キャラ紹介:滅王龍エンガイオス
エラン・ヴィタール 最奥部
屋敷の中で、バロンは昔の執務室を模した部屋に座していた。傍にシマエナガが眼を伏せて佇んでおり、窓から差し込む光が冷ややかな静寂を産み出している。
「……ふぅ」
バロンがため息をつく。
「お疲れのようですね、マスター」
シマエナガが眼を開く。
「……当然だ。滅王龍エンガイオス……本当ならここで安らかに過ごす予定だったんだ。それがどうだ、エメルが言うには……まあいい。シマエナガ、君も僕の傍にずっと付いておく必要はない。アリシアやマドルのところに行ってもいいんだぞ」
「こうしているときだけ、マスターのお側に居れます」
「……ならいい。エンガイオスの情報を再確認したい。君が知っている範囲で教えてくれ」
「はっ」
シマエナガは短く会釈すると、手に集めた風の塊から、バロンの眼前に映像を投影する。
「滅王龍エンガイオスは、始源世界及び、worldBに広く生息する、角竜の一種です。通常の角竜と異なり、自在に稼働する翼腕……即ち、真竜の何体かが持つ、翼と腕が一体化したパーツを持っています」
映像ではどこで撮影したのか、エンガイオスが迫力ある構図で同種の角竜を殺害している様が流れる。
「竜同士、対獣の生存競争に於いて、自在に稼働する腕部は極めて有効な武器であり、捕らえた獲物を押さえ付け、反撃を許さずに惨殺する他、単にパンチを繰り出すのにも活用されています」
場面が切り替わり、岩場でバロンとエンガイオスが拳を突き合わす映像が流れる。
「尻尾もハンマーのように歪な発達が見受けられ、これを甲殻の隙間にある細かい噴出口からシフルエネルギーを噴出させて超光速で打ち付け、外敵を粉砕します」
バロンが目頭を押さえる。シマエナガが近づく。
「マスター、本当にお疲れのようですね。しばしお休みになられては?」
「……いや、後でいい。続けてくれ」
シマエナガは一瞬止まるが、再び映像を切り替え、話を続ける。
「彼の竜は、叛王龍シュンゲキと同じく、同種を鏖殺し、その血肉を喰らうことで、竜として極限まで成長しました。そして更なる力を求め、ここエラン・ヴィタールの浅い層にねぐらを変え、流れるシフルを悠久の時間吸収し続けたのです。その結果、竜としての限界を越え、王龍へと変貌し、その後は絶海都市エウレカからのエラン・ヴィタールの調査隊と交戦し、双方に甚大な被害をもたらした末、次元の狭間へ消えました」
バロンが頷く。シマエナガは続ける。
「滅王龍エンガイオスを説明する上で最も重要なのは、ディード・オルトレと同様の遷移するシフルです。両者は共に、『戦いのみに己の興味を向ける』性質を持ち、それがシフルの本質を引き出し、驚異的なパワーを産み出していると言えます。竜骨化が産み出す青い闘気や、意思の力が引き出す黄金の闘気とも異なり、純粋な力の結晶と言えるのが、彼らのシフルです。彼の場合、戦いで受ける傷から生じる痛みや興奮がトリガーとなって、全身のシフルが励起、怒りと殺意、そして憎しみが折り重なることでシフルの循環効率及び、運動エネルギーへの変換効率が改善されていき、赤色へ遷移したシフルが体表から見えるほどの勢いで体内を循環します」
「……ディードと同じ、か……」
バロンはまた深くため息をつく。
「続けます。彼の戦闘スタイルの中核を成すのが、励起し、放出される、過剰なシフルエネルギーです。彼のシフルが激しい反応から強烈な出力を行うのは先述した通りですが、余剰分のシフルは甲殻と循環器の中間に溜め込まれ、本人が攻撃を行う際に瞬時に圧縮、そして大爆発を起こし、そのシフルの侵食性と相まって、周囲の外敵全てを破壊し尽くします」
エンガイオスが派手にシフルを解き放つ様で、映像は止まる。
「……よくわかった。骨の折れる相手だ……」
バロンがまたも大きなため息をする。
「マスター」
シマエナガがバロンに毛布をかける。
「ご無理をなさらず、ご自愛くださいませ。神子として出来ることは、これが最善です」
「……今だけは君に甘えておこう」
バロンは机に突っ伏し、シマエナガは映像を消して、また眼を瞑って佇む。外から差し込む光は、相も変わらず静寂をもたらしていた。
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