夢見草子:血と汗で幸福を買え

 Chaos社ブラジル区支社

「フンフンフーン♪月香チャンから作ってもらったこの義体を使うときが来たネー」

 鎧に身を包んだ竜が上機嫌に機械の調整をしていると、後ろから金属音が近づいてきた。

「デイブ、ちゃんとトラツグミ様の命令を果たせるのでしょうね?」

「心配しないでYO燐花。俺が仕事で失敗したことがあるかナー?」

「いえ。ですけど、明人くんの御手で作っていただいたのに、それを理解せず狂ったあの疑似吸血鬼を塵も残さず殺せますか?」

「……俺はもらった分は働く主義なんだよ。知ってるだろうが」

「あまり熱くならないように。では私は明人くんのもとへ行ってきますので、いい報告を待っていますよ」

「わかってるYO」


 南アメリカ区・デッドマンズストリート 

 視覚情報の中にタブが現れ、無線メニューを開く。鬼のような形相のトラツグミが、怒りを露にした声を出す。

「マレ、いいえ、人工過密地区調整兵器。高柳支部長に攻撃を加え、竜を数匹殺害し、そしてコルコバードに逃げるまでの道中に居たChaos社以外の民間人を殺害しないという暴挙を先程から繰り返していますが、これにどういった意図があるのか説明していただけませんか?」

 トラツグミの周波数を弾くように自身の無線モジュールを設定し、デッドマンズストリートの難民キャンプを歩く。

「あの……」

 道端に布にくるまって座り込んでいる人に話しかける。50代と見えるその男性は、マレを見るなり顔を伏せた。

「(そりゃ……ダメ、よね……)」

 その男性から話を聞くことを諦めて、難民キャンプの一区画の廃屋の屋根に飛び上がる。

 そのとき、また視覚情報に無線メニューが開く。

「トラツグミ、悪いけどアタシは反省とかしてな―」

「HEY!元気にしてるかいお嬢ちゃん!」

「イェーガー……」

「残念だYOー、君はけっこう話すのが面白い人だったんだけどナー」

「何、アンタもアタシを責めるの?」

「ノンノンノン。俺は私怨とか関係なくテー、ただ燐花に頼まれたから君を殺るんだYOー。今難民キャンプに居るんでショー?早く逃げないともう一回そこを焦土にすることになっちゃうから、自分で考えて逃げてネー!」

 無線メニューは会話が終了したことで切断され、急いでキャンプから離れ、沿岸部の方向へ屋根伝いに駆け抜ける。



 ブラジル区・デッドマンズストリート

 屋根を次々と飛び越え、次第に焼け野原が見えてくる。夥しい量の血がところどころにこびりついていて、激戦の跡を思わせる。

「どうにかしてDAAまで行けば、別の世界に行って仲間を作れるはず……!」

 先を急ぐために一歩踏み出そうとすると、頭上に光の渦が生成される。その渦から、次々と人間が降下してくる。

 Chaos社のエンブレムを胸につけた特殊スーツを着たその集団は、マレ目掛けてアサルトライフルを構えた。

「(あのエンブレム……リンカの直属兵……)」

 兵士が発砲するよりも早く、一番近くに居る兵士のヘルメットを掴み、首を捻じ切る。そして死体を盾に銃弾を凌ぎ、次に近い兵士に投げ飛ばし、倒れ込んだところを死体ごと右腕で刺し貫き、引き抜き、滴る血を後方の二人の兵士へ飛ばし、それぞれの息の根を止める。

 残った一人の兵士はアサルトライフルを捨て、左胸を発光させる。みるみる内にその姿は鎧に身を包んだ天使のようになり、右手に持った槍から無数の光を発射した。

「力天使かっ!」

 光を後ろに下がって避け、地面に指を突き刺して、土塊を持ち上げて投げ飛ばす。力天使が槍でその土塊を両断し、その影から現れたマレに首を捕まれて千切られる。血の代わりに赤い光を溢れさせて、力天使は倒れた。

「遊んでるわね、アイツ……!」

 マレは明人が手加減してこの兵士を送ったのだろうと考えて、少しイラついた。が、すぐさまそれを無駄な思考と切り捨てて、焼け野原を進む。


 ブラジル区・デッドマンズストリート沿岸部

「飛行用ビークルを全て破壊し、デミヴァンプのIDではワープゲートも開かないようにしておけ。自身の絶命時に自身の機密データ全削除を行う設定をしておき、悪魔化プログラムの動作確認をしておくこと。いいか、最終的には、俺の義体があるここへ奴を誘導しろ」

 イェーガーが無線メニューの会議システムを使い、配下の兵士へ情報を伝達する。作戦を理解した兵士がマップ上の赤い点で示され、所定の位置についていく。

「さすがはデミヴァンプ。こんなに早く来るとはな……だが」

 遠くで激しい音が聞こえる。どうやら吸血鬼が戦い始めたらしい。

 ―――……―――

 ワイヤーで四方八方から手を絡め取られ、その場に釘付けにされる。ワイヤーの先にはChaos社の兵士がアサルトライフルを構えており、ワイヤーはそのアサルトライフルのアンダーバレルから放たれていた。マレはワイヤーを力任せに引っ張り、Chaos社の兵士をぶつけて気絶させる。コンクリートとコンテナの間を猛スピードで駆け抜け、大ジャンプで高所にあるコンテナにしがみつこうとしたとき、捕まろうとしたコンテナに成型炸薬弾が炸裂し、マレの体が吹き飛ばされて地面に叩きつけられる。急いで起き上がると、陸地の方から大量の兵士が来ているのが見てとれた。態勢を建て直すために、マレは沿岸部の方へ走る。コンテナの合間を道なりに進むと、広場に出た。後ろで通った四角い枠が突如として閉まる。動体感知式のゲートだったらしい。

 不審に思ってゆっくり歩くと、広場の回りにある柵が光り、障壁を作り出す。

「HEY!デミヴァンプ!ここまでご足労いただいてすまないネー!」

 沿岸のコンテナの影から、鎧に身を包んだ竜が現れる。

「アフリカからわざわざ来るなんて、そっちも結構な遠出じゃない」

「HAHAHA!いやあ、可愛いウチの上司のためなら云々ってネ。君を殺すのは……ほんのちょっぴりだけ悲しいけどモ、これが仕事だから仕方ないネー。つーことでサ……死ねや!」

 イェーガーの鎧の後方から四枚のプレートがマニュピレーターの先について展開され、イェーガーの竜の鼻面を、フェイスガードが覆う。

「さあ構えろデミヴァンプ!この俺が、テメエをスクラップにしてやるよ!」

 マレの虹彩が赤く染まり、視覚情報にcarnageの文字が浮かび上がり、全身の筋肉が唸りを上げる。マレが凄まじい勢いで飛びかかり、イェーガーが素早くプレートを平面に並べ、その攻撃を受け止める。その瞬間、プレートは発光して爆裂し、マレを吹き飛ばす。

「ハハハ!雑魚にはこれがERAということすらわからんか!」

「げほっ、げほっ、爆発反応装甲……!?」

「むやみに攻撃するとテメエの体が塵になっちまうぞ。ハハァ、愉快愉快。俺より弱いバカが勝手にボロボロになるのを見るのは楽しいぜ」

 マレは口に溜まった血を吐き出し、手につけ、血を刃にして投げつける。それはイェーガーの体に全てクリーンヒットしたが、イェーガーは気にもしていないようだ。マレは続けて、イェーガーの頭上にコンテナを放り投げ、素早く後ろを取って左腕を背中に捩り混む。が、力一杯に突き立てた指は背中に当たるとひしゃげ、その光景の鮮烈さに思わず怯む。そこにイェーガーのERAが左右から迫り、挟み込まれて爆発し、地面に叩きつけられる。意識が朦朧とする中で、イェーガーに頭を掴まれて持ち上げられる。

「あーあ、明人人事部長が折角こだわった金髪ロリが台無しだな。なんたってこんな脳ミソ詰めたんだか。ほんっと、胸糞悪ぃよなぁ!」

 力を込めてマレの頭を潰そうとしたとき、マレがイェーガーの顔面に強烈な蹴りを入れる。先程投げたコンテナにイェーガーは叩きつけられ、マレは尻餅をつく。

「チッ……このクソガキ!」

 イェーガーがERAを前方に構えて突進してくる。ERAの隙間に指を捩じ込んで突進を止め、ERAを抉じ開けてみぞおちに全力の正拳突きを叩き込む。イェーガーの視界が一瞬歪み、行動を停止する。イェーガーは頭を掴まれ、鼻面に膝蹴りを喰らい、素早く足を払われて態勢を崩され、足を掴まれて地面に叩きつけられる。そして無理矢理マニュピレーターを引き抜かれ、脇腹に鋭いキックを受けて海へ吹き飛ばされる。

「ぜぇっ、ぜぇっ。ど、どんなもんよ!アタシを殺そうなんて……百年、早いんだから!」

 残りの力を振り絞って、イェーガーへの悪態をつく。そしてイェーガーが落ちていった海に背を向け、その場から離れようとしたとき、唐突に地面が揺れる。

「何!?」

 マレと海の間にあるコンクリートの地面がひび割れて深い穴へと落ちていく。その穴の中から、凄まじく巨大な機械が姿を現す。

「舐めるなメスガキが!テメエのような乳クセェ女風情が、一丁前に戦ってんじゃねえ!元々生きて返すつもりなんて無かったが……あったま来た!ブラジルごと焼け死ね、デミヴァンプ!」

 機械は爆音を発しながら背面にある超巨大なブースターを点火し、穴からその全貌を示す。左腕をマレへ構え、先端にある銃口に光が揺れる。マレは大急ぎで横へ走り、その後ろを強烈な熱が通りすぎる。間一髪回避し、熱の通りすぎたあとを見ると、コンクリートの地面は跡形もなく消えていて、その直線上にあったコンテナも一つ残らず消滅していた。

「何よこれ!法外にも程があるでしょ!」

「黙れメスガキ!」

 機械の右腕が持ち上がり、マレを狙う。避けきれないと判断したマレは、それを両腕で受け止める。

「ほう、やるじゃねえか!だがな!テメエに勝ち目なんてねえんだよ!」

 右腕の装甲が開き、そこから無数の多目的榴弾が発射され、マレに直撃する。態勢を崩したところに、イェーガーが機械の右腕の出力を上げる。マレはコンクリートと右腕の間に押し付けられ、視覚情報が歪む。イェーガーは機械の右腕を持ち上げ、機械の頭部にある竜の頭を模したエネルギー砲にパワーを溜める。エネルギー砲が発射される刹那、マレはすぐ近くにあった多目的榴弾の不発弾を掴み、至近で爆発させ、爆風でエネルギー砲から逃れる。エネルギー砲は左腕の光と同じく、コンクリートを消し炭に変え、コンテナの群れを焼き尽くし、その上でちょうどブラジル上空に漂っていた人工衛星を撃ち落とした。

 遠くで凄まじい大きさのキノコ雲が上がる。

「ちょこまかと……うっとおしいんだよクソが!」

 機械は全身の装甲を開き、夥しい数の多目的榴弾を放つ。マレはその弾を足場に機械へ接近し、右腕の関節部分へ渾身の一撃を叩き込む。フォルメタリア筋繊維の人工筋肉が切断され、赤い人工血液を垂れ流しながら機械の右腕が落ちる。

「バカな!フォルメタリア筋繊維をその細腕で切り捌くだと!?」

 轟音と共に右腕が裂けたコンクリートの間に落ちていく。左腕でマレの居た場所を薙ぎ払い、さらに重ねて先程の光線を発射しながらもう一度薙ぎ払う。辺りが火の海へ変わり、マレの姿を見失う。

「チッ、あのメスガキどこ行きやがった!」

「ここよっ!」

 その声とともに左腕の関節に無数の刃が刺さっていることに気付く。と同時に、その刃が爆裂し、そしてマレが下からその関節を引き千切って現れる。機械は大きく態勢を崩し、前のめりになって倒れ、マレはその背中に着地する。

 機械の背中から円柱が生えてきて、それが花弁のように開く。

 中から、煙と共にイェーガーが出てきた。

「このクソが!折角月香様から賜ったインベードアーマーをお釈迦にしやがって!」

「ERAもこいつも壊れたんだからもう勝ち目はないでしょ!アタシを逃がしなさいよ!」

「ハッ、何言ってやがる。おらぁ!」

「生身で突っ込んできても無駄よ!」

 イェーガーが突進する。マレはそれを受け止めようとしたが、予想外のパワーに吹き飛ばされて機械の上を転がる。

「これは……どういう……」

「俺は生まれつき体が死ぬほど頑丈でな。焦土核爆槍を受けて死ななかったときは自分の体質を呪ったが……今はこんな体質で良かったと心から思えるぜ」

「なるほど、反動がどうこうっていう脳のリミッターが外れてるから人間が本来持つ最大限のパワーをいくらでも行使できるってわけ……」

「いい体だろう。インベードアーマーで竜になってから更に強化されたからな」

 そう言ってイェーガーは自身の拳を突き合わせ、鼻面にフェイスガードを再び装着する。

「燐花が殺せといったやつは必ず殺す。俺は仕事を失敗しない。誰が主だろうと、仕事だけは絶対に失敗しない」

 イェーガーはバックラーを開いた円柱の中から取り出す。

「死ねデミヴァンプ。燐花のために、俺の仕事の完遂のために」


 イェーガーが右腕に力を込め、マレへ突進する。マレはそれを蹴りで弾き返し右の脛に蹴りを叩き込む。イェーガーが怯まず左腕でパンチを繰り出す。マレも右腕でパンチを繰り出し、いわゆるクロスカウンターの形を取るが、イェーガーのパンチが僅かにマレから反れ、マレのパンチがイェーガーの首に直撃する。そのまま殴り倒し、股間目掛けて思いっきり蹴りを入れる。イェーガーが縦回転で機械の上を転がり、何事もなかったかのように起き上がる。

「まさかそんな程度で俺を倒せるとでも?」

「いえ全然。だってアンタ、本当に追い詰められたら黙るでしょ」

「クソが」

 マレがイェーガーへ走りより、イェーガーのパンチを躱し顔面に裏拳を一撃かましてフェイスガードを破壊し、更に体内に流れる血液を両腕に集中させて顎に右アッパー、左腕で左胸に正拳突き、そして腹にラッシュを加えて、渾身の一撃を胸にめり込ませて吹き飛ばす。

「(クソ、なんでこんな化け物兵器に知能なんて与えたんだ杉原は!)」

 イェーガーは心の中で悪態をつきながら、しかし多少のダメージしか負っていない体を起こし、再び構える。

「少しは痛いんじゃないの?」

「バカを言うな。俺はまだまだだ。そういうデミヴァンプ。お前こそ限界なんじゃないのか」

「まだまだ全然戦えるわ、生憎ね」

 マレとイェーガーは再び殴り合い、その度にイェーガーが吹き飛び、平然と起き上がる。マレは全力で攻撃し、次第に疲弊していった。

「どうした?もう終わりか?」

「なんで……こんなに……頑丈なのよ……!」

「俺の体のナノマシンのフィードバックを見るに、俺が今全身に負っているダメージは、人間が22億回死ねるダメージだ。ちなみに、焦土核爆槍によるダメージは人間が2兆人死んでやっと威力減衰が見られるらしいぞ。つまりだ、俺は人間の生命力を2兆人圧縮したよりもしぶといってわけだ。どうだ?楽しいだろう?増えすぎた人間を多少間引く程度にしか作られていないテメエには、どうやっても倒せねえってこった」

「どれだけ……しぶとかろうが……心臓が、脳が死ねば同じことでしょ……!」

「どうだか。試してみるか?まあもう、その必要も無いかもな」

 二人の頭上にワープホールが出来上がる。その光の渦から、炎でできた旗槍が機械の上に突き刺さる。

「何を……!」

「ウチの乙女な大将のご到着だ」

 槍に続いて、黒い鎧の女が光の渦から降りてきた。

「時間がかかりすぎです、デイブ」

「あともう少しだったんですけどネー。いやね、俺もがんばったんですYO?グレンツェ・パンツァーは壊されるし、お手製のERAも千切られるし」

「そうですか。まあ、報酬はあとで考えてあげます。……疑似吸血鬼。私が来たからには、生きる選択肢などないと悟りなさい」

「月城燐花……アンタもおめでたい女ね。あんなクズのために命を張ってるなんて」

「ふん。AIの貴方にはわかりませんよ。あの人が私にとってどれだけ大切か……」

 イェーガーが少し呆れたように距離を取る。

「デミヴァンプ、ウチの大将の強さはよく知ってるだろうが、今のテメエじゃ俺以上に何しても無駄だと思うぜ」

「それでも……アタシは自由になるわ!アンタたちが邪魔するならどっちも倒して進むだけよ!」

「明人くんに刃向かうものには、炎の祝福を」

 燐花は刺さった旗槍を引き抜き、風に靡く炎の量を大幅に上げた。

 鎧の後方から炎を噴射し、半ば翔ぶような形でマレの方へ突っ込む。右手で反応の遅れたマレの左頬に強烈な拳を捩じ込み、間髪入れずに旗槍で空中へ打ち上げる。

「明人くんが言っていました。反逆心のあるAIをあえて調整しない代わりに、ゼナやトラツグミさんと違ってセーフティモードを新しく搭載したと。それがどんな風に機能するのか今日まで知りませんでしたけど……こういうことですねっ!」

 落ちてきたマレは何故か抵抗せず、燐花の蹴りをモロに受けて大きく吹っ飛ぶ。

「なんだ……?あのメスガキ動かねえぞ……?あのー、大将?そいつ死んじまったんデスカー?」

「いえ、セーフティモードになっただけです」

「どういうことだYO」

「身体に激甚な損傷を受け、脳パーツに被害が出る場合、全ての機能を停止して脳の生存に特化する。それがセーフティモードです」

「え、いや、しかし……俺のインベードアーマーの攻撃を何度も受けて、ERAの直撃を何回も喰らって、しかもここで何時間か戦ってたんだぜ?どうして今まで発動しなかったんだYO」

「さあ?今満支部長がデチューンでもしていたのではないのですか。それか私の腕力がありすぎたか」

「(絶対後者だろ……)」

「今女性に対して失礼なこと考えたでしょう」

「え!?そ、そんなわけないYO。それよりも、早くそのメスガk……じゃなくて、マレを回収して日本に戻るYO」

「ええ」


 セレスティアル・アーク

 イェーガーが、執務室の扉を開ける。

「HEYトラツグミサーン。デミヴァンプの戦闘データを持ってきたYO」

「ふむ、ありがとうございます。………………」

 思案顔のトラツグミに、イェーガーは話しかける。

「あ、アノー、俺もう下がっていいかナー?」

「ええ、結構ですよ。ああ、一つだけ。燐花様に、明人様がお呼びだったとお伝えください」

「りょーかいだYO」

 イェーガーがそそくさとその場を去る。

「(やはり……明人様が戯れに搭載なさった反抗心が、少々厄介なノイズとなっていますね……やはり感情は一部封印して、別の記憶で上書きしてしまいましょう)」


 イギリス・DAA特区 キャリアー

 イギリスの上空を飛ぶ輸送機の中で、イェーガーとマレが向かい合っていた。

「おい起きろメスガキ」

「その呼び方止めてくれない?」

「いいか、今回の任務はDWHの力の測定だ。レイヴン・クロダとロータ・コルンツは我が社にとって有益だが―」

「もういいって。それブリーフィングで腐るほど聞いた」

「ともかくだ。降下は五分後だから準備しておけ」

「はーい」

 まるで別人のようにマレは答え、暫し静寂が空間を支配した。

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