第10話 いよいよ卒業パーティーが明日に迫って来ました

王宮に呼び出されて以降、またエイダン様が絡んで来たらどうしよう!そう思っていたが、特にそんな事も無く、いつも通り私に嫌味を言う令嬢たちを笑って見ていた。


正直、あと少しでエイダン様含め令嬢たちとはおさらばだから、何とか耐えられる。ただ、オーフェン様に会えない事は、私にとって予想以上に辛かった。いつもオーフェン様に貰ったネックレスを見つめている。


もちろんオーフェン様から貰った手紙も、何度も何度も読み返した。そのおかげで婚約破棄の計画は、もうバッチリ頭に叩き込んだ。


そしていよいよ明日は卒業パーティーだ。そう、明日私の運命が決まる。早速貴族学院が終わると、アパートに直行した。とりあえず明日の卒業パーティーが終わったら、屋敷には戻らず(というより戻らせてもらえない)直接このアパートに来るだろう。


その為、大切なものを持って来たのだ。大切な物と言っても、オーフェン様から貰った手紙ぐらいだが…


最後にもう一度手紙を読み返した。オーフェン様の直筆。そう思っただけで、愛おしくてたまらない。つい手紙を抱きしめてしまうせいか、既にシワシワになってしまっている。


しばらく手紙を抱きしめていると


コンコン

「サーラちゃん、来ているの?」


マドレアおば様が訪ねて来た。


急いで鍵を開ける。


「マドレアおば様、どうかされましたか?」


「特に用事はないのだけれどね。オーフェンで…オーフェン様があなたを気に掛けてあげて欲しいとおっしゃっていたから、気になったの。明日、卒業パーティーでしょ。なんだか心配になって…」


どうやら私の事を心配して、見に来てくれた様だ。


「ありがとうございます。オーフェン様から細かな計画が書かれた手紙を頂いておりますので、後は上手く実行するまでです」


「そうかい?明日はこの場所で、サーラちゃんが来るのを待っているかね。安心して、婚約破棄をして来るといい」


「ありがとうございます。マドレアおば様」


いつの間にか、私にはオーフェン様以外にも信頼できる人が出来ていたのね。とにかく、楽しい平民生活を送る為にも、明日は頑張らないと!


アパートを後にし、家に帰るとなぜかご機嫌のお母様が待っていた。


「やっと帰って来たのね。サーラ、喜びなさい!エイダン殿下から、明日着る為のドレスと宝石が届いたわよ」


何ですって!一体どういう事なのかしら?届いた箱を開けると、そこには確かにドレスが入っていた。でも…


「紫色に金の刺繍がしてあるドレスだなんて、素晴らしいわ。まさにエイダン殿下カラー一色ね。それにこの生地、物凄く高級よ。サーラ、よくやったわ!嫌われていると思っていたけれど、結局婚約破棄される事なくここまで来たのですもの。もうあなたの王妃はこれで確実ね」


物凄く喜んでいるお母様。でも、きっと嫌がらせだろう。この前の夜会の時、私はあの男にはっきりと紫色は嫌いだと言った。にもかかわらず、こんな物を送って来るなんて!


まあいいわ。私が婚約破棄する事には変わりない。最後にこの大嫌いな紫色のドレスを着て、華麗に婚約破棄してやろうじゃない!俄然やる気が出て来た。


さらに箱の中をあさるお母様。


「サーラ、見て見なさい!アメジストのネックレスにイヤリング。さらにティアラまであるわよ。凄いわね」


ティアラって…

これは完全に令嬢にバカにされるわね…


とりあえず、自室に戻った。明日はいよいよ卒業パーティーだ。この7年、本当に辛かった。エイダン様と婚約する前までは、そこまで周りに嫌われていなった。少ないながらも友達もいた。


でも…

エイダン様と婚約した事で、私は全てを奪われた。と言っても、元々持っているものも少なかったけれど。それも明日で終わり。明日からは今まで辛い思いをした分、思う存分自分の意志で生きて行こう。


ふとクローゼットを開けてみる。そこには、8割がた紫のドレスが並んでいた。いつからだろう、紫のドレスを着せされるようになったのは…いつからだろう、紫色が嫌いになったのは…


もう明日を最後に、二度と紫色の服を着る事はないだろう。やっとこれで自由になれる。そう思ったら、涙が止まらなかった。


その後、家族で夕食を食べた。エイダン様からドレスが贈られたとあり、いつになくご機嫌な両親。この人たちと、こうやってご飯を食べるのも最後になるのね。そう思ったら、なぜか笑みがこぼれた。


食後は湯あみを済ませ、布団に入る。この布団で寝るのも、今日で最後だ。やっとこの堅苦しく地獄の様な貴族界から解放される。そう思ったら、興奮して寝られない。ダメよ、明日に備えて早く寝ないと!そう自分に言い聞かせ、何とか眠りに付いた。

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