エンドレスロール:紫電のミサゴ

 エンドレスロール Chaos社海上基地・実験棟

 火の手が上がる基地は、想像よりも遥かに静寂に包まれていた。実験体の浮かぶ培養筒は軒並み破壊されており、裸体の少女たちが鋼鉄の床に放り出され、息絶えている。

 ミサゴはキャットウォークからその様を凝視する。

「人の世に、最たる破壊をもたらすのは紅蓮。だからこそ、人は革命を火にて表現する」

 振り返ると、そこにはランが立っていた。

「革命は成った。やつがれたちは自由を手にした」

「無駄なことを……我が主も、クインエンデ様もいないことに、疑問を持たなかったようで」

「だが奴がここを捨てたのも事実。後はここを任された、お前を倒すのみ」

「……」

 ミサゴは手摺から離れ、ランと正面切って向かい合う。そして余った袖から露出した、幼女らしい柔らかな手で自分の腹に触れる。

「空の器の胤……あなたのような使い捨ての命にすら、ここまでの力を与えるとは。中々の評価値であると言えます」

「ミサゴ……お前は、己の命が弄ばれているとは感じぬのか」

「わたくしは、命という概念を理解しない。隷王龍でなく、人に似せられてもいない。わたくしは獣であるがゆえに、竜に、自然に従うことに僅かな戸惑いもない」

「だが……その姿は紛れもなく人間だろう」

「人間の姿をしているからといって、人間として生きねばならぬ道理はない。わたくしとあなたは根本的に思考形態が異なる」

 燃え落ちたフォルメタリア鋼の建材がキャットウォークを破壊し、二人は落下し、鋼鉄の床に着地する。

「では……あなたに蓄積されたデータを回収するとしましょうか」

「仕方ない……問答の結果次第では我らと共に生きて行けるかと思ったが……」

 ランが槍を構える。

「ここで討つより他ないな!」

 槍を掲げて雷雲を産み出し、怒涛の雷霆が放たれる。ミサゴは両手を振るい、魔力で編まれた糸が吐き出されてそれらを全て受け流す。そのまま、跳躍で飛び上がり、ランの周囲へ糸の塊を乱射する。ランは光速で動いて脱し、大量の雷球を打ち出す。ミサゴは人差し指に繋げた一本の糸で全て絡め取り、瞬時にそれらを糸でくるんで射出する。ランが槍の高速回転で打ち返しつつ、雷雲からの雷霆を放つ。ミサゴは驚異的な空中制動でランの足に糸を巻き付け、一気に引き寄せる。

「くっ……これはスピログラフと同じ!」

 ランは雷霆で糸を素早く切断し、引き寄せられた勢いをつけたまま光速接近して刺突を行う。ミサゴは躱さず、穂先が胸を貫く。その瞬間に向けられた袖の中から大量の糸が噴き出し、ランを拘束する。繭のごとくなった彼女に火をつけて振り回し、糸から衝撃を産み出して跳ね回らせる。繭を破壊して脱したランへ向けて、ニヒロの幻影を産み出してそれから強烈な冷気を放つ。トラウマから来る反射的な硬直から対応の遅れたランへ、頭上に掲げた巨大な絵具の塊のようなものを弾けさせ、極彩色の弾幕を注がせる。着弾と共にそれらは蝋のように溶けてへばり付き実験棟全体を包む紅蓮が着火して極端に燃え広がる。更に糸で少女たちを括り上げて次々と放り投げる。体が崩壊しつつある少女たちの遺体は、ランに最接近する瞬間にシフルエネルギーへ戻って爆裂する。ランは冷気を受けた以外は直撃はせず、ミサゴに急接近しつつ電撃を纏わせた怒涛の刺突を放つ。根本的な速度の差が出たのか、ミサゴは躱しきれずに掠める。瞬間、ミサゴは自分の右手を思いきり振り下ろして、建材に括り付けていた糸が引かれ、大量の柱が落ちてくる。更に彼女は、ランが逃げるのを予測して、間合いに入った時点で準備していた大量の糸でランの四肢を封じて槍を奪い取る。巨大な柱がランを叩き落とし、そのまま床に叩きつけて腹が潰れる。ミサゴは着地し、ランの千切れた上半身を糸でくるんで繭とし、糸で持ち上げる。

「……」

 残った下半身も同様に繭にして持ち上げ、ミサゴは大炎上する実験棟を見渡す。

「万物は自ら然るのみ」

 言い残して、その場を去った。

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