☆エンドレスロール:結審の夢見鳥

 ※致命的なネタバレがあります。ネタバレを予習しておきたいスタンスの人以外は、完結してから読むことをおすすめします。



















 エンドレスロール 滅びの墓標テスタ・ロッサ

 次にバロンたちが訪れたのは、雪景色の中に赤いパイプが行き交う都市だった。

「……テスタ・ロッサか。懐かしいな」

「ええ、そうですね……ヴァンダ・リーズの治めた、妄想と享楽の街……滅びを弔った墓場、それがテスタ・ロッサ」

 エメルがルナリスフィリアを握ったまま先を見やる。

「バロンは、結審の夢見鳥という存在を知っていますか?」

「……いや……なんだ、それは」

「実は、先の最終決戦の時、〝それ〟は現れたんです。ソムニウムにも匹敵する、強大な力の持ち主……あんなに強い気配を放っているのに、なぜ私たちは今までその存在に気付けなかったのか、甚だ疑問です。聞いたことはありませんか、バロン。原天使……ラドゥエリアルの名を」

「……」

「結審の夢見鳥、白の神子とも呼ばれています。同じエリアルの名を持つ、あなたの最愛の人との関係性は不明ですが、一説にラドゥエリアルは、ニヒロの最初の被造物だとか」

「……そんな奴がいたのか。本当に初耳だな」

「まあ、眉唾物だと断じて頂いても構いませんが……夢見鳥を追えば、最終決戦での謎の一つ、空の器がソムニウムに勝てた理由の証明が出来るかも知れません」

 そんな話をしていると、二人の合間を灰色の夢見鳥――もとい、蝶が通り抜ける。二人は思わず目を惹かれ、見つめる。蝶は眼前の広場で止まり、鮮やかな粒子と共に人の姿を現す。それは、銀色のショートカットで、レオタードとトーガを組み合わせたような衣服に身を包み、董色の瞳を備えた、無表情の幼女だった。

「私の話をしているか、アデロバシレウス」

 幼女は抑揚の少ない声で、バロンへ言葉を投げる。

「……アデロバシレウス?」

 聞き覚えのない名前に、幼女はただ言葉を返す。

「ここはルナリスフィリアの中か。ユグドラシルの怨念に誘い込まれたということか」

「……何を言っている。ルナリスフィリアの記憶ではないのか」

「記憶……なるほどな。この空間の仕組みはわかった。ソムニウム……そうか。遥か、頂の世界へ行かんと」

 幼女が右手に持っていた錫杖を両手で持ち、目を閉じる。

「私は結審の夢見鳥。世界が晩刻を迎える日に、結審を告げるために降臨する」

 地面に血塗れの穴が開かれ、血の海から明人の遺体が浮き上がってくる。幼女は錫杖を地面に突き刺し、両手で明人を持ち上げる。

「空の器よ。哀れな欲望の鏡よ。今一度、私と一つとなろう。お前の力、審判の刻より薄れ行こうとも、私一人の力で十分だ」

 幼女が夢見鳥へ戻り、明人は頭を上に、足を下にして浮き上がる。そして彼に凄まじい力の波動が加わり、真黒い姿の騎士が現れる。

「結審は来たれり」

 騎士は着地し、右手を掲げる。するとその手に、虹色に輝く長剣――銀白猛吹雪の星虹剣が握られる。

「構えろ、アデロバシレウス」

「……」

 バロンが拳を構え、エメルが退く。騎士は衝撃波を放ちながら瞬間移動し、現れつつ急接近して剣を振るう。接近・剣速共に異次元の領域であり、バロンでさえ防御が紙一重になる。騎士は再び衝撃波を伴いつつ消え、現れた瞬間に両手から強烈で不快な音波が響き渡る。バロンが衝撃波の隙間を縫うように接近するが、瞬時に反応して騎士は消える。次に現れる瞬間を見計らい、バロンが拳を放つ。騎士は狙い通りに現れ、そして剣の腹でそれを受け止める。

「……その手のカウンターはもうこりごりだ……!」

 騎士が大きく振りかぶった瞬間、バロンは竜骨化して加速し、騎士の脇腹に強烈な打撃を叩き込む、騎士は大きく翻って堪え、剣に纏わせた紅蓮を真空刃と交えて飛ばし、更に剣を逆手に持って地面に突き刺し、虹色の爆発を地面から炸裂させる。竜骨闘気の鎧がそれら全てを打ち消し、バロンが猛進する。騎士は瞬間移動で後退し、剣を振るうと、刀身から大量の小型の霊魂のようなものがバロン目掛けて飛んでいく。バロンは同じように小型の闘気弾を放って打ち消し、一撃を届かせる。しかし、僅かに後退した騎士が剣を振るい、刃先が強烈な衝撃を産み出し、拳先と干渉し合ってバロンが怯み、騎士が突進から螺旋状に切り上げ、頭上から巨大な炎の刃を産み出してバロンを叩き落とす。バロンは直ぐ様受け身を取り、騎士は瞬間移動を乱発して撹乱しつつ剣を振るって熱波を飛ばす。そして騎士は右手から星虹剣を消して力み、巨大なシフルエネルギーの刃を両手に持つ。瞬間移動から振りかぶり、巨大な刃を振り下ろす。切っ先の遷移に伴って強烈な音波が響き渡り、地面に届いた時点で周囲の地面が捲れ上がるほどの衝撃が起こる。騎士はバロンの反撃を待つことなく消え、同じように現れては刃を振り下ろす。そして消え、現れ、最後に両手の刃を交差するように振るう。響きあった音波が絶大な衝撃を起こし、辺りの建造物を片っ端から粉砕する。バロンは防御に徹し、端から見ていたエメルも巻き込まれぬよう細心の注意を払って退避する。やがて騎士は刃を消し、星虹剣を持って着地する。

「遠慮は要らないぞ、アデロバシレウス」

 相変わらず抑揚のない、悪意も善意もない言葉の羅列が紡がれる。

「……僕も遠慮しているつもりはないが?」

 珍しく、語尾に若干の怒気を混じらせつつバロンが答える。

「所詮は全ては儚き夢の如し。我が翅より零れたる鱗粉こそ、悪へ堕ちたる者の道標。現と虚の狭間こそが我らが垣間見る世界なれば」

「……この剣の中で戦い続けることもまた、僕たちにとっては現実に他ならないと言うことか」

「王龍なき世界で、私は審判となる」

 騎士は衝撃波を伴いながら瞬間移動しつつ、音波を放つ。くどいほどそれを高速で繰り返し、霊魂を飛ばす。超高速で接近し、剣を振るう。バロンは剣を弾き、鋭く下段から放った指先から闘気弾を放ち、更に貫手を差し込んで兜に衝撃を加え、握り締めた拳から連撃を打ち込み、弾けた闘気で更に攻撃の時間を稼ぐ。騎士は瞬間移動で逃げ、伴って弾けた衝撃波がバロンを襲い、騎士は大きく構えて剣を振り下ろし、地面を炎が走る。そして再び空中に飛び、両手に巨大な刃を構える。瞬間移動から振り下ろすが、バロンは流体の鋼を産み出して盾とし、響き渡る音波の嵐を突破し、刃を引き戻すその僅かな一瞬の隙に盾を槍へ変えて騎士を貫く。バロンは間髪入れずに拳を叩き込んで地面に落とす。騎士は刃を消して受け身を取り、槍を引き抜いて捨てる。

「……」

「空の器の記憶、悪い出来ではなかった。流石はソムニウムの得物と言ったところか」

 騎士から灰色の夢見鳥が離れ、明人の遺体は地面に倒れ、そのまま沈んでいく。夢見鳥は幼女に戻る。

「この記憶の世界……戯れには十分だな。アデロバシレウス。そしてメリアンナ。機会があればまた会うとしよう」

 そしてすぐに蝶に戻り、そのまま飛び去っていった。崩れた家屋からエメルが現れ、バロンに並ぶ。

「あれが……ラドゥエリアル、でしょうか」

「……知らん。だが自分から結審の夢見鳥を名乗る者もそう多くはないだろう」

 ルナリスフィリアが光を放つ。


 無明桃源郷シャングリラ 終期次元領域

 二人が岩場に戻ると、無限の闇の中をひらひらと灰色の夢見鳥が飛び去っていくのが見えた。

「……今回のことはエリアルに聞いてみよう。もしかしたらアリシアたちが何か知っているかもしれないしな」

「ええ、よろしくお願いします」

「……また記憶が生まれたら呼んでくれ」

 バロンは歩み去っていった。

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