エンドレスロール:異界の鏡像
無明桃源郷シャングリラ 終期次元領域
バロンとエメルは、いつもの岩場で向かい合っていた。
「……本当に何もないな、ここは」
呟くと、エメルが返す。
「居心地はいいでしょう?物思いに耽ったり、一人でボードゲームをやる分にはとてもよい場所です」
「……ああ。お前が居ないときにでも、一人で来てみようか」
「遠目から見ているのはダメなんですか?」
「……お前も意識を向けられたら察せられるだろう。そういうものだ」
「残念です。じゃあ、今回の記憶へ向かいましょうか」
二人並んでルナリスフィリアの前に立ち、その光に呑まれる。
エンドレスロール 黄金郷エル・ドラード
二人が降り立ったのは、燃えるような夕日に照らされた、荒廃しきった遺跡だった。
「……エル・ドラードか……まさか、ディードじゃないだろうな」
バロンがそう言うと、エメルが肩を竦める。
「再現だったとしても勝ち目などないですよね。私も、バロンも。それにディードだったとしたら私もここまで冷静にはなっていませんよ」
「……まあ、彼女とはもう一度だけ会ってみたくはあるが、な」
バロンが遺跡――コロシアムの残骸に足を踏み入れると、観客席の中央にある高台に、突き立てられた剣の前に立つ騎士が居た。
「こんなところに誰が来たのかと思えば……宙核か」
騎士が言葉を発する。そして剣を掴み、飛び立ってバロンが居るフィールドに着地する。騎士の容貌はまさに白金零そのものであった。
「……お前は……ヌル、か」
そう、彼女は白金零のクローン、ヌルであった。
「そうだ。私は長い時を経て、私自身となった。ソムニウムを越え……今ここに辿り着いた」
彼女の持つ長剣は鈍い輝きを放つ単調な諸刃で、さして強力な得物には見えない。
「……僕がここに来た、その理由がわかるか?」
「無論だ。私を倒しに来たのだろう?ならば、会話はここまでとしよう」
ヌルが開幕から滑るように距離を詰めて剣を引いて構える。バロンは踏み込んで拳を放つと、ヌルは構えた剣を瞬時に眼前に引き戻し、拳を弾いて大きく構えて振り下ろす。しかしその攻撃は右拳に弾かれ、左足での蹴りからの拳の連打を放たれる。ヌルは全て剣で防ぎ、飛び上がって剣を振るい、切っ先から真空刃を三つ飛ばす。そんな軽い攻撃が届くわけもなく、バロンは瞬時に追いかけて拳を振る。ヌルはまたも強固な防御で凌ぎ、続く拳圧が硬直を延ばさせ、小さめのアッパーから踏み込みからの振り下ろしで地上に叩き落とし、手刀を構えて降下する。ヌルは後方に身を翻しつつ最初に見せた構えを行い、手刀を空振った隙を狙って突進する。バロンはその全体的に生温い挙動を気にしつつも、意に介さず強烈なカウンターを叩きつけて吹き飛ばす。鎧が砕け、ヌルが堪える。彼女がいきり立つと、即座に竜人へと竜化し、長剣を掲げる。鈍い外装を貫くように虹色が溢れ出す。外装が剥がれ落ち、虹の剣が現れる。
「……やはり……
「戯れはここまでだ」
星虹剣を地面に突き刺すと、次々と巨大な水銀の刃が隆起する。光速で接近してバロンが躱しつつ反撃を狙うと、ヌルはカウンターの構えを再び取り、バロンは反撃の反撃を狙ってそのまま攻撃するが、拳を剣の腹で捉えた瞬間に彼女は体を翻し、再三の構えから突進する。明らかに先程よりも動作が素早く、逃げきれずにバロンは切り上げられる。彼を囲むようにいくつも鏡が産み出され、そこからヌルが次々と現れては剣を振るう。バロンがそれらを防ぎきった瞬間に、高空からヌルが急降下しつつ剣閃する。鋭く強烈な一撃だが、彼は防いで互いに着地する。ヌルが続けて十字に空間を斬ると、鏡が三つ現れてそこから水銀の刃が放たれる。バロンも同じように鋼の槍を放って相殺し、急接近する。ヌルは鏡に融けて逃げ、上空に現れて星虹剣から輝きを放ち、地表から大量の刃を隆起させる。不規則な挙動で実質的にバロンの反撃を封じつつ、ヌルは急降下しつつ星虹剣を地面に叩きつけ、その光の波を放ち、更に三度剣を振り、光の刃を飛ばす。バロンは落ち着いて防御し、間髪入れずにヌルは地面に星虹剣を突き立てて竜巻をいくつも起こし、並べ立ててバロンへ飛ばす。バロンは竜化し、黒鋼は鋼の波を起こして竜巻を打ち消しつつ、小さく跳躍しつつ両腕を叩きつける。ヌルは再びの防御からのカウンターを極め、更に切り上げから鏡の追撃を行う。先程と違って拘束が行えていないために攻撃力は大幅に低く、黒鋼が平然と拳を叩き込んで後退させる。
「ならば……」
ヌルは飛び立ち、剣を構えて四人に増加する。星虹剣を振るい、光の刃の弾幕が放たれる。黒鋼には通用しなかったが、瞬時に二体が動いて十字に切り裂きつつ刃を放つ。もう一体が地面から巨大な刃を産み出し、最後の一体が遺跡の残骸を黒鋼目掛けて落とす。十字の一体を叩き落とすが、残りの猛攻を全て喰らい、残骸に続いて一体が一閃する。更に一体が切っ先から光線を撃ち放ち、黒鋼が狙った一体はカウンターに入る。二体が竜巻を起こしつつ、残る一体が十字を放つ。カウンターの斬撃を受け、黒鋼は竜骨化して、拳をその挙動の僅かな隙間に差し込んで吹き飛ばし、竜巻をすり抜け、十字を放ったヌルを殴打する。弾けた闘気が残りのヌルを牽制し、一気に踏み込んで撃掌を叩き込み、強烈な正拳を極め、止めにアッパーを与えてそのまま破壊する。そこへ残る三体が急降下による強烈な一閃を叩き込み、そのまま水銀の刃を隆起させる。バロンは僅かな移動を行い、位置取りでそれらの攻撃を躱し、素早く踵側から回し蹴りを行って一体を離し、弾けた闘気で更に硬直させ、踏み込み連打からの竜骨闘気の波動で消し飛ばす。残った二体は巨大なシフル塊を産み出して、それをバロンへ飛ばす。続けて遺跡の残骸を大量に産み出し雨のごとく注がせる。バロンは地面から鋼の盾を産み出して防御し、それを凝縮して槍とし、放る。回避しようとした一体を正確に射抜き、消滅させる。ヌルは降下し、再び向かい合う。
「……全く同じ実力を持ったまま四人に増加するとは……離れ業だな」
「それはお前にも言えることだろう。正確に連携の綻びを突くとはな……」
ヌルは剣を構えつつ飛び退き、高速で振るって衝撃波を飛ばす。続けて竜巻をいくつも起こし、水銀の刃を隆起させる。バロンは前進しつつ拳を放ってヌルに強烈なストッピングを起こさせ、頭を掴んで地面に叩きつけ、止めに拳を叩き込んで消し飛ばす。吹き飛んだ星虹剣が地面に突き刺さり、バロンは竜骨化を解く。
「……ふう」
程無くして、閃光が辺りを包む。
無明桃源郷シャングリラ 終期次元領域
バロンが目を覚ます。
「……今回も中々の強敵だった」
その言葉にエメルが続く。
「そうですか?危なげなく勝っているように見えましたが」
「……この間のランたちは、他人同士であそこまで連携していたが、今回は一人で四人分の挙動と戦略を担当していた。あんな動きは、ソムニウムを写し取って作られた彼女にしか出来ないだろう。見た目以上に、難しい戦いだった」
「なるほど確かに。単なる攻撃の一部でしかない分身に比べて、複数を同時に動かすと言うのは、常軌を逸した計算能力が必要ですね。ミズナギは基より、あのゼロですら使うのは質量を持った残像……単純に戦力を四倍にしつつ別々の挙動を行う……ヌルを作ったのはエンゲルバインですが、まさかここまでとは」
「……ニヒロやユグドラシルの技術の流用なのだろうが、あとは本人次第なところも大きいのだろうな……」
バロンがルナリスフィリアに近づく。
「……まだ新しい記憶はあるか?」
「ええ。今回はもうひとつあります」
「……よし、行こう」
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