☆キャラ紹介:???

 ※重大かつ致命的なネタバレがあります。ご了承の上で閲覧ください。内容自体はほのぼのしています。


















 始源世界 渾の社

 湖を望む大社横のバルコニーにて、備えられた赤布の長椅子に、零と銀髪の幼女が並んで座っていた。

「……」

「……」

 両者は無言のまま湖を見つめる。鉛色の空と、注ぐ雪と、舞い散る紅葉が澄んだ無機質な湖面に彩りを与える。

「ソムニウム」

 幼女が先に口を開き、抑揚のない言葉を紡ぐ。

「何か」

 零は僅かにアクセントのついた発音でそう返す。

「結びつまびらかなりし時、お前は私に力を貸してくれるか」

「……。私の成すべきことが全て終を結んだのなら、喜んで。そっちのやるべきことは、例え創造主が消えたとしてもやらねばならぬことだから」

「感謝しよう」

 幼女は表情を微塵も変えない真顔でそう答える。

「感情はないくせに礼儀は知ってるの」

「……?礼節を尽くすのは戦略上有利だ。交戦しなければわからないことよりも有用な情報を引き出せる」

「なるほど、納得した。打算的じゃないとあなたじゃないと思ってたから」

「打算的で然るべきだ。そうでなければ損をする。想定された損失でない限りは、損をしただけ目的地から遠ざかる。より多くのリソースを割く必要が出てくる。それでは時間の無駄だろう。私の時間は、全てが有意義であるべきだ」

「今は?」

「無論有意義だ」

 幼女は右手で零の左手を握る。幼女の手は妙に暖かく、零の手は妙に冷えている。

「機会の面から見て、そもそもお前が私に会うのも難しく、私がお前に会うのも難しい。内容の面から見ても、お前から協力の約束を取り付けた。これを有意義と言わずして何とする」

「ふん。ふふふ……あなたは話していて不快感がないからいい」

「感情があるからそんな好き嫌いなどというものが生まれるのだ。尤も、こちらからすれば考察は出来ても理解は出来ん」

「感情の意義も定義も、恐らく感情を持った誰にも解することは出来ないと思う。だって、あなたの言う、『有意義』も、曖昧な事象を評価してポジティブかネガティブに分類する必要があるでしょ。感情を持たないというのが、果たして感情ではないとは、誰がどう言えるの?」

「ほう……確かにお前の言うところに矛盾があるのだろう。だが現に、私はお前の微妙な心の機微を読み取ることはできない。お前が笑んでいたとしても、そこに何かしらの意義を見出だすことはできない」

「感情を持つことと持たないことは境界を隔てて、異なる思考形態を持つだけの同類だと、私は思う」

 零は立ち上がりつつ幼女を横向きに抱き上げ、そのまま大社へ歩く。

「ご飯でも食べながら、あなたのその評価値の仔細を聞かせて欲しい」

「いいだろう。お前の情報と交換だ」

 何とも言えぬ会話を続けながら、二人はしばしの時を楽しんだのであった。

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