第19話 サーラを傷つける者は許さない~オーフェン視点~

貴族学院の卒業パーティーまで後1ヶ月を切ったある日、サーラと一緒に平民になった時に住むアパートを探した。サーラは最初に見たアパートを気に入った様だ。そして後日、平民として生活するうえで、必要な物を買いに行った。


目を輝かせて家具を選ぶその姿を見ていると、本当に微笑ましい。いっその事、僕もこの国で平民になろうかな。そして、サーラと2人で一緒に暮らすのも悪くはない。そんな気すら起こすくらい、その時のサーラは輝いていた。


ある程度荷物をアパートに運んだ後は、僕の家臣がやっているお店に向かった。ちなみに、僕がサーラに紹介したアパートの近くには、必ず僕の家臣のお店が存在している。


もちろん、サーラが選んだアパートの近くにも、僕の家臣のマドレアが店を開いている。実はマドレアは、僕の専属メイドだった女性だ。彼女はメイドでありながら、武術にも優れている為、サーラを近くで見守ってもらうにはうってつけだ。


早速マドレアにサーラを紹介した。どうやらサーラも、マドレアを気に入った様で安心した。しばらくは僕とマドレア、2人でサーラを見守って行こう。そう思っていたのだが…


翌日、左頬を殴られたのか、かなり腫れていた。さらに色も赤黒くなっていた。見るからに痛々しい。話を聞くと、断ったはずの王太子が家に押しかけて、自分と約束していたと言い張ったらしい。


そのせいで、父親に殴られたとの事!赤黒く変色するまで可愛いサーラを殴るなんて!体中から怒りが込み上げて来た。


もう我慢できない。今まではただサーラと平和に暮らせればいい、そう思っていたけれど、サーラを傷つけた奴らを徹底的に潰してやる!正直、こんなに怒りを覚えたのは初めてだ。


そう、僕はこの国を滅ぼし、僕自身の手でこの国の王になる道を選んだのだ。その為には、まずは国に戻って準備をする必要がある。でも…


まだ婚約破棄も出来ていない、傷ついたサーラを残して帰国するなんて!そんな僕の背中を押してくれたのが、父親役をやってくれている家臣のバザフと、マドレアだ。


「殿下、確かに今サーラ様から離れるのは、お辛いかもしれません!でもサーラ様の未来を考えたら、今動くべきです!婚約破棄の件は、私達でしっかりフォローいたしますので大丈夫です!」


「そうですよ、殿下!サーラちゃんは私がしっかり守ります!変な虫が付かない様、男を寄せ付けませんから安心して下さい!」


そう言ってくれた。


「分かった、婚約破棄に関する資料は、後で渡す。サーラにも、婚約破棄の方法を記載した手紙を渡そう。いいか!僕が国に帰っている間、絶対にサーラを守れ!もう二度とサーラを傷つけさせるな!それからマドレア、サーラに男を絶対近づけさせるなよ。頼んだぞ。後、サーラの状況を逐一報告する様に!とにかくサーラを守ってくれ」


「「任せてください」」


こうして僕は、後ろ髪を引かれる思いでサーラを残し、バージレーション王国に帰国する事にした。帰国後、すぐに父上に会いに行った。


「オーフェン、お帰り。それでお前はどうするつもりだい?」


「父上、僕はカステカ王国を手に入れようと思っています」


「カステカ王国?」


ピンとこないのか、早速地図を広げた。


「随分と遠くの国を攻めるんだな。この国にそこまで魅力があるのかい?」


確かにバージレーション王国からカステカ王国まで、馬車で1週間程度かかる。さらにカステカ王国を攻め込む為には、通り道にある国をまず攻め落とすか、協力を要請するしかない。かなり手間がかかる事は間違いない。


それでも、サーラの事を考えると、何が何でもカステカ王国を手に入れる必要がある。父上に、今まであった事をすべて話した。もしかしたら、そんな理由なら却下だ!そう言われるかもしれない。それでも必死で訴えた。


「なるほど、その令嬢の為に、カステカ王国を攻めるという事か…」


考え込む父上。


「あら、素敵じゃない。オーフェン、カステカ王国、攻めて見なさい!そして、サーラちゃんを私にも合わせて頂戴」


何処からともなく現れたのは、母上だ。元々穏やかな性格の母上は、基本的に他国を攻める事にあまりいい顔はしない。そんな母上が賛成してくれるなんて、正直驚きだ。


父上も同じ事を思ったのか


「君が他国を攻める事に賛成するなんて珍しいな。分かったよ。やって見なさい。その代わり、お前が全て指揮を取る様に。失敗しても、私は尻ぬぐいしないからな」


「ありがとうございます!」


よし、父上の許可が下りた。早速準備開始だ。僕の為に、選りすぐりの騎士たちが集められた。そう、父上が準備してくれた部隊だ。


早速各国の交渉に入って行く。たいていの国はバージレーション王国という名前と、協力してくれればこの国には何もしない事を伝えると、協力してくれた。ただカステカ王国の隣の国だけは、なぜか頑なに協力を拒否していた為、ここで足止めを食らってしまった。



そんな中、サーラが無事婚約破棄し、侯爵からも勘当されたとの連絡が入った。どうやらバザフはカステカ王国の国王の秘密を握っている様で、上手く国王を利用した様だ。さすが我が国でも選りすぐりのスパイだけの事はある。


ただ、王太子はサーラに未練がある様で、最後まで縋りついていた様だ。散々サーラを傷つけておいて、よくも縋りつけたものだ!怒りを通り越して、呆れるな。


そして、サーラは無事平民生活を始めた様だ。マドレアの話では、早速マドレアの店を手伝っている様だ。でも、美しく明るく働き者のサーラを男共が放っておく訳も無く…


既に沢山の男共が、サーラを狙っている様だ。一応マドレアが追い払っている様だが、やはり心配だ。早くカステカ王国を手に入れないと!


仕方ない、武力行使で行くか!そうだ、僕は何を甘い考えを持っていたんだ。こんな事では、いつまでもサーラを迎えに行けない。ちょうど弟でもある第五王子がこの国を欲しいと言っていたので、第五王子と共に一気に隣国を攻め入る事で降参させた。


そんな事をしている間に、なんと王太子がサーラに接触して来たらしい。クソ、あの男、散々サーラを苦しめて来たくせに!とにかく急がないと。


そしていよいよ、カステカ王国を攻める時が来た。待っていてくれ、サーラ。もうすぐ迎えに行くから!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る