第18話 僕の大切な人~オーフェン視点~

大国と言われるバージレーション王国の第三王子として産まれた僕は、11人兄弟だ。それも、兄弟達全て王妃から産まれている。


ただ、基本的に我が国も第一王子が国王となるのが一般的だ。その為第二王子以降は、他国を攻め、自分の国にする事が多い。僕もどこかの国を攻め込み、その国の王になる為に教育を受けて来た。


そして12歳になると、どの国を攻めるか見極める為、色々な国を見て回る。もちろん、ばれないように事前に潜入している家臣たちの子供として、その国で生活をする。ある時は貴族、またある時は商人の息子など、その時の状況に合わせて生活している。


基本的に1つの国を半年程度みながら、色々な国を見て回る。ただ、中にはよその国を攻めてまで王になりたくないと言う王子もいる為、そう言う王子は自国の貴族と結婚したり、国王でもある父上から爵位を貰い、家臣になったりする。


僕も正直よその国を攻めるなんて気が進まない。その為適当に国を回ったら、父上に頼んで爵位を貰おうと思っていた。


そんな中、ある国に着いた。そう、カステカ王国だ。この国では、男爵令息として貴族学院に編入する事になった。


友達を作ると後々面倒なので、分厚い眼鏡をかけ、校舎裏の奥にある大きな木の下で普段は過ごすようにした。そんな時、1人の令嬢が泣きながらこちらに向かって歩いて来た。どうやら水をかけられた様で、ずぶ濡れだ。


さすがに可哀そうに思い、タオルを渡し、話しを聞いてあげる事にした。彼女の名前は、サーラ・ウィヴィッズ。侯爵令嬢で王太子の婚約者らしい。でも王太子に嫌われている為、令嬢たちから意地悪をされているそうだ。さらに家でも酷い扱いを受けているらしい。


泣きながら僕に話をするサーラ。正直、この子がなぜそこまで嫌われるか理解できない。毛嫌いされるほど見た目も悪くない。というより、どちらかと言うと、かなり美しい方だ。さらに令嬢特有の傲慢さや我が儘な感じもしない。それどころか、低姿勢で相手を思いやる優しい子の様にも感じる。


その後も、毎日僕に会いに来るサーラ。ある時には階段から突き落とされて怪我をしていた。またある時は令嬢に叩かれ、頬を赤くしていた。


そしてまたある時は、令嬢に水を掛けられたとずぶ濡れで来た。いつも泣きながらここに来るのに、僕の顔を見ると、パァァと笑顔になって飛んで来るんだ。


その姿が物凄く可愛いい。いつしか彼女が来るのを、毎日心待ちにする様になっていった。そもそも、こんなに心優しいサーラが、どうしてこんなにもひどい目に合っているのだろう。


早速家臣の1人に調査を依頼した。すると、どうやら王太子が、サーラの悪口を皆に吹き込んでいる様だ。それも、根も葉もない事ばかり!そんなに嫌なら、どうして婚約破棄をしないんだ!そう思う程、怒りが込み上げて来た。


いっその事この国を僕のものにして、サーラを虐めていた奴に復讐してやろうか?そんな気持ちも芽生える。でも、きっと心優しいサーラはそんな事を望まないだろう。とにかく何かに使えるかもしれないと、サーラを虐めている人間のリスト作成をする様、家臣に指示だけはしておいた。


とにかくサーラに早くこの状況から抜け出して欲しくて、何度も

「辛いなら無理をする事はない」

そう伝えたのだが、どうやらまだ決心がつかない様だ。サーラさえ決心してくれたら、僕が全力で守るのに…


気が付けば滞在期間の半年を、大幅にオーバーしていた。正直、サーラを残してこの国を離れるなんて出来ない。もちろん、サーラが心配という事もあるのだが、何より僕がサーラと離れたくはない。それくらい、僕にとってサーラは大切な存在になっていたのだ。



そんなある日、いつもの様に泣きながらやって来たサーラ。今日は僕の顔を見ても、中々泣き止まない。話を聞くと、またいつもの様に、王太子がサーラの悪口を言っていたそうだ。


でも、今日のサーラはいつもとは違った。


なんと

「あんな冷酷な男と結婚するぐらいなら、平民になった方がましよ」

そう叫んだのだ。


どうやら、王太子と婚約破棄する道を選んだらしい。もちろん、僕は大賛成だ。とにかくこれでサーラを守れる。本人が平民になりたいと言っているから、まずは平民の暮らしをさせてやろう。そしてある程度落ち着いたら、バージレーション王国に連れて帰り、2人でひっそりと暮らそう、そう思っていた。


その日以降、サーラは息を吹き返したように、平民になる為に準備を始めた。平民になる為には、ある程度まとまったお金が必要と言った僕の言葉を素直に聞いたサーラは、王太子に貰ったという宝石を持ってきた。


もちろん、僕に換金してもらう為だ。正直その宝石を見た瞬間、意味が分からなかった。そう、どれも超最高級品のアメジストばかりだ。この国では、確か大切な女性に自分の瞳の色の宝石を贈る習慣がある。


まさか…

いいや、さすがにそれは無いだろう。あの男はいつもサーラの悪口しか言っていない。それに、サーラにも毎回冷たく当たっている。大切に思っているなら、きっとそんな事はしないはずだ。


早速このアメジストを売ろうと思ったのだが、あの男から貰ったプレゼントで得たお金を、サーラがこれから使って行くと考えると、なんだか腹ただしくなってきた。


そう、ただの嫉妬だ。とにかく宝石は売り飛ばし、サーラの通帳には僕のポケットマネーからお金を振り込んでおいた。こうしてどんどんとサーラの平民計画は進んでいく。


平民になる為、必死に努力するサーラは本当に愛おしい。別に平民にならなくても、僕の花嫁になればバージレーション王国でのんびり暮らせる。でも、平民になる事を夢見て日々努力している姿を見たら、そんな事は言えない。それに、サーラが望む事は出来るだけ叶えてあげたい。


しばらく平民として暮らして、満足したらバージレーション王国に連れていこう。そう思っていた。そんな僕の気持ちを大きく揺るがす事件がこの後起こるなんて、この時の僕は思ってもいなかった。

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