キャラ紹介:アラルンガル・アンナ



 始源世界 竜の墓場

 いくつもの河川が注ぎ込む大地の大穴には、純度の高いシフルで凝結した生物の骨々が堆く積み上げられており、その最中に長髪の栗毛の女性が佇んでいた。

「……」

 彼女は目を伏せ、周囲の空気を味わうように諸手を開いて天を仰ぐ。

「今日は善き日よ。なあ、わぬしもそう思うだろう」

 目を開き、呟く。影からいくつもの腕足が這い出て、彼女のすらりと伸びた足や、くっきりとした胸や腰に巻き付いていく。穏やかな日差しに照らされた腕足は、表面の粘液が反射して妙な輝きを放っていた。

「くくっ、どうした?今日は遠慮がちだな……」

 胸の谷間に食い込んだ腕足を撫でると、影の奥から腕足の主が出てくる。超巨大な頭足類の姿をした王龍――タンガロアが、彼女を見て吐息と共に口を開く。言葉は紡がれないが、それでも両者の間では通じているようで、彼女は頷く。

「じゃれ合うだけ、か。まあ、たまにはそう言う日があってもいいだろう」

 タンガロアと彼女は、大穴の中央にて共に日を浴びる。腕足は離れ、椅子のごとくなって彼女を腰かけさせる。

「静かなものよ。地上が滅びたなど、まるで夢のようだ」

 彼女はタンガロアへ視線を向ける。

「わぬしはどうだ?ここに眠っていたわぬしを起こし、伴侶にさせ、全ての王龍が次代の王座を奪い取らんと争う世界から引き剥がしたのだ。我に会わず、王座を狙う道、目指したかったか?」

 タンガロアは静かに巨大な瞳を明滅させる。

「そうか。わぬしは親切な竜だな。思えば、アルヴァナを狂乱させた別れは、こんな幸せな静寂への執着から生まれたのかもしれんな」

 一本の腕足が彼女の頬を撫でる。

「わかっているとも。我らは伴侶を残して去るなどと言うことは決してしない。たとい何者かと戦い敗れることになったとしても、必ず共に逝こう」

 虚空に響く瀑声が、木霊のように骨の合間を抜けていく。

「ふふふ……気の行くままに、静寂の中を生きる……これこそ、生物の楽園よ」

 日差しより目映い彼女の笑顔が、タンガロアの瞳に映っていた。

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