キャラ紹介:ロータ・コルンツ


 万屋クロダ

「……」

 レイヴンがサンドイッチを食べながら雑誌を読んでいるのを、ロータは無言で凝視していた。

「……」

 ロータは微動だにせず、レイヴンが起床してから今までずっと傍で凝視している。

「ロータ、トランプしようぜ」

 レイヴンが雑誌を机に投げ捨て、ロータへ視線を向ける。

「兄様、今のページは袋綴じだった。兄様はこんな感じの女が好きなの」

 ロータが少し不機嫌そうに言う。

「そうだな、レディなら誰でも……」

 そう言おうとして、レイヴンは気付く。ロータに対して、この言葉は冗談にならないと。

「いや、俺はこれと言って好みがあるわけじゃない」

「嘘。兄様は女ならどんな奴にでも勃つ」

 ロータの目は据わっており、明らかに殺意すら湧いてきている。

「兄様、本当に愛すべきが誰なのか教えてあげようか?」

「待て待て、冗談だろ?俺が言うことなんて大半が冗談なんだからよ、いい加減慣れてくれよ」

「兄様が私にだけ構ってくれたらそれでいいのに……依頼を取ってくるのも、経理も料理も、何でも出来るよ……」

「わかってるって。確かに、お前が戦えば依頼の達成どころじゃないし、裏方に回ってもらうってのもありかもな」

「兄様の敵は全て滅ぼす。そして二度と歯向かわぬよう、その魂に恐怖を刻み込む」

「ったく……いくら俺たちが倒すのがモンスターかチンピラとはいえ、発狂させてから消滅させるのは勘弁してくれ。知識の幅が広いのはいいことだがな。仕事が力仕事ばかりじゃなくなった」

「もちろん……私に死角はない。必要ならば、兄様も力ずくで止められる」

 ロータは右手の人差し指に鎖で作られた球体の中に、オレンジ色の輝きが見える。

「これだけの力でリリュールは消えてなくなる」

「あー、物騒だから片付けてくれ。ティータイムにしようぜ。こないだの報酬でいい茶葉を手に入れたんだ、クラレティアメープルっていうんだけどな」

「うん、私に任せて……」

 二人は立ち上がり、キッチンへ歩く。ロータが手早く準備をして、レイヴンはそれを横で見ている。

「しっかしお前はなんでも出来るなあ。料理も旨いし、掃除も手早いし、医学も工学も、お前に頼ればだいたい解決するしな」

「姉様があれだから……」

「まあ、リータが姉ならこうなるか。アリアも優秀なんだがな、どうもニッチな需要にしか関われない奴でな……」

「アリアのガンスミスとしての腕は一流。それだけで価値がある」

「ロータ、お前はちゃんと認めてる奴はちゃんと評価しているんだな」

「実力がある人間はその実力を認められる価値がある。ただそれだけのこと」

「ほー、いい心構えだな」

 レイヴンとロータが駄弁っていると、着々と茶会の準備が整っていく。

「兄様は口の中で香りが広がった方が好きだよね……」

「よく覚えてるな」

「兄様のことは全て覚えてる……好みも、日頃のルーチンも、何もかも……」

「そりゃどうもね。言わなくても気を使ってくれる奴がいてくれると気が楽でいいぜ」

 おぼんに茶菓子やカップを用意して、机に戻る。ロータがカップに紅茶を注ぐ。

「今日はアーシャもエルデもいないから平和」

「うーん、依頼もねえしな。今日はいい昼だぜ」

 ロータは紅茶を啜るレイヴンの様を延々と眺めていた。

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