エンドレスロール:輝きの勇者
エンドレスロール エラン・ヴィタール最奥部
屋敷の前の草原で、ホシヒメはストレッチをしていた。
「……ホシヒメ」
背後から声がして、彼女はそちらを向く。そこにはバロンが右腕を回しつつ近づいてきていた。
「どったの、バロン君?」
「……手合わせ願いたい。思えば、立場の関係上、僕と君は戦ったことがない。どうだろう、ここで互いに、死力を尽くして戦うというのは……」
バロンの少し喜びの混じった言葉に、ホシヒメは笑みで返す。
「いいね、それ……えへへ、ゼロ君と戦うのが一番楽しいけど、確かにバロン君と戦うのも楽しそうだよ。でも一つだけ、聞いておきたいことがあるんだよね」
「……何かな」
「乱取りって言うのはいつでもそうだけどさ……うっかりバロン君を殺しちゃってもいいんだよね?」
「……流石の余裕だな。ああ、構わない。尤も、僕の方も……君を殺す気で行くぞ!」
瞬間移動。そして拳が突き合わされ、極大と言うのも甚だしいほどの衝撃が巻き起こる。ホシヒメの少女らしい細腕とバロンの剛腕が激突し合っているにも関わらず、両者の膂力が拮抗する。いや、寧ろ純粋なパワーだけで言えばホシヒメが勝っていた。
「……なるほど、この暴力は魅力があるかもな……!」
「バロン君は力だけだとちょっと弱いもんねえ!」
ホシヒメの左拳がバロンの右拳を打ち破り、恐ろしいまでの速さで右拳が重ねられ、バロンはギリギリのところで両手で挟んで受け止め、顔を思い切り逸らすことで拳先から迸った閃光を避ける。
「甘いよッ!」
ホシヒメはバロンの手の力を強引に打ち破って手を伸ばし、彼の首を掴んで叩き伏せる。追撃に左手から輝きを放つ。バロンは超高速で動いて避け、右拳を放つ。だがホシヒメは可視光では捉えられぬ速度の挙動を目で追い、軽々と拳を受け止める。
「……すごいな、流石は勇者と呼ばれるだけはある」
「えへへ、それほどでも!バロン君、そんな単純な攻撃じゃ、私に一撃だって与えられないよ!せっかく主人公同士で戦ってるんだし、もっともっともーーーっと全力でさ!ぶつか――」
ホシヒメはバロンを放り投げ、一瞬で距離を肉薄させて合わせた拳を彼の腹にめり込ませ、そのまま開いて莫大な闘気を叩き込んで吹き飛ばす。
「ろうよッ!」
バロンは地面を削り取りながら吹き飛ばされ、すぐに立ち上がる。
「……全力か。確かに余力を残した状態で戦うのは、この貴重な機会を活かせていないな……!」
バロンは竜骨化する。ホシヒメが着地し、笑顔で竜骨化する。
「そうだよね!戦いはこうでなくっちゃあねえ!王龍結界とか、王龍式とか、詰まんない小細工も、舞台設定も要らないよ……ただ、ただ全力でね!」
ホシヒメが急接近し、眼前で輝きを放って頭上を取り、右拳を放つ。一瞬で空間の層を貫いて、僅かな隙間にすら振動と熱が起こる。バロンは腕を交差させて受け止め、弾き返し、指先から闘気弾を放つ。が、ホシヒメは左手で闘気弾を全て受け止め、右足で薙ぎ払い、自分の手を握ってエルボーで突進する。バロンは小さい動きで避けるが、尾を引く輝きが胸を焼き、ホシヒメは肘から地面に激突し、そのまま下半身を回転させて足を振り、連続で爪先を当てつつ上昇して体の向きを戻し、ダブルスレッジハンマーを放つ。バロンは蹴りの出始めを躱せず、だが後半の攻撃を避け、右拳を放ってホシヒメが両腕を戻すの制限しつつ、彼女は顔を逸らして避ける。バロンは右腕を引き戻しつつ左拳を彼女の脇腹に叩き込む。ホシヒメは両腕を戻し、彼の左腕を自身の右腕で抱え込み、大きくテイクバックを取って左拳を放つ。当然バロンも右拳を放ち、再び至近距離で両者の拳が激突する。
「バロン君、残念だけど、今回は私の勝ちかな!?」
「……まだ勝利を確信するには早いぞ……!」
ホシヒメはふっと力を抜く。バロンは読んでいたが、当然、相手にイニシアティブがある状況で退けるはずもなく、離れるのが遅れる。彼女の右手から輝きが放たれ、即座に着地したホシヒメが左拳でアッパーを放つ。完璧なタイミングでバロンの顎にそれが決まり、立ち上る輝きが天を貫いて迸る。
竜骨化を解いたホシヒメが着地し、輝きが収まる。バロンは片膝をついて堪えており、しかし竜骨化は解けていた。
「……見事だな」
「はい、どうぞ~」
ホシヒメはバロンに右手を差し伸べる。
「……友情の証、というものか。君はぶれないな」
素直に握り、立ち上がって握手する。
「今日でもっと友情が深まったね!」
「……ゼロが力を欲する理由がわかったような気がする」
手を離し、二人で並んで屋敷へ向かう。
「ねーねーバロン君、今度ここにゼロ君呼んでみよーよ!きっと楽しいよ!」
「……そうだな、そう言えば彼とも一緒に何かをする、ということはやってなかったかもしれない」
「よーし、けってーい!」
ホシヒメは元気に右腕を挙げる。
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