第12話 喜んで婚約破棄いたしますわ

エイダン様の方をまっすぐ見つめた。なぜか目が泳いでるように見えるが、気のせいだろうか。


「それは奇遇ですわね。私も、あなた様を心より嫌っておりますの。喜んで、婚約破棄をさせていただきますわ」


私の言葉を聞き、明らかに周りも動揺している。きっと私が泣いて縋りつくとでも思ったのだろう。でも、そんな事はない。


「サーラ、お前は何を言っているんだ!もしお前が殿下との婚約破棄を受け入れるなら、勘当だ!」


真っ赤な顔で私を怒鳴りつけるお父様。よし!勘当頂いたわ!


「まあ、勘当して頂けるのですか!それは嬉しいですわ。これで私は政治の道具としても解放されるのね。やっとお人形から、普通の人間になれるのだわ!それではお父様、いいえ、もう勘当されたのですから、侯爵様とお呼びした方がよろしいですわね。ごきげんよう!」


そう言ってさっさと退場しようとしたのだが…


「ふざけるな!私に恥をかかせやがって」


そう言って私に殴り掛かって来た侯爵(元父親)を、誰かが止めた。


「ウィヴィッズ侯爵殿、もうあなたとサーラ嬢は血縁関係を解消したのでしょう。それなら、あなたに赤の他人である女性に暴力をふるう権利はない」


「バザダフィ男爵!貴様!」


バザダフィ男爵ですって。オーフェン様のお父様だわ。まさか、男爵まで私の味方だっただなんて。でも、私の見方をしても大丈夫かしら?


「とにかく、ここに音声が残っている。この国では、音声確認が出来れば、書類が無くても婚約破棄や勘当出来る事は、あなたも知っているだろう」


強い口調で迫る男爵。


「ウィヴィッズ侯爵、バザダフィ男爵の言う通りだ。とにかく、これ以上騒ぎを大きくするのは止めろ」


なぜか慌てて止めに入ったのは、陛下だ。明らかに顔色が悪い。どうしたと言うのだろう。


「皆の者、よく聞け。今この瞬間を持って、エイダンとサーラ嬢の婚約は破棄された。さらに、サーラ嬢はウィヴィッズ侯爵に勘当された為、もうウィヴィッズ侯爵家の人間ではない!以上だ」


もしかして、陛下も味方なのかしら?そう思う程、はっきりと宣言してくれた。でも、どうやらそうではない様だ。宣言した瞬間、すぐにバザダフィ男爵の方を確認している。


もしかして、陛下はバザダフィ男爵に弱みでも握られているのかしら。まあ、私には関係ないわね。


「それでは私はこれで失礼しますわ。そうそう、私はもう貴族ではないうえ、王太子殿下との婚約も破棄されましたので、ドレスはお返します」


すかさずドレスを脱ぎ捨てた。もちろん、アクセサリーもその場に置いた。すぐに脱げる様に細工しておいたのよね。ちなみにドレスの下には、オーフェン様と街に行った時に買った、花柄のワンピースを着ている。オーフェン様が選んでくれたワンピースだ。


有難い事に、私が通る場所を開けてくれている貴族たち。平民になると、優しくなるのかしら?そんな事を思いながら、大ホールを歩いて出口まで向かう。


「待ってくれ!サーラ」


私に向かって叫んだのは王太子だ。まだ何か文句があるのかしら?面倒だが、一応振り返った。


「何かまだ文句でもございますか?王太子殿下」


「サーラ、侯爵に勘当されて、これからどうするつもりだ。一時的な感情で動いてはいけない。今婚約破棄を取り消せば、君は王妃になれるんだ。王妃になれば、きっと幸せになれる」


この期に及んで、この男は何を言っているのだろう。


「ご心配はいりませんわ。この日の為に、しっかり平民になる準備をしてきましたので。それと、王妃様になんてなりたくありません。いつも冷たく私に当たる婚約者、嫌味しか言わない令嬢たち、私の事を政治の道具として見ていない両親。こんな人間たちに囲まれて、これからも生きて行くなんてゾッとします。それならば平民になった方が、100億倍は幸せですわ。正直あなたの顔なんて二度と見たくありませんの。あなただって、私の事を心底嫌っているではありませんか。お互い自由になれて、良かったですわね。それではこれで」


信じられないと言った表情をしている王太子に、にっこり微笑んでやった。言いたいことをすべて言ったらスッキリした。さっさとアパートに戻ろう。


「待ってくれ、サーラ!頼む、話しをしよう!」


後ろでまだギャーギャー騒いでいた。


「ストレスのはけ口なら他を当たって下さい。私はこれ以上、あなたの嫌がらせに耐える自信はありませんので」


後ろを振り向かずに、そう叫んで大ホールを後にした。外に出ると、朝と変わらない美しい青空が広がっていた。


「オーフェン様、無事婚約破棄出来ましたわ。あなたのお陰です。ありがとう」


空に向かって、そっと呟いたサーラであった。

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