第13話 こんなはずでは無かったのに【前半】~エイダン視点~

卒業パーティーを終え、部屋に戻った僕は、正直今日起こった出来事を受け入れられずにいた。


「なんでこんな事になってしまったんだ…サーラ…」



サーラと初めて出会ったのは、10歳のお茶会だった。既に王太子に内定していた僕に婚約者をと、母上がお茶会を開催したのだ。いつもの様に、沢山の令嬢が群がって来る。そして僕は、いつもの様に笑顔で迎え入れた。


そんな中、1人の令嬢に目が留まった。金色の髪に真っ赤な瞳をした女の子だ。どうやらお茶会に慣れていないのか、どうしていいのか分からないようでアタフタしていた。


その姿が可愛くて、つい声を掛けた。


「君、名前は?」


「サーラ・ウィヴィッズと申します」


急に僕が話しかけたせいか、明らかに動揺しているサーラ。その姿がまた可愛い。


「緊張しているんだね。そうだ、これあげる。さっき庭で取って来たんだ」


彼女に赤いバラを差し出した。今日来てくれた令嬢には、皆に渡している。その為、彼女にも渡した。そう、特に深い意味はない。


「まあ、ありがとうございます。私、バラって大好きですの」


そう言って、嬉しそうに笑った。その笑顔が物凄く可愛くて…

一気に鼓動が早くなるのが分かった。そう、僕はこの瞬間から、サーラを好きになってしまったんだ。


その日、母上から色々な家から結婚の打診が来ている事を聞かされた。もちろん、ウィヴィッズ侯爵家からもだ。


「エイダン、ウィヴィッズ侯爵家から、色々な贈り物が届いているわ。どうやら、何が何でも娘とあなたを婚約させたい様ね。どうする?別の家からも申し込みが来ているから、他の令嬢でもいいのよ」


そう言った母上。でも、もう僕の心は決まっていた。


「母上、せっかく侯爵がそこまで熱心に色々と贈り物をしてくれているのに、断っては悪いよ。いいよ、僕、サーラと婚約するよ」


こうして僕は、サーラと無事婚約する事が出来た。サーラは僕の大切な婚約者だ。でも、婚約者ってどうやって扱えばいいんだ?


そんな時、ある本を読んだ。そう、男は愛されてこそ幸せになれる。相手を追いかけるのではなく、冷たく突き放した方が、相手は自分に振り向いてほしくて、必死に追いかけて来ると書いてあった。


ただし、やりすぎは禁物。あまり突き放しすぎると、誰かに優しくされた時、そちらになびく事がある。そうも記載されていた。


そうか、冷たく突き放せばいいのか!それからというもの、サーラにだけ冷たく当たった。正直最初は可愛いサーラを傷つけている様で辛かったが、いつの間にか慣れて来た。そもそも、僕とサーラが幸せになる為の試練だ。そう思ったら、耐えられた。


いつしかサーラに小言を言うのが当たり前になっていた。眉間にしわを寄せるのも上手くなった。


そう言えば、誰かに優しくされた時、そちらになびく事がある。そう書いてあったな。その事を思い出した僕は、誰かがサーラに優しくしない様に、母上や貴族たちに、いかにサーラが我が儘で性格の悪い女か吹き込んでいった。


有難い事に、僕の事を慕ってくれている人たちを中心に、一気にサーラの評判は奈落の底に落ちていった。


元々サーラの両親はサーラの事を、政治の道具としてしか見ていない節があっから、特に問題ない。ただメイドたちが、サーラに優しく接していた様だった。その為、侯爵にそれとなく忠告し、メイドたちを首にした。完全に孤立したサーラ。


よし、この調子でどんどん孤立させていこう。


そうだな、貴族学院を卒業したら、今度は優しく接しよう。そう、今までサーラに触れられなかった分、たっぷり愛情を与えるんだ。そうすれば、きっとサーラは僕に依存するだろう。


そうなれば、一生僕から離れなくなる。そう、僕の計画は完ぺきだった。


ただ周りからは何度も

「殿下がお嫌なら、婚約破棄してもいいのですよ」

そう言われていた。


さらに両親からも

「侯爵には特に恩義も何にもないんだ。エイダンが嫌なら、婚約破棄しなさい」


そう何度も言われた。でも僕はそのたびに


「僕は婚約破棄するつもりはないよ」


そう伝えた。そう、僕はサーラを心から愛しているんだ。冷たく当たるのも、愛しているからゆえの事。それなのに、どうして愛するサーラを自ら手放さなければいけないのか、さっぱり分からない。


そして、卒業を半年後に迫ったある日。僕達の寝室が完成した。でも、その部屋を見て怒りが込み上げてきたのだ。


なんと夫婦の寝室のはずが、僕の部屋しかなかったのだ。


「どうして僕の部屋しかないんだ。普通夫婦の寝室と言えば、寝室とそれぞれの部屋があるはずだろう!」


そう怒鳴りつけた。普段温厚な僕が怒鳴ったからか、執事もびっくりした様で、一気に動揺しているのが見て取れる。


「も、申し訳ございません!王妃様の指示で、サーラ様の部屋は離宮に準備いたしました。そうすれば、王太子殿下が、サーラ様と極力接触しなくても良いからとの事でして」


「ふざけるな!」


僕は必死に自分の感情を抑え、わざとサーラに辛く当たっているんだ。それもこれも、サーラを確実に僕のものにする為なのに!


「とにかく、通常通りの夫婦の寝室に作り直せ」


そう指示を出した。そして、母上にはこれ以上口を出さない様伝えた。ちょっと母上にサーラの事を悪く言い過ぎたかもしれない。でも、もう後戻りはできない。このまま突き進もう。

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