与太話:渇望の閨

 明人はベッドに備え付けられたテーブルの上にお粥の入った器を置き、そしてベッドに座る。

「気分はどう?」

 視線の先には上体を起こした燐花がおり、拙い笑顔を見せる。

「今日は元気ないな」

 心配そうに、しかし素っ気なくそう言うと、燐花が答える。

「朝御飯はいいので……もっと近寄ってくれませんか?」

「ん?ああ、おっけー」

 明人が燐花へ近づくと、彼女は明人を抱き寄せる。

「んわっ!?」

「私の体は……今、半ば九竜と同化しているようなものなんです。だから私に食事は必要なくて……必要なのは心が満たされて、シフルが励起すること……どうですか、明人くん」

 燐花の胸から顔を出し、明人は視線を泳がす。

「どう、と言われても」

「私は人間の下卑た欲望に曝されて生きてきました。それは明人くんも知っていると思います」

 燐花は明人を更に強く抱き締める。

「でも、明人くんからなら、どんな低俗な欲望も、喜びになるんです。私のこと、壊したいって思いませんか……?」

「いや、えーっとな……」

「やっぱり、アリアちゃんや千代さんの方が素敵ですか……?」

 明人が答えようとするのをわざと遮って、燐花は明人を押し倒す。

「明人くんには、たくさんの女の子がいるかもしれない。でも私にとって、君は男女の別を超越した存在なんです。君にとっての、白金零のような存在――と言うと語弊があるかもしれないけれど」

 燐花は明人から視線を外し、物憂げな表情を見せる。

「わかってるんです。明人くんにとって、白金零が全てだと。どれだけ恵まれていても、あの人が君の心の全てを握っていることを」

「燐花……」

「君にとって今が、一番平和、ですよね」

 二人の間に沈黙が流れ、燐花が両腕を折り曲げて、明人に体を密着させる。

「もちろん、憧れと愛情は違うと知っています。でも、私にとって君は代えようのない一番なのに、君にとって私は一番じゃないのが……」

 明人は燐花を抱き締める。

「もういい。それ以上喋らなくていい。今の俺には、お前が生きてくれる以上の喜びなんてない。アリアちゃんに千代姉、レベンにシャトレ、アミシスや、それこそトラツグミだって、俺がいなくても力強く生きていける。でもお前は……」

 明人はそれ以上口を開かず、しばらく二人はただ身を寄せ合っていた。

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