第7話 平民になる為の準備は順調です

アパートが決まると、早速今週末、オーフェン様と一緒に生活に必要な物を買いに行った。一応侯爵令嬢という事もあり、今日は町娘の様な格好で向かった。ただ、私は町娘の様な服は持っていないので、この服もオーフェン様が準備してくれた。


「オーフェン様、このベッド素敵ですわ。まあ、この戸棚も素敵。こっちのソファーもいいわね」


初めて見る家具に大興奮だ。今まではドレス1着ですら、私の意見を聞き入れられる事はなかった。その為、全て自分の意志で選べるのが、嬉しくてたまらない。


「サーラ、部屋は小さいから、そんなに大きな戸棚は入らないよ。ソファーもちょっと厳しいね」


そう言って苦笑いしているオーフェン様。確かにあの部屋にはちょっと入らないわね。結局小さめの戸棚と机、テーブル、さらにベッドも買った。


家具を買った後は、日用品の買い出しもした。有難い事に、オーフェン様が予め必要な物をメモしてくれていたので、メモを見ながら買い物をしていく。


ふと近くの洋服店に目が留まった。


「平民として生活するなら、服も必要だね。せっかくだから、見に行こう」


オーフェン様に連れられて、洋服店に入った。可愛らしいワンピースから動きやすいズボンまで色々売っている。


「サーラ、どれがいいんだい?好きな服を選んだらいいんだよ」


好きな服か!1つ1つ手に取って見て行く。そして私が選んだのは、ピンクと黄色のワンピースだ。一応ズボンも何着か選んだ。


「サーラ、この花柄のワンピース、サーラに似合いそうだね」


オーフェン様が選んだのは、小さな花が描かれた可愛らしいワンピースだ。


「本当だわ。これも買って行きましょう!」


オーフェン様が選んでくれたワンピース。私の宝物にしよう。


早速購入したものをアパートに運んでいく。家具はお店の人が運んでくれた。どんどん家らしくなっていく事が、何よりも嬉しい。購入した服も、クローゼットに掛けて行く。自分の意志で選んだが洋服たち。


ただそれだけなのに、着る前から物凄く愛着が湧いているのはなぜだろう。


「サーラ、お腹が空いたね。せっかくだから、お昼ご飯を食べに行こう」


「そう言えば、お腹ペコペコだわ」


2人で手を繋いで向かった先は、近くの食堂だ。


「ここはお肉の煮込み料理が美味しいんだよ」


そう教えてくれたオーフェン様。


「では、私はそれを頂きますわ」


オーフェン様も同じものを頼んでいた。しばらく待っていると料理が運ばれて来た。早速1口。


「このお料理、とても美味しい!こんなにも美味しいお料理は初めて食べたわ」


今までのどの料理より美味しい。もちろん、王宮で食べた料理よりもだ。料理が美味しいのはもちろんだが、もしかしたらオーフェン様と一緒に食べているからかもしれない。結局お肉料理の他に、魚料理、さらにデザートまで頂いた。


「サーラ、ここの店を切り盛りしているマドレアだ。僕の古くからの友人なんだ。何かあったら、彼女に頼ると良い」


「あなたがサーラちゃんね。私はマドレアよ。よろしくね」


「こちらこそ、よろしくお願いします。マドレア様」


「あらやだ、様は要らないわ。私の事は、そうね。マドレアおばさんとでも、呼んでもらおうかしら」


「分かりましたわ。マドレアおば様」


どうやらマドレアおば様はとてもいい人の様だ。


食事の後は再びアパートに戻り、部屋の整理をしていく。もちろん、オーフェン様も手伝ってくれている。


「サーラ、一応調理器具は置いておくけれど、怪我をしては大変だ。出来るだけマドレアのお店で食事を取る様にするんだよ。マドレアにも頼んであるから」


そう言ったオーフェン様。


「分かりましたわ。でも、全く料理が出来ないと言うのも考え物なので、少しずつ練習はしていきますね」


平民はみんな料理をすると書いてあった。特に小さい頃から、両親に料理を教えてもらっているらしい。私はもう17歳だ。平民になるのだから、簡単な料理くらいは作れるようになりたい。


ある程度片づけ終わったところで、ちょうど日が沈みかかっている事に気が付いた。


「オーフェン様、見て!夕焼けが物凄く奇麗よ!」


窓の外には、真っ赤に染まった夕焼け空が。


「本当だね、こんなに奇麗な夕焼け。初めて見たよ」


「私もよ。オーフェン様。私の為に、色々と動いてくれてありがとう。ここまで来られたのも、あなたのおかげよ」


改めてオーフェン様のお礼を言った。彼が居なかったら、今でも絶望の中で生きていただろう。


「サーラ。僕はお礼を言われるような事はしていないよ。僕は僕の為に行動したまでだよ」


僕の為に行動?一体どういう事かしら?よく分からないが、きっと私に気を使ってくれているのだろう。


「さあ、そろそろ帰ろうか。もうじき日も沈むよ」


「そうね。そろそろ帰りましょうか」


2人で手を繋いでアパートを出る。このままずっと、オーフェン様と一緒にいられたらいいのに…


オーフェンの手の温もりを感じながら、心の中でそっと呟くサーラであった。

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