第34話 お引っ越し

文野の実家の2階に一時的に部屋を借りることが決まり、立花家は上へ下への大騒ぎと言うところだが、部屋は弟が使っていた階段を上ると直ぐの部屋だ。弟聖が結婚して家を出てから誰も使わないがほとんど毎日部屋の換気と掃除をしていた昌代のお陰で布団を干すくらいで済みそうだ。聖の許可も得て置きっぱなしの本も処分した。文野の部屋との間に物置き化した部屋があるので使える道具は移しておいた

「本当に助かります。立花さん部屋が見つかるまでしばらくお世話になります。よろしくお願いします。」「こちらこそ、薫さんも遠慮しないでね。食事は私の作ったもので良ければ一緒に食べましょうよ。一緒に作る時間があると良いのだけれど」「そうですね。お休みの日は是非お料理教えて欲しいです」「喜んで。楽しみね。でもね、お仕事はハードなのよ?ゆっくり休んでお料理は本当に時間の有る時になさい。部屋が見つかれば独りでするのよ。ここにいる間はゆっくりしてね」「本当に何から何までありがとうございます。」「部屋に有るものはなんでも使ってね」冷蔵庫も小型だけれど文野が自室用に使ってたものがある冷たい飲み物やちょっとした食品なら充分保存できる「このまま住んじゃえば良いのに?」文野が呟くと「とんでもないことです。」慌てて薫は手を振る「特別扱いはいけません独立しなくては…。」「でも、実際1年で出ていく予定の人に部屋を貸す家主は少ないわ」「そうですね。しかし甘えっぱなしではいけないのです」「偉いわねぇ…。本当かわいいわぁ」「文野さん、香月先生のためにも過保護にならないで下さいよ。」「分かってます。妹が出来た気分なのよねぇ」

暫く香月薫は立花家の2階に住みながら部屋探しを継続することになった

文野の提案がきっかけでマンスリーマンションを無事引揚げて一息ついた。

朝は、起床すると自前の電気ポットでお茶をいれてゆったりした時間を過ごす。毎日、薫のためにお弁当を準備してくれる昌代にお礼をいって出勤である

立花家でお世話になっている間、朝ごはんだけは自室で済ませたいと我儘を聞いて貰った。立花夫妻は遠慮するなと言ってくれたが自分の生活ペースのためだと譲らなかったのだ。それならと昌代がお弁当を準備してくれたのだ。辰次が外へ出掛ける時に弁当を持っていくので次いでにと準備してくれたのだ

「今日もお弁当?香月先生」杉山から声が掛かる「はい。とても贅沢なんです。そして美味しいんですよ」素直に頷く

「僕も作って貰おうかな?」「杉山先生これ食べます?」「いやいや冗談だよ」「でも私より、杉山先生の方がお弁当戴く資格有りますよ?」「何言ってるの。立花のお義母さんは、香月先生だから作りたいんだよ。味見もして貰いながら料理教える気満々だからね❗」「そうなんですか、嬉しいです」「うちは僕が宿直の時以外はお弁当作らないで良いって宣言したんだよ。でも妻は弁当持っていくし、作るのは一緒だと言ってたけどね」「どうして作らないで良いと?」「いつ食べられるか分からないでしょう?最近は時間通りに食事取れるけれどね。味わえないからってね。それに朝は彼女にもゆっくりして欲しいんだ」「そうなんですか…。優しいんですね」「誰だって、ゆっくりコーヒーを飲んで朝ごはん食べたいじゃない?」「杉山先生が夫だったら手が掛からなくて良いなぁ?」「ウン?」看護師の渡辺が横から声を掛けた「うちは最初から弁当持参だったのでもう大急ぎよ。その代わり洗濯は夫が回すの。あとゴミ出しも」「僕もゴミ出しするけど最後に出したいって最近は妻がやってる」「わかる。ゴミ出しの後にゴミが出るの嫌だもの」「渡辺さんとこはパートナーが後から出勤するの?」「はい。私が早く出るから夫が洗濯物も干してくれますよ。職場では結構強面で亭主関白でしょって言われているらしいわ。」「酷いな。」「夫は一生懸命やってくれてるんですよ。申し訳ない感じです」「成る程、参考にしますね」「香月先生、結婚の予定でもあるの?」「全く無いです」「断言しなくても…。」渡辺が笑うが「今の私には無理だと思うので。」「おいおい。香月先生。」杉山も呆れている「まだお若いのに、何つまんないこと言ってるんですか?」渡辺が笑い飛ばす「結構本気ですよ」素直に答える薫。「誰かを好きになったこと無いの?」「特には…。」「そんな人もいるのねぇ」「香月先生がまだ好きな人に出会えてないだけですよ」渡辺がなぐさめるように言うと「気付いてないだけだよ。もう出会っているかもしれない。」杉山の言葉に渡辺が驚く「杉山先生、素敵」「はぁ?」「乙女な言葉ですよ」「そんなつもりは無いけれど?」「新婚さんだからね」「何の関係があるのですか?」薫は、気になるらしい

「女性が口にしそうなコメントだったのかな?」「私より杉山先生の方が余程女性の気持ちをご存知ですよ?」「どうして?」「私には乙女な言葉は、出てきませんから」「恋を知れば変わりますよ。大丈夫よ香月先生」渡辺は薫の肩をぽんぽんと叩いて部屋を出ていった

「恋なんて無縁ですよ。結婚相手は、親任せです」「香月先生…。自身で探しなさいよ」「病院の後継ぎが掛かってくるので無駄です」「…。」「一生一緒に過ごすんだよ?親に決められて良いのかい?」「だって、その結果がこちらへの研修だったんですよ?」「そう言えばそうだったねぇ。でも家庭を持って子供だって…。」「私、自分の代で病院を締めようと思っているんです。自分の子孫に負担を掛けるのは終わらせたいので…」「ご両親に話したの?」「いいえ。残念がると思うので話さないつもりです」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る