第2話 オーフェン様と一緒に作戦を立てます
「それで、どうやって婚約を破棄するつもりだい?きっと君から婚約破棄したいと言っても、君の父上が許さないだろう」
確かにそうだ。家のお父様は、私の事をただの政治の道具としか見ていない。きっと婚約を破棄するなんて言ったら、勘当されるだろう。でも、それでも構わない。とにかく、エイダン様と結婚するぐらいなら、勘当された方がましだ。
「オーフェン様の言う通り、私から婚約破棄を申し出れば、きっとお父様から勘当されると思うの。でもたとえ勘当されたとしても、私はあの男と結婚したくない。あんな男と結婚して一生泣いて暮らすぐらいなら、貧乏でも平民になった方がましだわ」
「サーラがそこまで言うのなら、分かったよ。でも平民になるという事は、自分の事は自分でやらないといけないという事だよ。自分で働いてお金を稼がないといけないし。一応君は侯爵令嬢で、メイドが何もかもやってくれているだろう?まずは何でも自分でやる練習をしないとね。後、無一文で家から放り出されては、野垂れ死んでしまう。そうならない為にも、どこかにまとまったお金を隠しておく必要がある。ただ感情で動いては、後で後悔するよ」
なるほど、確かに世間知らずの令嬢が、市中に放り出されても野垂れ死ぬだけよね。
「ありがとう、オーフェン様。とにかく、婚約破棄するまでに色々と準備が必要という事よね。分かったわ。今から少しずつ準備をしていくわ。そして、卒業までに必ず婚約破棄をして見せる!」
そんな私をみて、再び優しく頭を撫でてくれるオーフェン様。
彼との出会いは1年前。いつもの様に令嬢たちに嫌味を言われ、水をかけられずぶ濡れのまま泣きながら校舎裏を歩いていた時、この大きな木を見つけた。
大きな木の下にオーフェン様が居たのだ。美しい黒髪が太陽の光を浴び、キラキラ揺れていた。分厚い眼鏡をしていたが、それでもオーフェン様は美しかった。
ずぶ濡れの私にタオルを手渡し、私の話を聞いてくれたオーフェン様。今まで味方など誰1人としていなかった私は、そんなオーフェン様に今までの思いをぶちまけた。
「辛かったね。サーラはよく頑張っているよ。でも、あまり無理すると良くない。嫌なら嫌と言ってもいいんだ」
そう言って、それはそれは優しいほほ笑みを浮かべ、頭を撫でてくれたオーフェン様。親にも頭など撫でてもらった事はない。というより、今まで誰かに笑いかけてもらった事などあっただろうか?
「またここに来てもいいですか?」
「ああ、構わないよ。いつでもおいで」
その言葉が嬉しかった。彼だけが唯一の心のよりどころになっていった。そしていつの間にか、私はオーフェン様に恋をする様になった。でもオーフェン様は男爵令息、もし私が気持ちを伝えれば、オーフェン様だけでなく、男爵家にも迷惑がかかる。
だからオーフェン様の為にも、気持ちを伝える事はない。とにかくオーフェン様は私にとって、誰よりも大切で特別な存在なのだ。
今日もオーフェン様と話した後、重い足取りで授業に戻った。放課後、家に帰るのが嫌で、学院内の図書館で時間を潰す。でもそろそろ帰らないと…
重い足取りで家へと向かう馬車へと乗り込んだ。家に帰ると、両親が待っていた。
「サーラ、こんな時間までいい身分だな!お前は相変わらず、エイダン殿下に嫌われている様ではないか!」
「サーラ、エイダン殿下に嫌われるなんて、一体どんな事をしたの?あのお方は誰にでもお優しい方なのに!本当に、私たちがどれほど苦労してエイダン殿下の婚約者にしてあげたか分かっているの?」
「サーラ、聞いているのか?とにかく今日はお前の晩ご飯は無しだ。部屋で反省していろ」
やっと小言が終わった。1人静かに自室に向かう。両親は私には興味が無い。両親にとっては、いかにこの国で高い地位を維持できるかが重要なのだ。
その為には、どうしても私を王妃にする必要があるらしい。そう、私は彼らにとっては娘ではない。政治に使う道具なのだ。そんな私には3つ上の兄がいる。両親は兄をそれはそれは可愛がった。
この家を継ぐ人間だから。兄には愛情をたっぷり与えた。そんな兄はわがまま放題に育った。そして兄も私の事を家族と思っていない。そう、ウィヴィッズ侯爵家は、事実上3人家族なのだ。私は家族ではない。それでも昔はメイドたちが私を気遣ってくれていた。でも成長するにつれて、私を甘やかすメイドは要らないと、お父様が私の見方をするメイドたちを全員クビにしたのだ。
だから今ここに居るメイドたちは、私に味方してくれる人は1人もいない。ただ機械的に私の世話をし、私を生かしているだけ。そんな生活を送っているのだ。
ふと時計を見ると、午後7時を過ぎていた。そう言えばお腹が空いた。今日のお昼もサンドウィッチだけだったな…
平民になったら、お腹いっぱいご飯が食べられるのかしら?それならば、貴族でいるよりずっといい。
そうだわ、オーフェン様に言われていたのだった。平民になる為には、しっかり準備が必要だって。こうやってボーっとしている時間がもったいない。とにかく、平民について勉強しないと!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。