キャラ紹介:メリッサ・フィーネ

 始源世界・渾の社

「ふぁああっ……」

 社の離れにて、一人の女性が大欠伸をする。

「この図面を考えんの面倒くさいわ」

 脛ほどの高さの作業机の前で、胡坐をかく女性は左手に持っていた何かの資料を投げ捨て、資料は床を滑る。

「メリッサ、調子はどうか――」

 扉を開けて現れたのは、人間体のユグドラシルだった。彼は床に散らかった資料を見て、そして女性メリッサに視線を向ける。

「どうした?何か、気に食わないことでもあったか?」

 ユグドラシルの言葉に、メリッサは手を支えにして首から脱力して見せる。

「別に何も。っていうか、私を訪ねてもいいのはあんただけだけど、それでもアポ取ってって言わなかった?」

 不機嫌そうに、そのネガティブな心境をぶつけるようにユグドラシルに悪態をつく。

「おや、そうだったか……余は少々忘れっぽくてなぁ」

 ユグドラシルは適当にはぐらかしながら、屈んで資料を手に取る。

「仕様書か。ん……殆ど完成しているようだが、どうして床に投げたのだ?」

「なんか気に入らないから。それ以上の理由は無いわ」

 メリッサが顔をユグドラシルへ向ける。エリアルにどことなく似ているものの、スレンダーなあちらと比べて肉感が強い外見である彼女は、ワークアウトブラに男性用の短パンという独特な装束であった。

「あんたが欲しいならあげるわ。私はもう仕上げる気力無いし」

「ほう、では余が貰おう。ところで、さっきユノから聞いたが……ソムニウムのために甘味を作ったそうではないか。余にも作ってくれぬか」

「はぁ?」

 メリッサは溜息をついて正面に向き直る。

「無し。あれは私が気分転換に作ってたのを、あいつにあげただけだし。別に私が作んなくても、あんたならすぐ作れるでしょ、あれくらい。ねえ、原初三龍さん」

 皮肉っぽく吐き捨てると、メリッサは作業机においてあるショートケーキを乗せた皿に手を伸ばす。

「どうしても作ってほしいの?」

 メリッサは右手掴みでショートケーキを貪りつつ訊ねる。

「そうだな。余は甘味について見識を深めたいところで、ぜひ色々な甘味を食したいのでな」

「じゃ、エウレカに売ってるマカロンと、グランシデアに売ってるプリン買ってきてよ」

 メリッサが左手で作業机の上にある紙を一枚ユグドラシルへ投げる。

「どちらも名立たる高級店か。ユノも言っていたな、開店と同時に売り切れるとか。よし、ソムニウムに――」

「ダメ。あんたが自分で買ってきて」

 ユグドラシルがやや困った表情をして肩を竦める。

「まあ、よかろう。たまには余も、ニヒロとは関係ないところで外に出るか」

「そうそう。さっさと出て行って、さっさと買ってきて、私に貢げばそれでいいわ」

「ふん、愉快な人間よな」

 ユグドラシルが立ち上がり、離れから去る。メリッサはショートケーキを食べ終わると、床に散らかっている物の中から、未開封のポテトチップスの袋を一つ選び出すと、徐に開けて食べ出すのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る