キャラ紹介:隷王龍クインエンデ
始源世界 chaos社海上基地
クインエンデがニヒロのデスクに座っていると、正面の扉が開く。
「おーっす」
ルリビタキが気の抜けた挨拶をするが、クインエンデはハードカバーの本を眺めたまま動かない。
「何見てんだ?」
デスクまで近寄って尋ねた段階で、ようやくクインエンデは顔を上げる。珍しく赤渕の眼鏡をかけており、ブリッジを押して位置を整える。
「なんですか?」
「いや、だから何見てんのかな、って」
ルリビタキが視線を落とすと、その本にはニヒロの竜化態・人間態問わず、その姿を捉えた写真が大量に貼り付けられていた。
「なんだこりゃ。スクラップブックか?」
「ええ、その通りです。こうしてニヒロ様の凛々しいお姿を日々、写真に収めているんですよ」
「へえ、意外だな」
「そうですか?私は普段から、周囲に伝わるようにニヒロ様への愛情を表しているつもりですが」
「クインエンデのことじゃねえよ、ニヒロのことだよ。あいつが黙って写真を撮らせてくれるなんて、意外だったぜ」
「騒がなければいくらでも撮影させてくれますよ。つい私は奇声を上げてしまうのでつまみ出されますが」
「秘書がドライじゃねえと大変だな。ミサゴが生きてりゃ、あいつに任せた方がいいんだろうがなー」
「駄目ですよ。私がニヒロ様の役に立てる機会が減ってしまうではありませんか」
「んなこと言っても、なんだかんだで重要な作戦の時はあんたが使われてるだろ」
「そうですねえ……ニヒロ様は普段は邪険ですが、もしかして私のことを大切に思――」
ルリビタキが苦笑いしながら首を横に振る。
「いやいやいや。あいつのことだからどうせ、使い勝手がいいから置いてくれてるだけだろ」
「まあそうですね。優しいニヒロ様はなんか、違う気がしますし」
「つーか、クインエンデって暇なとき何やってんだ?ずっと写真撮ってんの?」
「それも一つですね。後はお体を触ろうとしたり、椅子になろうとして放置されたり、とりあえず脱いでみて無視されたり、鬼電したり、質問に対してとぼけてみたり……」
「やべえな」
ルリビタキは顔をひきつらせて呆れる。
「そういうことをしても許されてるってことは、ほんとにあいつにとって優先順位が高いのかも知れねえな」
「いいえ、度が過ぎて毎度氷漬けにされますよ。私がソムニウムに次ぐ最強の隷王龍ですから、自力で三日くらいかけて氷を融かしているだけです」
「普通にバカじゃん、あんた。っていうかニヒロの氷を自力で突破できるって何気にとんでもないことしてないか」
「なんだかんだでニヒロ様も本気で凍らせてくるわけではないので、その辺りはニヒロ様の飴と鞭の使い方がお上手と言うことですね」
「(ニヒロは本気で鬱陶しいと思ってそうだけどなぁ……)」
ルリビタキが思案顔をすると、クインエンデが首を傾げる。
「どうかしましたか、ルリビタキ」
「いや、あいつも変な造りのもんが好きだなぁ、ってさ。ま、いいや。ニヒロがいないならあたしは自分の部屋に帰ってるから」
彼女は踵を返し、部屋から出た。クインエンデは鼻息をひとつすると、スクラップブックに視線を戻す。
「ルリビタキに撮影を頼んで、ニヒロ様に虐げられている私を撮ってもらう、というのもありかもしれませんね……ぐふふふ……」
随分と気持ちの悪い笑みを浮かべながら、クインエンデはその日を過ごしたのだった。
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