第3話 平民になる為に準備を始めます
まずは平民の生活などを勉強しないと。侯爵家にももちろん図書館があるが、私は自由に図書館に出入りする事を禁止されている。仕方ない、明日の朝一番に、学院の図書館に行って平民に関する本を読もう。
それから、次はお金の準備よね。お金か…
正直お金なんて持っていないわ。そうだ、これがあった。
引き出しから、沢山の宝石を取り出した。そう、私は一応は侯爵令嬢。両親が夜会やパーティー用に準備してくれているのだ。両親は人一倍見栄っ張りだから、私が貧相な宝石を身につけている事が許せないらしい。
そのおかげで、沢山の宝石がある。さらに、毎年エイダン様からも誕生日に宝石が贈られる。きっと婚約者に誕生日プレゼントを贈るいい人アピールをしているのだろう。
こんなもの、ガラクタでしかないと思っていたが、今となっては平民になる為の大切な資金源だ。でも、なぜかこうやって見ると、アメジスト(紫色)ばかりね。そう言えば、この国には大切な人に、自分の瞳の色の宝石を贈る習慣がある。
エイダン様の瞳の色は紫だ。きっとメイドたちに適当に指示して、買わせているのだろう。
今思い返せば、正直誕生日の後は物凄く憂鬱だった。なぜなら、必ず自分が贈ったものを身につけろとエイダン様が言うからだ。でも紫色の宝石を身につけると、令嬢たちに必ずと言っていいほど嫌味を言われる。
「わざわざ誕生日の後に、エイダン様の瞳の色の宝石を付けるだなんて!自分は愛されていますアピール?嫌ね!どうせ自分で買ったのでしょう」
そう言ってバカにされるのだ。もしかしたら、エイダン様は私が罵られる姿を見る為に、アメジストを贈っていたのかもしれない。そのせいか、私は宝石の中でアメジストが大っ嫌いだ。
正直エイダン様と結びつく物は、全てに関して嫌悪感を抱く。それくらい、私はエイダン様を嫌っているのだろう。
おっと話しはそれた。この宝石があれば、しばらくは生活に困らないかしら?そう言えば、クローゼットにはドレスもある。このドレスも売れるのかしら?でも、どうやって売ればいいのだろう?ダメだ、無知過ぎて全然分からない。
とにかく明日、平民について学ぼう。それから、お金の事などもしっかり勉強しないと。
翌日
早起きて、自分で着替えに挑戦した。いつもはメイドが嫌そうに着替えさせてくれるが、平民になったら自分で着替えないといけない。
「う~ん、確かいつもこうやって着替えさせてくれていたわよね」
記憶を頼りに、自分で制服に着替えていく。時間はかかってしまったが、何とか自分で着替える事が出来た。髪の毛もクシでとかす。それにしても、長い髪ね。腰まで伸びた金色の髪。
この国の貴族は、髪は長い方が良いとされている。でも正直邪魔なだけだ。平民はどうなのかしら?状況に応じて、切った方がいいのかもしれないわね。
コンコン
「失礼します。お嬢様、お着替えの準備を…」
いつも通り、メイドがやって来た。
「いつもありがとう、既に着替えているから、大丈夫よ」
一瞬目を大きく見開いたメイド。でも次の瞬間、いつもの様に無表情に戻り
「そうですか」
そう言って出て行った。
ふと時計を見ると、7時を回っていた。気が重いが朝食を食べに行くか。正直昨日の夜も食事を与えられなかったので、お腹ペコペコだ。食堂に向かうと、有難い事に両親はいなかった。急いで食事を済ませ、お弁当を持って学院へと向かう。
そしてそのまま図書館に行き、平民に関する本をいくつか持ってきた。何々、平民は商売をしたり、工場で働いたりして生計を立てているのね。服装は女性でもズボンを履くことがある。
へ~、ズボンか。楽そうでいいわね。職業も色々とあるのね。どんな仕事がいいかしら?考えただけで、ワクワクする。
平民の住まいは家族のみが暮らす一軒家と、沢山の部屋があり、その各部屋ごとに別の家族が暮らしているアパートというものがある。なるほど、私は1人暮らしになる予定だから、アパートと呼ばれるもので十分そうね。
他にも色々と調べようと思ったところで、時間になってしまった。仕方なく教室へと向かう。もちろん、この教室でも私は1人だ。最悪な事に、エイダン様も同じクラス。私の唯一の心の支えでもあるオーフェン様は別のクラスなのだ。
「あら、サーラ様、随分と遅かったわね。まあ、早く教室に来ても仕方ないものね」
そう言って令嬢たちが笑っている。こんな風に嫌味を言われるのも、あと少し。後少ししたら、この暮らしもお終いだ。
そう思ったら、こんな嫌味にも耐えられる。
「ちょっと、何笑っているのよ。気持ち悪いわね。ついに頭がイカれたんじゃない?」
別に何と言われようが、もうどうでもいい。さっさと席に着き、授業を受ける。授業が終わり、昼休みになった。さっさと中庭に行き食事を済ませると、校舎裏の大きな木の下へと向かう。
オーフェン様は授業中以外は、大抵この木の下にいる。本当はオーフェン様に頻繁に会いに行きたいのだが、私は仮にも王太子でもあるエイダン様の婚約者だ。そんな私とオーフェン様が一緒にいるところを見られたら、オーフェン様に被害が及ぶ。その為、昼休みのみ会いに来ているのだ。
早速オーフェン様に平民について調べた事を話した。
「私、平民について色々と調べたのよ!そうそう、着替えも今日は1人で出来たわ。これからは、毎日自分で着替えをするつもりよ」
「それは偉かったね。出来るだけ、自分の事は自分で出来る様にしておくといい」
そう言っていつもの様に頭を撫でてくれるオーフェン様。
「それで、金銭面はどうするつもりなんだい?」
「その件なんだけれど、私、お金を持っていなくて…それで宝石やドレスを売ろうと思っているのだけれど、どうしたらお金に換えられるのかわからなくて…」
「それなら僕が少しずつ換金してあげるよ。それから、平民になった時にすぐに使える様に、通帳も準備しておこう。そうすれば、バレずにお金を貯められる。ただ、一気に売るとバレてしまう。少しずつ換金して、着実に準備を進めよう」
「何から何までありがとう。オーフェン様!」
早速明日、宝石を持ってくることで話は纏まった。少しずつ進んでいく平民生活への準備に、胸が高鳴るサーラであった。
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