第8話 オーフェン様とお別れの様です

家に帰ると、お父様が鬼の様な顔でこちらにやって来た。


「このバカが!!!」

バシーーン


力いっぱい頬を叩かれたせいで、私の体は吹っ飛んだ。


「侯爵、暴力は良くないよ。でもサーラが悪いのだから、仕方ないか」


なぜか家にいるエイダン様。


「どうしてエイダン様が、我が家にいらっしゃるのですか?」


「どうしてもこうしてもない!エイダン殿下は、お前を迎えに来てくださったんだ。今日はエイダン殿下と、王宮で結婚に関する準備を一緒にする約束をしていたそうじゃないか!それなのに、お前はどこに行っていたのだ!」


私に怒鳴るお父様。確か、その約束は断ったはずだわ。そうか、私を困らせる為に、わざと迎えに来たのね。相変わらず性格の悪い男ね!でも、ここは反論するのは得策ではない。


「そうでしたか。それは申し訳ございませんでした」


エイダン様に深々と頭を下げた。正直こんな男に頭を下げたくはない。でも、あと少しの辛抱だ。とにかく、今は謝っておこう。


「誰にでも忘れてしまう事はあるものね。僕もはっきりと約束していなかったのも悪いから。次の休みは、今度こそ王宮においで!約束だよ!それじゃあ、僕は帰るよ。サーラ、頬が赤くなっているね。冷やした方がいい。それじゃあ」


そうって帰って行くエイダン様。


「エイダン殿下、本当に娘が申し訳ございませんでした。ほら、お前もボーっと立っていないで、頭を下げろ」


お父様に言われ、慌てて頭を下げた。どうして?今まで私に見向きもしなかったくせに!どうして今頃私に絡んでくるの?恐怖と嫌悪感で、震えが止まらない。


エイダン様が帰った後も、私に怒鳴りまくるお父様。さすがに殴られる事はなかったが、正直辛かった。


早く!早く婚約破棄をしたい。後3週間、私は耐えられるかしら…


翌日

腫れた私の顔を見て、悲しそうな顔をしたオーフェン様。


「君の父親は本当にクズだね。もちろん、王太子も」


そう言って何かを考え込むオーフェン様。


「私は大丈夫よ。だってあと少しすれば、あの人たちともお別れ出来るのですもの」


そう言って笑って見せたものの、元気のないオーフェン様。私のせいで、オーフェン様にこんな悲しそうな顔をさせてしまうなんて。私って本当にダメね…



数日後

お父様に叩かれた頬もすっかり治り、いつもの様にオーフェン様の元へと向かう。なぜか寂しそうな顔をしているオーフェン様。何かあったのかしら?


「サーラ、実はちょっと事情があって、明日この国を出る事になったんだ」


「どういう事ですか?国を出るとは?」


オーフェン様の言っている意味が全然分からない。私の唯一の心の支えでもあるオーフェン様が居なくなるなんて…


「どうしてもやらなければいけない事が出来たんだ。でも、必ず帰って来る。ただ、卒業パーティーまでには帰って来られないから、これを」


オーフェン様から渡されたのは、1通の手紙だ。かなり分厚い。


「この手紙に婚約破棄の方法や、平民になった時の過ごし方などが書いてある」


「オーフェン様、私の為に!」


「本当は側で支えてやりたかったんだが…本当にすまない」


そう言って深々と頭を下げるオーフェン様。


「私は大丈夫よ!オーフェン様のおかげで、平民になる為の準備は整っているし。きっとうまくやれるわ!オーフェン様に会えなくなるのは寂しいけれど、でも大丈夫。きっと1人で立派に生きて見せるから」


本当はオーフェン様にどこにも行って欲しくない。でもそれは、私の我が儘でしかない。だからオーフェン様の為にも、笑顔でお別れしよう。それが、私に出来る唯一の事だから。


「1人でか…出来るだけ早く帰ってくるから、僕の事、忘れないでくれるかい?」


「もちろんよ。忘れる訳がないわ!あのアパートで待っているから、帰国したら必ず会いに来てね」


「もちろんだよ!」


そう言うと、なぜか眼鏡をはずしたオーフェン様。初めて見るオーフェン様の素顔。美しく整った顔立ち、そして美しいオレンジ色の瞳。一気に心臓の音がうるさくなる。


「僕の素顔を覚えておいてね。それからこれを。これは代々我が家に伝わるネックレスだ。このネックレスが、サーラをきっと守ってくれるから」


七色に光る宝石が付いたネックレス。こんなにも美しい宝石は見た事が無い。


「こんな高価な物は貰えないわ」


そう言って返そうとしたのだが…


「それじゃあ、僕が戻るまでサーラが預かっていて欲しい」


そう言って首にネックレスを掛けてくれたオーフェン様。


「それじゃあ元気でね、サーラ。僕の指示通りにやれば、必ず婚約破棄できるから、頑張るんだよ」


「ありがとう、オーフェン様。絶対に婚約破棄して、平民になってオーフェン様が訪ねてくれるのを待っているから」


最後は笑顔で別れたい。そう思って必死に笑顔を作った。私の頭を優しく撫でると、ゆっくりと歩き出したオーフェン様。その後ろ姿を、ずっと見つめ続けたのであった。

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