キャラ紹介:エメル・アンナ
無明桃源郷シャングリラ 終期次元領域
無限の暗黒が埋め尽くす空間の岩場で、エメルは一人でチェスをしていた。
「縊り殺すだけでは足りない、足りない……愛と憎しみの相対だけでは、足りない、足りない……」
エメルは自陣のポーンを握り潰す。
「嫉妬でも足りない、怒りでも、怠惰でも、どんな思いでも私にはまだ足りない、足りない……」
椅子代わりの岩から立ち上がり、暗黒を見渡す。
「やはりこの渇きを満たすのはあなたしかいないのでしょうか、バロン……誰にも替えがきかない、あなただけの温もりを……ああ……それをこの手でぶち壊したら、私はどうなってしまうのでしょう……くふ、うふふふ……ゼノビアの記憶から、バロンを複製してみましょうか……ああでも、私の全てを受け入れてしまうような未完成品は要りませんし……」
エメルはため息をつく。
「本物が来てくれれば、私の渇きも少しは満たされるかもしれないのに」
と、その時、岩場へ続く長い階段から声がする。
「……僕を呼んだか」
「ああ、遂には焦がれすぎて幻聴まで……」
「……」
エメルが声の方を向くと、バロンが立っていた。
「幻覚まで見えるなんて、気晴らしに宇宙を滅ぼしに行った方がいいかもしれないですね」
「……シマエナガがここに用があると言っていたからついてきただけだが、まあ幻覚と思っているのならそれでいい」
「ふふ、冗談ですよ。ついでとはいえここに来るとは、もしかして私に会いに来てくれたんですか?」
「……特に誰に会いに来たわけではないが、まあお前なら話がある程度は通じるか」
「殺風景でしょう?」
「……ここで最後の戦いをしただろう。もうここにはユグドラシルも、アルヴァナもいない」
「ねえ、バロン。私のお願いを聞いてくれますか?」
「……何か?ろくでもないことなら聞かないが」
「簡単なことです。私の渇きを満たしてください」
「……それは簡単じゃない。レメディに力を渡した影響で僕も衰えが出ていてな。今の僕でお前と対等に戦うのは――」
「いえ、それは不要です。あなたはただ、今から私に捩じ伏せられて、尊厳も純愛も、全てを失ってくれればそれで私は満たされる」
「……やっぱりろくでもないことだ。帰るぞ」
立ち去ろうとするバロンの手をエメルは掴む。
「では、盃を酌み交わすというのは?」
「……語らうだけでいい」
エメルは、その言葉がバロンにとってどれだけの価値を持つかすぐに理解し、手を離す。
「アルヴァナが崩御して以来、私たち狂竜王の配下は、幾千幾億の宇宙を一瞬で消し去る力を持て余しているんです。狂竜王アルヴァナがその目的を果たした以上、私たちは世界を蝕む毒でしかない」
「……それを僕に話してどうしろと。僕だって、もう宙核としての力はない」
「竜の姫と皇子は異空間で永遠の戦いを繰り広げていると聞きました。バロン」
「……レメディに迷惑をかけるな。はぁ。仕方ない。僕の体を勝手にしたいんだろ?なら好きにしろ」
バロンは諦め、エメルへ体を預ける。
「ふぇ!?え?え、え、え」
急に態度を和らげてきたバロンに脳内の処理が追い付かないエメルは、出したこともないようなすっとんきょうな声を出す。
「ふぁああああああああ!?」
半狂乱になってバロンを抱き締める。
「……うるさい」
「こ、これでは私が色々ダメにな、なななな」
完全に思考回路がショートしたエメルはバロンを離して猛スピードで階段を駆け降りていく。
「やっぱり私は幻想を見ているに違いない!最近戦いが無さすぎてストレスが溜まってるんだ!」
その場に置き去りにされたバロンは、チェス盤を見て呟く。
「……女心はやはり理解できん」
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