キャラ紹介:祖王龍ユグドラシル
始源世界 渾の社
蝋燭の火が朧気な明かりを標す社の中で、獣の耳を生やした白髪の美女が正座して書物を開いていた。
「退屈なことだ」
美女は口を動かすことに慣れていないのか、少々冗長な感覚で言葉を紡ぐ。
「珍しい」
社の正面の柱に寄りかかっていた零が反応する。
「いつもやかましいくらいなのに」
「余もたまには思考停止くらいはするものよ。ニヒロのように常に謀略を巡らせ続けるのも、また一つの才能と言うものだ」
「ふん。暇だからって、私に構ってこないでね」
零は柱から離れ、湖へ向かっていった。
「むう、余の退屈を紛らわす相手というのは限られていると言うに」
美女がしんしんと降り積もる雪と紅葉をぼけーっと眺めていると、その狭間から、二人組が歩いてきているのが見える。片方は眼鏡をかけた長身の男で、もう片方はスマートな甲冑に身を包んだ緑髪の女だ。二人とも裾の短いローブに身を包んでいた。そのまま社の階段を上がり、美女の前に立つ。
「これはこれは……」
美女は笑みを浮かべ、足を崩す。
「お前から余に会いに来るとは、どういう風の吹き回しだ?」
眼鏡の男はその言葉に応えるようにローブを脱ぐ。
「……」
二人は視線を合わせたまま硬直する。先に美女が破顔し、言葉を紡ぐ。
「くくくっ、余の前に現れて、そんなにこの体が惜しかったか?」
「要らん。元よりそれは廃棄処分の予定だったものを明人が回収したものだ。ユグドラシル、俺がここに来たのは」
横に立っていた女がローブを脱ぐ。女は案の定クインエンデで、左手に持っていたアタッシュケースを床に叩きつけ、両手で開く。そこには、高級そうな装飾の筒が二つ、空間を贅沢に使って入っていた。
「海苔だ。貴様はこういう類いの人間の食材が好きだろう」
「ほう。ニヒロ、お前が余に贈り物とな?くくく……さて、どうしたものか」
ユグドラシルは妖艶な笑みをニヒロに向ける。
「普段のお前から送られるものならば、最大限の警戒をするが……わざわざこの社まで来て手渡ししてくるなど、前例がないのでな……」
「食わぬのなら、湖にでも捨てればいい。さらばだ」
ニヒロは踵を返そうとする。
「待て、ニヒロ」
ユグドラシルに呼び止められて、彼は振り返らずに立ち止まる。
「もうじき真昼だ。昼食にはちょうどよいのではないか?」
「俺は食欲などない。そも、王龍は食事も呼吸も不要だ」
「まあまあ。お前から貰いっぱなしというのも、後に余の不利となりかねん。茶漬けを用意しよう。それを食うたら、余の体を好きに調べて良いぞ?」
その提案で、ニヒロは若干の興味を瞳に宿して振り向く。
「原初三龍を宿した俺の兵器が、どう変容したのかは見る価値がありそうだ。よかろう。だが俺の口に合わねばすぐに帰るぞ」
ニヒロがユグドラシルに向かい合うように座り、クインエンデもそれに従う。
「ところで、クインエンデよ。先日余が上梓したコピー本はどうだった?」
「へぇぁ!?」
急にとんでもない話題を振られたクインエンデは、先ほどまでの冷静な表情から、一気に紅潮して驚き散らしている。
「こ、こほん!ユグドラシル、その話題、私は我が主のお耳に入れるには下劣に過ぎると思いますが」
クインエンデはユグドラシルから視線を外し、黙りこくる。ユグドラシルは不敵な笑みを浮かべ、ニヒロに視線を戻す。
「貴様、相も変わらず無用な趣味に現を抜かしているのか」
ニヒロが表情を変えずに問う。
「無用なものとは無体なことだな。余はこの身に持った芸術的センスを活用しているだけだ。余にかかれば、どんなタッチの絵も描ききれるぞ。お前も、兵器に関して言えば余とは変わるまいて」
「ふん」
「くくくっ、余たち生粋の王龍に、性別などという詰まらんものがないお陰でネタがたくさんあるのだぞ?」
何の生産性もないような駄話をしながら、彼らは用意された茶漬けを掻き込むのだった。
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