第23話 初めて家族の温もりに触れました

オーフェン様と一緒にゆっくり中に入って行く。緊張は最高潮だ。


「オーフェン、お帰り。彼女がサーラ嬢かい?」


オーフェン様によく似た男性が話しかけて来た。きっとこの人がこの国の国王なのだろう。隣には、美しい黒髪をした女性が立っていた。そして少し距離を置いて、同じく黒髪の男女が立っている。多分オーフェン様のお兄様夫婦だろう。


「お初にお目にかかります。サーラと申します」


王妃教育で培った渾身のカーテシーを決めた。


「こちらこそ、始めまして。オーフェンの母です。それにしてもとても可愛らしい子だわ。オーフェンが多少無理してでも、手に入れたがった理由がよく分かるわね」


「本当に、美しい金髪。それにルビーの様に赤い目をしているのね!この国は皆黒髪だから、なんだか新鮮ね。私はこの国の王太子でもあるオーフェンの兄の妻、リースよ。よろしくね。サーラちゃん」


どうやらオーフェン様のお母様も義理のお姉様も、私を歓迎してくれている様だ。


「サーラ嬢、君は随分と苦労していた様だね。とにかく、私たちの事を本当の家族だと思って欲しい。私たちは、君を歓迎するよ!」


「ありがとうございます!」


オーフェン様が物凄く心が優しいのは、同じく心優しい家族に囲まれているからなのね。初対面の私にも、家族だと思って欲しいだなんて…今までこんな事を言ってくれる人は居なかった。そう思ったら、嬉しくて涙が込み上げて来た。


「サーラ、どうしたんだい?何か気に入らない事でもあったのかい?」


急に泣きだした私を見て、心配そうに訊ねたオーフェン様。


「ごめんなさい。初対面の私にも、こんな風に優しく接して下さったのが嬉しくて…実の親にもこんな風に言われたことが無かったから…」


もう随分前に諦めたはずの温かい家族。それが今、目の前にあるのだ。そう思ったら、涙が止まらない。


「サーラちゃん、随分と辛い思いをしたのね。私の事を本当の母親だと思って甘えてくれていいのよ!私も、あなたの事を本当の娘だと思っているから」


そう言って抱きしめてくれたオーフェン様のお母様。初めて抱きしめられる、女性の温もりに、さらに涙が溢れだす。私が泣き止むまで、ずっと抱きしめてくれていたオーフェン様のお母様。


落ち着いたところで、オーフェン様が話始めた。


「それで、早速サーラと結婚したいと思ってね。父上、母上、もちろん認めてくれるよね」


「ええ、もちろんよ。ね、あなた」


「ああ、もちろんだ。既に私たちの署名は済んでいるから、後はオーフェンとサーラ嬢がサインすれば婚姻は成立だ」


そう言って1枚の紙を渡してくれた国王陛下。早速2人でサインをした。


「これで正式に僕達は夫婦になった。結婚式をどうするかは追い追い考えよう」


これで正式に私とオーフェン様は婚姻関係を結んだのね。なんだか、あまりにもあっけなさ過ぎて、まだ実感が沸かない。


「オーフェン、結婚式には私たちも行くから、絶対呼んでね」


そう言ったオーフェン様のお母様。その後は私たちの為に宴が開かれた。その席では、オーフェン様の兄弟姉妹も集まってくれた。皆とてもいい人たちばかりで、あっという間に仲良くなれた。


翌日から、女性陣達と一緒に街に買い物に行ったり、お茶をしながらおしゃべりしたりして過ごした。なんだか一度にお母様やお姉様、妹が出来た事もあり、最初は戸惑ったが、最後には完全に打ち解ける事が出来た。


初めて知った家族の温もり。家族ってこんなにも温かくて良いものなのね。オーフェン様と出会わなければ、一生知る事は無かっただろう。


そして、あっという間に滞在時間の1週間が過ぎてしまった。


「サーラちゃん、またいつでも遊びにいらっしゃい。あなたはもう私の娘なのだから」


「ありがとうございます。お義母様!私たちの結婚式には、ぜひ来てくださいね」


「もちろんよ。絶対に行くわ!」


そう言ってにっこり笑ってくれたお義母様。隣でお義父様も頷いている。


「サーラお姉様、今度お姉様の国に遊びに行っても良いかしら?」


そう言ってくれたのは、オーフェン様の5つ下の妹だ。


「もちろんよ、いつでも遊びに来て!」


「それなら私も行きたいわ!」


「私も!」


次々に手を挙げるオーフェン様のお姉様や妹たち。もちろん、リースお姉様も手をあげている。


「それじゃあサーラ、行こうか」


オーフェン様にエスコートされ、馬車に乗り込む。


「皆様、本当にありがとうございました!今度は私たちの国に遊びにくてくださいね!待っていますから」


窓の外から顔を出し、必死に手を振る。皆も手を振り返してくれている。初めて私に家族の温かさを教えてくれた、オーフェン様の家族。そんな大切な家族との別れは、やはり辛いものだ。


つい、涙が溢れだす。


「サーラ、またいつでも会えるよ。だからそんなに泣かないでおくれ」


隣でオーフェン様が私の頭を撫でてくれた。


「オーフェン様、私に家族の温かさ、さらに大切な家族を与えて下さり、ありがとうございました。私、こんな風に家族と呼べる人たちと触れ合ったのは初めてで…」


そう、今まで私には本当の家族と呼べる人が居なかった。でも、バージレーション王国には、私を家族として認めてくれる人がこんなに沢山いる。それが嬉しくてたまらないのだ。


そんな私を、ギューッと抱きしめてくれるオーフェン様。


「サーラは、僕が想像できない程辛く孤独な日々を送っていたんだね。サーラは忘れているかもしれないけれど、僕とサーラはもう夫婦だ。今後は家の両親に負けないぐらい、温かい家庭を作っていきたいと僕は思っているんだ。もちろん、サーラと一緒に」


「オーフェン様…私もオーフェン様と一緒に、温かく家庭を作りたいわ!」


そうだ、私もお義父様やお義母様に負けないくらい、温かい家庭を作って行こう。オーフェン様と一緒に!

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