エンドレスロール:無明の帝王
無明桃源郷シャングリラ 終期次元領域
エメルはいつもの岩場で、ルナリスフィリアと向かい合っていた。
「戦いの残響、断末魔の叫びに、主を誘う……」
腕を組んで、右手を顎に添えてエメルが呟く。
「私たちのような、戦闘狂……というわけではないですよね。ソムニウムはただの一度も、そのような態度を示したことはない。彼女は、常に使命に突き動かされていた……」
腕をほどき、ルナリスフィリアを右手で引き抜く。そしてまじまじと刀身を見つめる。宇宙の淵源を示すような、深い月の蒼光が彼女の瞳に向かう。
「月光を宿した、狂気の聖剣。激戦が起きた場所にこそ、ソムニウムを召喚する……行き過ぎた暴力への罰、或いは……」
思考を巡らせていると、不意にルナリスフィリアが輝きを放つ。
エンドレスロール コルンツ邸
光が収まると、エメルは屋敷の前に居た。周囲は木々に囲まれ、その向こうにフランスの街が見える。
「あなたの満足が行くような強者が生まれたのですか?」
エメルは取り乱さず、ルナリスフィリアに語りかける。するとルナリスフィリアは手元を離れ、虚空を切り裂く。切り裂かれた空間からは黒灰のメイドが現れる。
「またそいつですか?ソムニウムの前座として、瞬殺しましたよね?」
メイドが目覚め、飛び立ち、エメルの前に着地する。空間としては明らかに昼なのだが、メイドの顔は不自然に黒く塗り潰されている。
「ルナリスフィリア、私に説明してくれませんか?」
エメルがダメ元で聞いてみると、ルナリスフィリアから不快な音が鳴り響く。
『無明の帝王 仕える身でありながら 覇道の妄執に堕ちた
「……。なるほど。だいたい人物の予想はつきました。では、始めるとしましょうか」
メイドが柄の長いハンマーを携え、背後側の口からシフルエネルギーを噴出させて高速で振るう。エメルは軽く回し蹴りを放ち、威力が相殺し合う。メイドは怯んで後退するが、エメルは小ジャンプで距離を詰めて回転しつつ幾度か下段蹴りを加え、浮かせたところに強烈なアッパーカットを腹に叩き込んで吹き飛ばす。メイドは地面に叩きつけられるが、その瞬間にルナリスフィリアが切っ先からメイドにエネルギーを注ぎ込む。メイドは立ち上がると、凄まじい咆哮を散らし、竜化しつつ戦斧を召喚し、握る。
「前回と同じですか。退屈ですね」
メイドは戦斧の刃に強烈なエネルギーを蓄えると、一気に振り抜く。その瞬間にエメルは回し蹴りに伴う衝撃波を放って相殺させ、急接近して戦斧を破壊しつつ蹴り上げ、宙返りしつつ頭部を踏みつけ、背後に回って貫手で背から貫く。手を引き抜くと、メイドは力なく倒れる。
「この程度の敵と戦わすために、私をここに呼んだのですか?ソムニウムに負けたからと言って、正直、私を舐めすぎではありませんか?この様で帝王などと、笑わせますね」
エメルが嘲笑をひとつすると、メイドの体が独りでに宙に浮き、エメルから離れる。そして溶け始め、再び人の姿を取る。先ほどの竜化形態より刺々しい姿になり、着地する。放つオーラは先程より圧倒的に禍々しく、手に持つ戦斧もより凶悪なデザインになっている。
「ふふ、そう来なくてはね」
エメルが余裕で構え、メイドは戦斧を下から縦に振り上げる。エメルは今度も相殺を狙い、その通りに相殺する。しかしエメルが行動可能になるのと同時にメイドも歩を決める。
「ほう……!」
戦斧が振られ、エメルは初めて防御する。腕と斧が激突したにしては余りに鈍い金属音が響いたあと、メイドは刃にシフルを凝縮して瞬時に飛び立ち、刃先を向けて急降下する。エメルは振り上げる一瞬に攻撃を差し込もうとしたが、一連の動作がかなりの素早さのために断念し、刃先を防いでシフルの炸裂を逃がし、戦斧を押し退けてメイドの頭を掴み、膝蹴りを加え、そのまま足を伸ばして放り、高速回転して踵落としを決めて叩き落とす。メイドは瞬時に対応して受け身を取り、再びシフルを刃先に蓄え、エメルの降下に合わせて高速回転する。その高速回転は竜巻を起こし、メイドは止めに振り抜いて竜巻を飛ばす。エメルは戦斧の攻撃を回避し、竜巻を正面突破して拳を放つ。拳先と刃先が激突し、再び相殺する。その瞬間、メイドの体が膨張していき、腹が裂ける。猛獣の口を模したような荒々しい凹凸が、その咀嚼の破壊力を容易に想像させるが、メイドは辛うじて残っている両足で飛び上がり、裂けた腹から無数の闇弾を放つ。低速であったが徐々にエメルを追尾しており、エメルはそれらを踏み台にして飛び、メイドに肉薄する。その瞬間に巨大な闇を吐き出し、それを続けて三発放つ。虚空でランダムなバウンドをしながら闇はエメルを狙い、メイドは裂けた腹を元に戻して回避に専念しているエメル目掛けてシフルの刃を次々に撃ち出す。エメルは竜骨化し、闇と刃の弾幕を抜けて強烈な拳を放つ。戦斧の柄で防がれるが、弾けた闘気が威力を増加させてメイドを怯ませ、恐ろしいまでの速さで振られた拳がメイドの頭部に直撃して、彼女は錐揉み回転しながら吹き飛ばされる。メイドはすぐに受け身を取り、今度は膨らみ、四肢を格納して腹が裂かれる。体内からは瞳が覗き、そこから凄まじい威力の光線が放たれる。更に周囲に闇の礫を撒き散らし、それが各々の光線を放つ。身を引くと、顎のように咀嚼しながらエメルへ猛進する。真正面からエメルは受け止め、腹の咀嚼を強引に止めようとするが、カウンターのように光線が放たれ、仕方なく飛び退いてそれを躱す。メイドは尚も咀嚼しながら突撃を続け、エメルは回避して背後を狙おうとするが、メイドは強烈なドリフトをして、逆に深追いの形になっているエメルを噛み砕かんと進む。メイドは一旦距離を取ると、口に闇を蓄えて、それを噛み砕きながら進む。渾身の力で噛み砕かれた闇は周囲に飛び散り、時間差で爆発する。そして上空に浮遊し、腹の奥の目から全力の光線を放つ。エメルは竜骨化から災厄に竜化に退化して巨大化し、口からシフルを吐き出して光線と拮抗する。周囲の闇が爆裂して災厄は僅かに体の軸がぶれるが、光線は相殺し合う。メイドは元の姿に戻り、それを見た災厄も瞬時に竜骨化に戻って、両者は得物を空中で叩きつけ合う。珍しくエメルの腕とメイドの戦斧が火花を散らして競り合い、エメルが主導権を奪ってメイドを地面に叩きつける。渾身の力で加速して、起き上がろうとするメイドの顔面に全体重と速力を集中させたエルボーを叩き込み、頭部を破壊する。激甚な衝撃が周囲に響き渡り、地面が隆起する。しかしメイドは力尽きておらず、至近に迫ったエメルを全力の闘気で吹き飛ばし、頭部を再生して立ち上がる。そして静かに力み、両腕を異常なほど肥大化させる。その両腕のリーチを活かして乱暴に地面を叩く。エメルは当然のごとく回避し、反撃を加える瞬間、メイドは飛び上がり、今度は体を丸めて乱雑なボディプレスをバウンドしながら放つ。エメルは敢えて動かず、激突する瞬間に災厄となってメイドを跳ね上げ、更に展開したエネルギーの翼で切り裂く。見事に両腕を切り裂かれて制御を失ったメイドに、竜骨化に戻ったエメルが止めとばかりに渾身の正拳を叩き込み、闘気を炸裂させて破壊する。メイドは鏡のごとき質感になって砕け散り、エメルは竜骨化を解いて着地する。
「一瞬でも私に逃げを選択させたこと、誉めてあげましょう」
エメルはルナリスフィリアを見上げる。
「今日はこれだけですか?」
ルナリスフィリアは応えるでもなく、ただ閃光を発する。
無明桃源郷シャングリラ 終期次元領域
エメルが目覚めると、ルナリスフィリアはまだ右手に握られたままだった。
「あなたは何のために私たちに強者の夢を見せているのか……私たちには知る由もありませんね……」
ルナリスフィリアを地面に突き刺すと、エメルは岩に座る。
「ですが、
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