第6話 オーフェン様とアパートを見に行きます
夜会から帰ると、早速お父様とお母様の小言が始まったが、疲れていると言ってさっさと自室に戻った。
これでやっと苦痛だった夜会ともおさらばね。そう思ったら、嬉しくてたまらない!とにかく、早くエイダン様と婚約破棄をして、楽しい平民ライフを送りたいものね。
数日後
「サーラ、明日の放課後、時間はあるかい?」
いつもの様にお昼休み、大きな木の下にやって来ると、急にオーフェン様がそんな事を言いだした。
「ええ、大丈夫ですわ」
「それじゃあ明日の放課後、アパートを一緒に見に行こう。ある程度いくつか目星は付けているんだ」
そう言ってにっこり笑ったオーフェン様。
「本当なの?嬉しいわ!ありがとう、オーフェン様!」
ついに私が住むアパートを見に行けるのね。嬉しくてついオーフェン様に抱き着いてしまった。初めて触れる人の温もりに、一気に鼓動がうるさくなる。私、一体に何をしているのかしら!はしたない!
「ごめんなさい」
そう言って急いでオーフェン様から離れた。
「僕は大丈夫だよ。ほら、おいで」
そう言って、私をギューッと抱きしめてくれたオーフェン様。温かくてがっちりした体。出来る事なら、ずっとオーフェン様と一緒にいたい…
そんな感情が溢れ出す。ダメよ、オーフェン様は男爵令息なのですもの。いずれ貴族令嬢と結婚して、男爵家を継ぐ人。平民になる私が、求めてはいけない。
「それじゃあ、明日の放課後、この場所に来てくれるかい?出来るだけ目立たない格好で来るんだよ」
とう言って、待ち合わせ場所が記載された紙を渡してくれたオーフェン様。
「ええ、分かりましたわ。楽しみにしていますね」
そう言って教室に戻る。後1ヶ月後にはオーフェン様とお別れ、そう思うと、胸が締め付けられた。でも、これ以上の事は望んではいけない。そう自分に言い聞かせる。
そして翌日
学院が終わると、急いで馬車に乗り込もうとした時だった。
「随分と急いでいる様だな」
話しかけてきたのは、エイダン様だ。
「はい、急いでおりますので、これで失礼します」
正直こんな男に構っている暇はない。少しでも早くオーフェン様の元に向かいたいのだ。
「待て、今週末、久しぶりに王宮に来い。貴族学院を卒業したら、本格的に結婚の準備を始める必要がある。その為にも、色々と準備をしておいた方がいいからな」
結婚の準備ですって!
「お言葉ですが、“結婚の準備に関して、君には口を出して欲しくない”とおっしゃったのは、あなた様です。ですので、私が行く必要はございません。それでは、私は急いでおりますので」
「待て、さすがに君だって、全くノータッチと言うのも嫌だろう。だから、少しは関わらせてやってもいいと思っているんだ!」
この男は何を言っているのだろう。
「お気遣いありがとうございます。でも、結構です。とにかく急いでおりますので」
何とかエイダン様を振り払い、オーフェン様との待ち合わせ場所へと向かう。それにしても、エイダン様は何を考えているのかしら?今更王宮に来いだなんて。そもそも、王妃教育が終わった後、どうしても外せない用事がある時以外、王宮に来るなと言ったのはそっちだろう。
まあ、あんな男の事はどうでもいい。とにかく今日は、アパートを選ぶのよね。急いで待ち合わせ場所に行くと、既にオーフェン様が待っていた。
「オーフェン様、お待たせしてごめんなさい!」
「そんなに走ってこなくても大丈夫だよ。それじゃあ、行こうか」
オーフェン様に最初に連れて来てもらったのは、2階建てのアパートだ。どうやら2階の一番端の部屋の様だ。
「ここはセキュリティーもしっかりしているし、独身女性の一人暮らしも多いんだよ。ただ、少し部屋が小さいけれどね」
そう言って部屋を見せてくれたオーフェン様。確かに少し部屋は小さいが、1人で住むなら十分だ。
「オーフェン様、このお部屋、素敵ね。ここにするわ」
そう伝えたのだが
「サーラは決断が早いね。でも、まだいくつか部屋があるから、他の部屋も見に行こう」
そう言って、私の手を掴んだオーフェン様。一気に鼓動が早くなる。大きくて温かい手。その温もりが、物凄く心地いい。
その後もいくつかの部屋を見て回ったが、やっぱり最初の部屋がいいという事で、最初に見た部屋を借りる事にした。
「はい、これ。部屋の鍵だよ!念のため、スペアーは僕が持っていてもいいかい?」
「ええ、もちろんよ。色々とありがとう」
再び2人で、私が平民になった時に住む部屋へと戻って来た。
「サーラ、このままでは住めないから、来週にでも一緒に必要な物を買いに行こう」
「オーフェン様も一緒に選んでくれるの?嬉しいわ。ねえオーフェン様、ここに家具を置きましょう。食器棚はここ。そうね、ベッドはここがいいわ」
嬉しくて次々と計画を立てていく。そんな私を、笑顔で見つめているオーフェン様。そんなオーフェン様が愛おしくてたまらない。
「ねえ、オーフェン様、たまにはこの家に遊びに来てくれる?」
「もちろんだよ。サーラに毎日会いに来るよ!」
そう言って頭を撫でてくれたオーフェン様。毎日来てくれるのか。それは嬉しいわ!
でも、オーフェン様ももう17歳。いずれは男爵家を継ぐために、貴族令嬢と結婚するのだろう。そうなれば、きっと私には会いに来てくれなくなるわね。そう思ったら、なんだか胸がズキリと痛んだ。
「どうしたんだい?サーラ。そんな悲しそうな顔をして。僕はサーラが笑っている顔が一番好きなんだ」
「私も、オーフェン様が笑っている姿、大好きですわ。オーフェン様、私、立派な平民になって見せます。だから安心して下さい」
そうよ、これ以上望んではダメ。それに、まだ見ぬ未来の事を悲しんでも仕方ないわ!
「立派な平民って…」
少し困った顔のオーフェン様。とにかく、住む場所も決まった。卒業パーティーまで1ヶ月を切っている。急ピッチで準備を進めないと!
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