エンドレスロール:重爆のアオジ

 エンドレスロール ディスポーザルタワー

「ハッ!?」

 トラツグミがふらつき、倒れる寸前で体の制御を取り戻す。

「私は……なぜここに……?」

 状況を把握できずに居ると、頭上からスポットライトが一列に点灯する。トラツグミが立っていたのは濃厚な無明の闇を放つ廃棄物群の上だった。

「逃がさないよ」

 声のした方に向くと、せり出した柱の僅かな足場に、巨大な手持ちのパイルバンカーを携えた金髪の美少女が立っていた。

「アオジ……まさか、生きて会うことになるとは」

 トラツグミが落ち着き払ってそう言うと、アオジは飛び立って廃棄物の上に降り立つ。姿勢を正すと、彼女の非常に整った容姿がスポットライトに照らされる。

「世界のため、明人のため、そして私自身のため。ニヒロに荷担するものは、全て断罪する。当然、あなたもここで死んでもらう」

「そう来ましたか。明人様は、本当に私の終わりをお望みになられたのですか?明人様自らが、ニヒロ様と敵対することを選んだと?」

「本当、と言って信じてくれる?」

「明人様のことは誰よりも知っていると自負している身からすれば、あの方が己の最終目的地を変えることなどあり得ないと断言致しましょう」

「ならここで、そのことの真偽について議論することに生産性はない」

「そこは利口なようで何よりです」

 トラツグミは右腕の液晶を叩き、右腕が変形して巨大な金属製の腕となる。

「明人様のご慈悲によって永らえたその命、私が主に代わり叩き潰して差し上げましょう」

「そう来なくっちゃ!ちゃんと真正面から戦って勝たないと後味悪いし!」

 アオジは豪快にパイルバンカーを持ち上げ、ワイヤー一本で接続されている左腕を振り回し、周囲を手当たり次第に荒らし回す。トラツグミは右腕で敢えてパイルバンカーを受け止め、左手でワイヤーを掴んで引っ張る。アオジもそれに反抗し、互いにしっかりと踏ん張って力の限り引き合う。完全に拮抗しているように見えたが、僅かずつアオジが力勝ちし、トラツグミが引き寄せられる。

「ッ……!」

「力比べで私に勝とうなんて思わない方がいいよ……!腕力にはッ、自信があるからッ!」

 力を入れ直し、凄まじい剛力でトラツグミを一気に引き寄せ、咄嗟に反応して振られた右腕に対し、その攻撃のためにフリーになったパイルバンカーを盾にして防ぐ。杭が下を向いており、アオジはトリガーを引いて射出し、噴射材たるシフルエネルギーの炸裂と共に廃棄物が飛び散り、闇が立ち込めてくる。それでトラツグミを僅かながら怯ませ、杭を戻して構え直したパイルバンカーで右腕を刺突し、再び杭を射出して右腕を破壊する。無数のパーツが飛び散り、トラツグミは瞬時に右腕を三連装のガトリングへと変え、飛び退きながら異常なまでの弾丸を撒き散らす。アオジも瞬時に反応して回避に徹するが、流石に捌ききれずに被弾し、痛みを堪えつつリアルタイムに傷を修復して突っ込む形に変える。弾丸が廃棄物に突き刺さり、細かな闇が吹き零れ、二人の戦闘に合わせて徐々に視界が悪くなっていく。狙いをつけきれなくなったか、トラツグミは右腕を再び換装し、今度は三連ドリルへと変形させる。闇から現れたアオジの攻撃に合わせて右腕を突き出し、ドリルと杭が激しい火花を散らす。アオジはトリガーを引いて杭を打ち出し、その強烈な破壊力がドリルとドリルの連結部に突き刺さり、右腕が再び破壊される。

「ちぃっ……!」

「あなたは戦闘用に作られてないって知ってるからね。このまま終わらせてあげるッ!」

 アオジは空中で踏み込んで右手でトラツグミの首を掴む。

「うぐ……!」

 込められた膂力は凄まじく、メリメリと音を立ててトラツグミの首が萎んでいく。

「甘い……ッ!」

 トラツグミは右腕からナイフを飛ばし、それが頭上にあるゴミを移動させるためのクレーンを落下させる。アオジはそれを察して、トラツグミから手を離して飛び退く。トラツグミもすぐに立て直してクレーンの落下から逃れる。無明の闇でほぼ視界の無い中、クレーンが床に激突する音が響き渡る。

「無明の闇はあらゆる物質を侵食する……だからこのクレーンはフォルメタリア鋼で出来ている。流石の私たちでも、この質量のフォルメタリア鋼に圧迫されれば、ただでは済まない。そこまで考えが及ばなかったよ、トラツグミ」

 アオジが闇の向こうにいるトラツグミへ言葉を投げ掛ける。

「当然のことです。Chaos社の施設を把握しておくのは、仕えるものの嗜みですので」

 トラツグミは闇の中へナイフを投げ、それがずばりもう一つのクレーンを落下させる。

「(なぜ今もう片方のクレーンを……?)」

 アオジが少々疑問を覚えたが、自身の位置を正確に特定して右腕から無数の針付きマニュピレーターを射出してきたトラツグミに応戦する。パイルバンカーの雑な振りでマニュピレーターを弾き返すが、トラツグミは腰の仕掛けからワイヤーを射出し、仕掛けごと床に放る。

「ジオフランメル!?」

 アオジが驚く。ワイヤーから発せられた電撃が領域を産み出し、物理的にそこに閉じ込める。パイルバンカーを叩きつけ、杭を打ち出してすぐに脱するが、トラツグミは飛び上がって両腕と二つのクレーンを連結し、フルパワーで引き寄せる。

「なっ……!?」

「さようなら、取るに足らない小鳥よ」

 気づいた時にはもう遅く、アオジは二つのクレーンに挽き潰され、消滅した。トラツグミはクレーンとの連結を解除し、廃棄物の上に着地する。

「少々……悪環境で消耗しすぎましたか……」

 一切の光が入ってこないほどに無明の闇に周囲を包まれ、トラツグミはひどく衰弱していた。程無くして彼女が倒れると、今の戦闘をクレーンの操作室から見ていたルナリスフィリアから閃光が放たれる。

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