エンドレスロール:隠された真言
渾の社
ユグドラシルは本殿の中で、正座をしたまま手を合わす。徐々に開いていくと、その狭間に
「ククク……我ながら良い出来よ。これを見れば、さしものニヒロも驚かざるを得まい。さて――試しに何がいるか見てみるとしよう」
彼女は視線を上げ、柱に寄りかかっていた零を見やる。
「ソムニウム、余の実験に付き合え」
零はちらりと目線をやり、頷く。ルナリスフィリアが独りでに零の手元へ収まり、閃光を放つ。
エンドレスロール 時空断層
表出した次元門――即ち時空断層に投げ出された零は頭から落下していた。極めて冷静に彼女は一回転し、流れていた岩場に着地する。遅れて優雅に降下してきたユグドラシルが横に並ぶ。
「ここは」
「ここは時空断層だ」
「そういうことじゃない」
「お前に渡した剣があるだろう?それは内部で記憶を戦わせ合い、無限に強者を産み出し続ける。そしてあらゆる可能性を精査して蓄積されたデータが、お前を助けるのだ」
「つまり、この剣の記憶の中に私たちは居ると」
二人が駄弁っていると、眼前にふらふらと重い足取りで向かってくる人影があった。可愛らしいフリルが大量についたミニドレスのような衣装に、美しい銀色のショートカットを携えた麗しい少女だったが、全身を多くの切創に彩られ、髪には土埃が付着していた。
「インドミナス・マントラ……」
零が呟き、それに答えるようにマントラは顔を上げる。右頬骨から首筋にかけての肉が消失しており、有機的ながらも人工物らしさを醸し出す断面が露になっていた。
「ソムニウムか……あはは、僕に会いに来てくれるなんて嬉しいなぁ……」
言葉を発しつつも、込み上げてくるものを抑えられずに嘔吐する。咄嗟に口許を塞ぐが、頬の穴から流れ出る。
「なるほど、シュンゲキに殺されなかったけれど、時空断層を彷徨い続けた……」
ユグドラシルが頷く。
「そのようだな。その剣の試し斬りには……少々不釣り合いではあるが、是非とも倒してもらおう」
「わかってる」
「それとこれを持て」
ユグドラシルが右手を差し出し、そこに湛えられたたおやかな水渦を受けとる。
「それは
「わかった」
零が左手を伸ばし、真水鏡を展開し、構える。
「ここで死んでもらう」
「くひっ……ソムニウム……僕はずっとここを彷徨ってたんだぁ……お陰で、自家中毒で死にそうだよぉ……」
マントラが構え、全力で嘔吐する。虹色の吐瀉物は凄まじい速度と量で零を狙うが、振られた真水鏡が弾き返し、飛び散った水滴が吐瀉物を威力を増加させつつ弾き返し、そんなことなど予想だにしていなかったマントラは直撃して吹き飛ばされる。零は真雷を内包した氷柱の弾幕を撃ち放ち、倒れたマントラを磔にするように突き刺さる。遅れて氷柱が砕け、弾けた真雷が彼女の体を焼く。
「げぐあぁッ!あぁッ!」
悶絶して叫ぶマントラを、零は微塵の興味も持たずに見つめる。そして真横に瞬間移動し、右手で首を掴んで軽々とマントラを持ち上げる。
「流石はインドミナス。頑丈さだけは目を見張るものがある……」
膂力を引き上げ、マントラは苦悶の表情でもがく。
「あが……ぉむにっ……む……!」
「ふん」
零はマントラを地面に叩きつけ、持ち上げ、放り投げる。ボロ雑巾のように転がったマントラは、ピクリとも動かなくなる。
「……」
再び近づき、今度はルナリスフィリアを突き刺して持ち上げ、そのまま足場の縁まで運ぶ。
「つまらなかったよ」
背を蹴って引き抜き、マントラはそのまま時空断層の奥深くへ落ちていった。
渾の社
閃光に包まれ、社へ戻ってきた二人は顔を見合わせる。
「使い心地はどうだ、ソムニウム。あんな雑魚では何もわからんかも知らんが」
両手の武装を消しつつ零は答える。
「良かった。最初から私の手足として存在しているような馴染み方だったから」
「ほう、それは良かった。まあ同じ手合いが来たとしても、そいつの中で鍛え上げられた記憶は手を焼くかもしれん。好きに使い、決戦に備えるが良い」
「わかってる」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます