第5話 苦痛な夜会に行って来ます

夜会当日を迎えた。

この2ヶ月間、平民になる為に、コツコツと準備を進めて来た。有難い事に、オーフェン様が色々と協力してくれたおかげで、お金も10年は遊んで暮らせるだけ準備できた。


この面倒な夜会が終わったら、平民として暮らす為にアパートをオーフェン様と一緒に見に行くことになっている.

オーフェン様は、本当に私の為に色々と動いてくれているのだ。


アパートが決まれば、生活に必要な物を少しずつそこに移動する事が出来る。後1ヶ月我慢すれば、憧れの平民生活が待っている。だからこそ、今日の夜会は何が何でも乗り切らないといけないのだ。


そう気合を入れるものの、夜会なんて行きたくないと言うのが本音だ。そんな私の気持ちとは裏腹に、昼過ぎから私を磨き上げ始めたメイドたち。


案の定、ドレスは紫だ。さらに宝石も紫で統一されている。正直見ただけで吐き気を催しそうな代物だ。でも、私に文句を言う権利はない。メイドにされるがまま、ドレスを着せられ、アクセサリーを付けられる。


全身紫コーデの完成だ。少し早いが重い足取りで玄関へと向かう。玄関には、お父様とお母様が待っていた。


「いいか!絶対にエイダン殿下の機嫌を損ねるなよ!」


毎回オウムの様に同じ事を唱えるお父様。その時だった。相変わらず不機嫌そうなエイダン様の登場だ。私の姿を見て、さらに不機嫌になる。私だって、あんたの眉間にしわをたっぷり寄せた顔を見ると、ため息が出るのを必死に耐えているのよ!そう言いたいが、言える訳がない。


「エイダン殿下、わざわざお迎えに来て頂き、誠にありがとうございます。どうか娘をお願いします」


物凄い笑顔でエイダン様に話しかけるお父様。


「一応婚約者だからな。仕方ない。ほら、さっさと来い!」


そう言ってさっさと馬車に乗り込むエイダン様。私も急いで馬車に乗り込んだ。


「は~、何なんだその衣装は」


出た!エイダン様の小言。毎回ネチネチネチネチ、目的地に着くまでずっとこの小言を聞かされるのだ。いつもは黙って下を向いているが、どうせ婚約破棄をするのだ。言い返してやろう。


そう思い


「仕方ありませんわ。お母様が私にドレスも宝石も選ばせて下さらないのですもの。私、紫色って大っ嫌いなんです!正直こんなドレスを着せられ、吐き気がしますわ」


そうはっきりと言ってやった。“紫色が嫌い=エイダン様が嫌い”そう言う意味なのだが、伝わったかしら?


「どういう事だ、君は紫色が好きで着ていたのではないのか?」


「いいえ、私はエメラルドグリーンや黄色、ピンク等明るい色が好きなのです。でも、私には発言権がありませんので。仕方なくこの色を着ているまでです」


一切エイダン様の方を見ずにそう答える。正直、顔も見たくない。私の言葉を聞き、黙り込んだエイダン様。今日は小言を聞かなくてもいい様だ。ラッキーね。


無言のまま、王宮へと着いた。いつもの様に、腕を組む。正直この男に触れたくはないが、この時ばかりは仕方がない。大ホールに着けば、いつもの様におさらばだ。それまでの辛抱!


そう自分に言い聞かせ、ホールの中に入って行く。私たちが入場すると、一斉にみんながこちらを見る。そして私に聞こえる様に、令嬢たちが悪口を言うのだ。正直苦痛でしかない時間だが、これも最後と思えばどうって事はない。


大ホールの真ん中まで来ると、すかさず令嬢が私を押し退けてやって来た。これで私の役割は終わりだ。


相変わらず令嬢は


「紫のドレスに紫の宝石なのね。本当に露骨ね」


そう言ってクスクス笑っている。本当に、こんなドレスと宝石を身に着けさせられるなんて、どんな罰ゲームかしら?そう思う程、苦痛でしかない。


さあ、いつもの様に壁の花になるべく、移動しようとした時だった。


「待て!」


なぜか私の腕を掴んだエイダン様。体中に嫌悪感が伝わり、咄嗟に振りほどいてしまった。手を振りほどかれて、目を大きく見開いて固まっているエイダン様。


「申し訳ございません」


とりあえず謝っておいた。とにかくこの男から離れたい!そんな思いから、再び歩き出そうとした時だった。


「待てと言っているだろう。今日は特別に、一緒に踊ってやろう」


こいつは何を言っているのだろう。そんなもの、もちろんお断りだ。どうして大嫌いな男と、ダンスなんて踊らないといけないのだろう。


「有難い申し出ですが、今日は少し体調が優れませんので。どうぞ私の事はお気遣いなく、他の令嬢と踊ってください」


そう言って頭を下げ、さっさと壁の花になる為、歩きはじめた。


「おい…」


まだ何か言いたげだったが、令嬢たちが話しかけている様で、うまく逃げられた。いつもの様に、壁にもたれかかる。時折、令嬢たちが暴言を吐きに来るが、とにかくスルーしてやりすごす。


ふと周りを見渡すと、少しずつ帰って行く人の姿も。よし、私も帰ろう。


早速出口に向かおうとしたのだが…


「おい、帰るのか?体調が良くないなら、送って行こう」


なぜかエイダン様が再び私のところにやって来た。


「お気遣いありがとうございます。でも、もう体調も戻りましたので。それでは、失礼します」


正直帰りまで、あの男の小言を聞くのは御免だ。とにかく、もう私には関わらないで欲しい。そんな思いから、さっさと馬車に乗り込み、家路に着いたのであった。

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