エンドレスロール:エンタラフ・アンナ
エンドレスロール Chaos海上基地・旧実習棟
「懐かしいですね、あなたの気配をまた感じるなんて」
壁に空いた大穴から吹き込んでくる海風を感じながら、エメルは振り返る。逆光の最中に佇むのはエンタラフで、大弓と鉈で武装していた。
「姉さんこそ。レアルに討たれたのではなかったのか」
「なるほど、そういう設定の世界線ですか……」
二人は示し合わせたように殺気を向けつつ、距離を保って歩く。エンタラフは鉈に手をかけ、エメルは右手を顎に添えつつ、右肘を左手で支える。
「姉さんが何を目当てにここに現れたのかは、敢えて聞かないことにするが……生憎、もう姉さんでは私を止めることなど出来ない」
「ほう?言うようになりましたね。技術や努力ではどうにもならない実力差と言うものを、まだ知らないようで」
「そうか」
エンタラフは鉈から手を離し、矢を射る。矢は弓から放たれるのはもちろん、ある種の乱雑さを以て四方八方から乱れ飛ぶ。しかし、不意打ちの攻勢に移る瞬間の微妙な筋肉の挙動から見切っていたエメルは、横薙ぎの蹴りを放ち、衝撃波で矢を潜り抜けてエンタラフを直接狙う。エンタラフも当然予測し、魔力の足場を瞬時にいくつも作り出して飛び上がって矢を射、更に足場の裏を蹴って急降下する。回避したエメルを狙って鉈を振り、エメルは左腕で削り往なして右拳を放ち、それが弓に弾かれたところを左足をしならせつつ蹴り上げ、間髪いれずに右足の踵で蹴り上げ弓を弾き飛ばし、止めに放たれた拳をエンタラフは両手で受け止める。
「くっ……相変わらずなんて馬鹿力だ……!」
「おやおや、私の拳を受け止めるとは、確かに成長が見られますね」
余りにも渾身の力で力んでいる都合、エンタラフの体の軸がふらふらと揺れる。だがエメルは敢えて隙を突かず、更に力を注ぎ込んで強引に彼女を押し切り吹き飛ばす。受け身を取り、大弓を手元に瞬間移動させて、エメルの追撃を受け流す。至近距離で矢を射り、爆裂させて強引に距離を取る。
「まさか、読まれていたのか」
部屋中に張り巡らされた光の糸が断ち切られ、力なく床にほどける。
「うふふ、もちろんですよ~。あれだけじっくりと戦況を確認する隙をくれれば、誰だって気付きます」
「全く油断も隙もないな、姉さんは……私の初手を読み切るだけでなく、次の手まで把握して全て回避していたとは」
鉈も手元に戻し、納刀する。
「姉さん、あなたは一体どこへ辿り着こうとしているんだ。戦いなんて、本質はただ虚しいだけなのに」
「私はそうは思いませんね。戦いの中でしか生きられないものだって、この世には居ます。それに暴力を嫌ったところで、暴力には勝てない。現にエンタラフ、あなたは暴力で以て暴力に抵抗しているではありませんか」
「暴力を肯定する人間の常套句だな、姉さん」
「ふふ、やむを得ず戦っているから、これは防衛行為であって暴力でない――これも、非暴力を肯定する人間の常套句ですね?」
「勝った方が正しいと言うことか」
「その通り。流石は私の妹ですね」
「ならば、昔から言いたかったことを、冥土の土産に一つだけ言わせて貰おう」
エンタラフはもったいぶって目を伏せ、開く。
「姉さん、昔からあなたのことが気に入らなかった。軟派なようで芯が太く、揺るぎなく深遠なる信念を持つ姉さんのことが」
「そうですか。生憎、私はバロンしか眼中に無いもので。でも……片想いの辛さはよぉく理解しているつもりですよ。なんせ、クライシスから今の今までずっと片想いなのでね」
「最強になるために何もかもを犠牲にして……そんな姉さんに嫉妬していたんだ。だが、私も……アルメール様のお陰で、揺るがぬものを得た」
「結末なんて知っているくせに。そんなに純真無垢だから、あんな表現しづらい最期を迎えるんですよ」
エンタラフは飛び退き、虚空に大量の光の線が産み出される。それは意思を持つようにエメルへ別々の速度・挙動で向かう。
「私の姿は姉さんでも捉えられないはずだ」
エメルが光の線を腕で弾きつつ微笑む。
「ウガルに負けた頃の私ならばそうでしたね」
踏み込み、空中を高速で飛び交いながら矢を射っていたエンタラフを捕捉する。
「チッ!」
咄嗟にエメルを踏んで後方に飛ぶが、彼女はそのまま身を翻して踵落としを放つ。尋常ならざる破壊力が腹にめり込み、床に叩きつけられ埋まる。遅れてエメルが着地し、頭を掴んで床からエンタラフを引き剥がし、持ち上げる。
「嫌いだ……姉さん……」
「あらあら、直球ですね」
体が塩になり始めたまま、エンタラフは続ける。
「最初から……加減していたんだろ……?姉さんからは……何の力も感じなかった……それはつまり、私は姉さんが力むのにすら値しない手合いだったと……言うことだ……」
「ふふ……」
エメルは躊躇なく頭を握り潰し、支えを失ったエンタラフの首から下は落下し、シフルの粒子となって消滅する。
「賢き我が妹よ、二度と会うことなど無いように」
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