第14話 こんなはずでは無かったのに【後半】~エイダン視点~
卒業まで後1ヶ月に迫ったある日、今日は王宮で夜会が行われる日だ。
いつもの様にサーラを迎えに行く。今日も僕の瞳の色でもある紫色のドレスを着ている。ここ1年くらい、毎回紫色のドレスを着ているサーラ。やっぱり僕の事が好きなのだろう。
顔には眉間にしわを作りつつ、心の中では嬉しく思う。僕って、名男優だな。早速サーラと一緒に馬車に乗り込み、いつもの様に嫌味を言った。いつもは俯いて黙っているサーラだったが、この日は様子が違った。
自分は紫色が大っ嫌いだ。でも、親に着せられるから仕方なく着ているだけだ!と。僕の方を一切見ず、淡々と話すサーラ。紫色は僕の色だ。その色をはっきりと大っ嫌いと言ったという事は…
いいや、そんな事はない!サーラは僕の気を引こうとしているだけだ。そう自分に言い聞かせる。もしかして、僕はやりすぎたのか?そう言えば、やりすぎは良くないと本にも書いてあったな。
どうしよう…
いや、まだ大丈夫だ。そもそも、サーラは僕の婚約者なんだ。たとえ万が一、サーラが婚約を破棄したいと言ったとしても、あの侯爵がそれを許さないだろう。
とにかく落ち着こう。そう自分に言い聞かせた。王宮に着きホールに向かうと、いつもの様に令嬢たちがやって来た。相変わらずサーラの悪口を言っている。それに対し、眉一つ動かさず、さっさとこの場を去って行こうとするサーラ。
急いで引き留めたが、体調が悪いからと去って行ってしまった。他の令嬢とダンスを踊っていても、どうしてもサーラを目で追ってしまう。一切こっちを見ないサーラ。まるで、僕の存在を気にしていない様に…
やっぱり、完全にやりすぎたんだ。あの本にも、やりすぎは良くないと書いてあった。やっぱり少しは優しくするべきだった。
そうだ、一度王宮に呼んで、結婚の準備をさせてやろう。女性は結婚に関して憧れが強いと聞く。きっと結婚の準備を手伝わせてやると言えば、喜ぶだろう。そう思っていたのに、あっさり断られてしまった。
どうしてだ!なぜ僕を避ける?
週末、サーラに会いに侯爵家に出向いた。すると、出掛けているとの事。一体どこに行っているのだろう。夕方近くになって帰って来たサーラを、侯爵が思いっきり叩いていた。
それでも表情一つ変えず、まるで機械の様に謝罪の言葉を述べるサーラ。もちろん、僕の方を一切見ない。
一応翌週末は王宮に来るよう約束は取り付けたが、不安で仕方がない。翌週末、早速侯爵家に迎えに行った。いつもの様に紫のドレスを着て待っていたサーラ。よかった、やっぱり僕の事が好きなんじゃないか。
一安心したのも束の間、体調が悪いと言うサーラが心配で、おでこを触ろうとしたのだが
「嫌!触らないで!」
そう言って僕を振り払った。正直何が起こったのか分からなかった。こんなにもはっきりと拒否の意志を示されるなんて…
正直ショックだった。それでも気を取り直して、王宮では僕達の寝室を案内した。結婚したらずっと一緒だ、この部屋でこれから2人で過ごすんだよ。そんな思いで説明しても、全く興味がない様子のサーラ。
せっかくだから中庭でも一緒に散歩しようと言っても、体調が悪いと言ってさっさと帰って行ってしまった。そう言えば、サーラは王宮の馬車で来たはずだ。どうやって帰るんだ?
心配になり、サーラを追いかけると、歩いて帰ると言うではないか!令嬢が、それも王太子の婚約者でもあるサーラが歩いて帰るなんて!そう伝えたのだが、今までも歩いて帰っていた、今更危険だなんて!そう言って呆れられた。
まさか、歩いて帰っていたなんて。そう言えば、王妃教育の時、いつも帰りは勝手に帰れと突き放していた。もしかして、あの時から歩いて帰っていたのか…
とにかく、卒業まで後2週間だ。卒業したら、すぐにサーラが王宮で暮らせるように手配しよう。そして、王宮で暮らしだしたと同時に、サーラを大切にしよう。大丈夫だ、僕は間違っていない。大丈夫だ!
そして迎えた卒業パーティー
僕が贈ったドレスに身を包んだサーラ。やっぱりサーラは可愛い。サーラと手を繋いで馬車に乗る。柔らかくて温かい手!これからは、毎日ずっと一緒だ。
そう思っていたのに…
まさか婚約破棄を喜んで受け入れるなんて…
「私も、あなた様を心より嫌っておりますの。喜んで、婚約破棄をさせていただきますわ」
どういった時のサーラの顔は、今まで見た事が無いほど生き生きとしていた。そう言えば、僕はサーラの笑顔が大好きだったはずなのに…一体どこで間違えてしまったのだろう…
僕が贈った紫のドレスと宝石をさっさと脱ぎ捨て、颯爽と出て行くサーラ。必死に追いかけたものの、突き放されてしまった。それほどまでに、サーラに嫌われていたなんて…
頭を抱える僕の元にやって来たのは、父上と母上だ。
「エイダン、良かったわね!やっとあの女と婚約破棄が出来て!それでね、新しい婚約者を見つける為に、近々お茶会を開こうと思うの。今度は、あなた自身で好きな令嬢を選びなさい」
満面の笑みで僕に話しかけて来る母上。
「ふざけるな!僕が心から愛しているのは、サーラだけだ!他の令嬢なんかと、誰が結婚するか!」
「何を言っているの?あなたはあの女を、物凄く嫌っていたじゃない!実際、あなたは私たちにあの女の事を悪く言っていたし!」
「嫌ってなどいない!そう言ってサーラを孤立させ、僕に依存させようと思っていたんだよ。それなのに、サーラを失った…僕はもう、どうしていいのか分からない…」
「エイダン、お前…」
さすがの両親も困惑顔だ。
とにかく、サーラを取り戻そう。どんな手を使っても…
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