したのか眠りに落ちる。脱力して体を預けてきた彼を横たえ、膝枕のような体勢にさせる。

「ストラトス様は甘えん坊さんですね……うふふ、あなた様の千早は消えませんよー……どこにも行きませんよー……」

 子供に言い聞かせるように、ストラトスを優しく撫でながら囁く。

「ですから……あなた様も、私の傍を離れないで……ね……?」

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