与太話:和やかな虚無
始源世界 Chaos社海上基地
海風を感じながら、クインエンデとルリビタキ、ミサゴが澄ました顔で佇んでいた。それ以上でも以下でもない状況に耐えられなくなって、ルリビタキが脱力する。
「おい、おい」
彼女がクインエンデを小突く。
「なんですか、急に」
「なんですかじゃねえだろ。なんで何もない日にスカしてつっ立ってんだよ」
「いえ、こうして立っていると、何か始まりそうではないですか?そうですね、具体的に言うと、オタク受けの良さそうなカッコいいイントロが流れ初めて、少しハスキーな女性シンガーの声が聞こえてくるんですよ」
「あたしはアニメとか見ないから知らねえけど……ほんとに何の用もなくここにいるのかよ。ってか、あんたもここにいるってのはどうなんだ?」
ルリビタキがミサゴへ話題を振ると、彼女は澄ました表情を変えないまま――というか、それが彼女のデフォルトの顔だが――会話を返す。
「主が執務室より出払えと申しましたので。クインエンデ様は暇、ニヒロ様はわたくしを必要としておりません。故に、同じように暇を潰しております」
「あんたも特に目的ねえのかよ……」
クインエンデがその会話に割り込む。
「ちょっと待ってください。私は暇ではありませんよ。あれを見てください」
彼女が指差した方向を見ると、カメラが微妙な角度で設置されていた。
「なんでこんなローアングルから撮ってんだよ」
ルリビタキの言葉に、クインエンデは気持ち悪いほど上気した表情で返す。
「凛々しい顔で佇む私ですが、実は盗撮されて変態の慰み物になっている……という体で私のスカートの中を自分で撮っています」
「どういうことだよ……」
「当然、後でニヒロ様へ報告する際の映像に混ぜてご覧頂くためです」
クインエンデはやたらと堂々としている。ルリビタキは若干引いてミサゴへ向く。
「おい、あんたはこういうの止めないとダメだろ」
「わたくしが観測するに、ニヒロ様はクインエンデ様を本気で排除する可能性は0に近いです。よほど本気で造反を考えぬ限り、クインエンデ様の能力も合わせて、我々のリソースに直接的な被害が出ることは……」
長々と話す彼女を止めつつ、ルリビタキが口を開く。
「いやそうじゃなくってさ、ニヒロにそういう……なんていうかさ、良く言ってスケベな、悪く言ったら低俗な映像を見せるのってどうなんだよ」
「ああ、そっちですか。お気になさらないと思いますよ。今までもそういうモノはお作りになられていたので」
「見たんか……」
「はい。ニヒロ様の目に入るものは全て。逆にわたくしが何かを提供するときはクインエンデ様が確認していますよ」
ルリビタキはクインエンデへ視線を戻すと、彼女はカメラと自分のスカートを交互に調整していた。尤も、元々ミニスカートの上に深めのスリットが入っている以上、雑に下から見上げるだけで全部見えているようなものだが。
「ちなみに聞くんだけどよ……クインエンデは今までどんな動画をあいつに送ってたんだ」
夢中になっているクインエンデを放って会話を続ける。
「ニヒロ様はどれも最後まで視聴していますが……基本的には無表情です。ただひとつだけ、眉間がほんの少し動いた作品があります。それが、スリングショット水着で浣腸して、局部へ微細な振動を与え続ける(72h)ですね」
「ちょっと待て。内容の下らなさはこの際放っといて、三日も見たのか?あいつが?」
「はい。最初の一時間の時点でわたくしは飽きました。ニヒロ様がそれをご覧になられている間はわたくしとクインエンデ様が業務を処理し、視聴の終了と同時にクインエンデ様は凍らされて海に捨てられました」
「めっちゃバカじゃん……」
「如何せん強力な個体ですから、消し去るよりも適当に相手していた方が効率的だと判断していらっしゃるか……あの手この手で自分の変態行為を見て貰おうとするその創意工夫と根気を評価されているのかもしれません」
「何回聞いても理解できねえ間柄だな……まあいいや。ミサゴ、あたしの部屋でスイーツの食べ比べしようぜ」
「そうですね。クインエンデ様は一人で楽しそうなので、そちらの方が建設的です」
延々と試行錯誤を繰り返すクインエンデを放って、二人は基地内へ戻るのだった。
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