エンドレスロール:滅撃のミズナギ

 エンドレスロール 創世の底

 黄昏が覆い尽くす、球状の世界。かの地にて閃いた暁光によって黄昏が貫かれ、無明の闇が噴き出してくる。操核を目前に見据えるとある浮遊大地に、マレが立っていた。そんな彼女に向かい合うように、短めの金髪幼女が佇む。

「死に損ないはちゃんとボコボコにしないとねっ!」

 幼女が屈託の無い笑みを向けると、マレは一笑に付す。

「生憎、今のアタシは自分と向き合ったの。ただのセックス狂いのアンタと一緒にしないで、ミズナギ」

 マレに挑発され、幼女――ミズナギは露骨に不機嫌な表情になる。

「お前なんかに僕を侮辱する材料があると思ってんの?」

「そうやってすぐ熱くなるところとかね」

「お前みたいなクソアマは殴られて犯されてぐちゃぐちゃに潰れて死ねばいいんだ!」

 ミズナギはヒステリックに叫び、早口に捲し立てる。いきり立って大量の分身を産み出し、金属製の長棒を持って襲いかかる。四方八方からフェイントを織り混ぜつつ攻撃を仕掛けるが、マレは血の棘を両手に構えて捻りを加えつつ身を翻して全ての分身に突き刺す。程無く棘は爆発し、分身は消滅する。分身に紛れていた本体が露になり、マレは空を斬る。指先から放たれた斬撃がミズナギの体を切り裂き、彼女は怯んで地面を転がる。マレが追撃に右鷹爪を放つが、ミズナギは棒を地面に突き立て、その棒を質量保存を無視して瞬時に伸ばして躱し、急降下して蹴りを放つ。マレは左手を虎爪にして身を翻して思いきり振り抜き、強烈な斬撃でミズナギを切り刻む。しかしあちらは怯まず、蹴りを届かせてマレを吹き飛ばす。受け身を取ったところへ再びの分身が襲いかかる。背後からの攻撃が肩口から脇腹を裂いてマレは怯むが、自動的に傷口から血の棘が放たれて分身が消し飛ぶ。更にマレは己の傷口から滴る血を自分の手に塗りたくり、瞳孔が赤く染まり、〈CARNAGE〉の文字が浮かぶ。次の瞬間、マレはミズナギの視界から消え、全ての分身が切り裂かれる。背後を取ったマレの攻撃を、瞬間的に向き直って棒で防ぐ。だがマレはすぐにもう片方の手を放ち、突き刺してそのままミズナギの体の肉を引き千切る。肘の内側で棒を奪い取り、棒と攻防を繰り広げていた手で貫手を放つ。ミズナギは驚異的な反応速度で蹴り上げながら身を翻す。爪先が貫手を弾き返し、ミズナギは分身を自分の動きに追従させるように、殆ど自分と重なるように産み出す。踏み込み、雑に蹴りで牽制する。普段ならば防御からカウンターが決まるのだろうが、続く分身による攻撃がタイミングを大きく損なわせるために、マレは回避する。

 二人は傷を修復し、立て直す。

「ちっ!デミヴァンプ風情が僕の邪魔しやがってクソッタレが!」

 ミズナギは血の混じった唾を吐き、マレは依然として余裕の態度を返す。

「残念だけど、アタシはもう弱くはない。バロンとだって戦える……!」

「死ねえ!デミヴァンプ!」

 ミズナギは一歩で一気に距離を詰める。マレは右手を振るって血の刃を放ち、牽制する。しかしミズナギの踏み込みは想像よりも深く、それを潜り抜けて肉薄する。そのまま拳の連打に入る。一撃が軽いものの分身を伴っているために異常に手数が多く、マレはその場に釘付けにされる。そこに他の分身が更に四方八方から襲いかかる。分身の内の一体の攻撃がマレの背中を大きく裂き、そこから当然血が噴き出す。が即座に結晶化し、まるで一つの刃物の、翼のごとくなる。

「たぶん後悔すると思うわよ」

 ミズナギのラッシュを受けながら、マレは呟く。分身が次々と攻撃を仕掛けようとするが、血の片翼が自動で分身を切り裂き、マレは時季が来たのか、ラッシュを押し返して右手を振るって素早く切り裂き、左手を振るってその勢いで血の片翼を振り抜く。押し返されただけの、到底隙とは言えぬその一瞬にこの三撃が叩き込まれ、ミズナギは細切れになる。

「え……ぐ……ぼ、僕の、負けぇ……?」

 首だったのであろう肉塊からミズナギの声がし、恐らく目玉であろうパーツがもがいてマレを見上げる。

「アンタの負け。せいぜいあの世で、喧嘩を売る相手を間違えたことを後悔するといいわ」

 マレは躊躇なく肉塊を踏み潰し、そのままマレはその場を去っていった。浮遊大地の下から様子を見ていたルナリスフィリアが光を放ち、黄昏が塗り替えられていく。

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