第33話部屋探しは、大変

「あれっなんで居るの?」食堂に入るなり木島は声を掛けた。振り返って手を振る薫「お疲れ様です」「お疲れ様です」木島はつられて挨拶してしまった

「エヘヘ。研修は2ヶ月終了したんですけど。医局に欠員が出たんです。知ってました?大島先生が育児休暇を申請したんですよ」「急に決まったって?」「出産した双子の世話思いの外が大変だったので奥様独りに任せるのが無責任に感じたらしいです」「大島先生の奥さんってリッチな家の出でしょう?可愛い孫のために何でもやったくれるんじゃないの?」「そうなんですか?でも、そうそう出きることじゃないから手伝うんじゃなくてちゃんと子育てしたいって事務局長に訴えてました」「新生児二人だもんな。奥さんも大変なんだろうな」「奥様も医療関係者ですか?」「いや別業種の筈。幼馴染みだからお互いの親同士もよく知ってるみたいだ」「手伝い出来ない双方の親御さんも辛いですよね?孫も可愛い、子供達の負担を軽くしてあげたい親心もあるでしょうに」「でっ?何で居るのさ」「正式に大島先生の育休補助に決まったので来年の3月までお世話になることになりました。よろしくお願いします」改めて席を立って挨拶をかわす「それで今部屋探し中なので近所の不動産屋を回って部屋を探してるんです」「急に言って見つかるの?」「そうですよねぇ。マンスリーは時期がきたら次の借り手が決まっているので急いでいるんです」「荷物どうするの?」「元々私物は少ないんです。マンションに備え付けの家電を使っていたので」「どうするの?ロッカーに入れっぱなしにでもする?」「ああそれも良い考えです」「冗談だよ」食堂に杉山が入ってきた「愉しそうだな?デートの誘いか?」「違いますよ。この先生の部屋探しです」「ああそれね。急に決まったから更新できなかったんでしょう?」「大丈夫です。どこかに空いてる部屋ひとつくらいありますって」「木島くんのアパートに空きないの」「さぁ聞いたこと無いですけど」「木島さんのアパートって家族で住んでいるんでしょう?」「俺は独り暮らしだけど?」「あれっこの間のお子さんは?」「あれは、姪っ子。妹の娘だよ」「でも木島さんを良平って呼び捨てでしたよ。」「俺達双子なの。それでどっちが上とか下とじゃないからさ。ずっと呼び捨てだよ」「成る程」「双子って意外と居るんだね?」「同級生には居なかったですよ。うちは、男と女の双子だし二卵性だからね、あまり似てないですよ」「子供のころは似てたのか?」「幼稚園位までは、お揃い着せられてました。母親の趣味で。」「嫌々だったんだ?」「きっと誰かにからかわれたんでしょうね。それが嫌でお揃いは着なくなりました。それにサイズが違ってくるしね」「男の子は大きくなるものね」と薫「小学校5年まで妹の方が大きかったんですよ。先に生まれたのに妹の方が大きいってショックでしょう?」と苦笑する木島「傷付きやすい年頃だもんね」と杉山は、頷く「杉山先生、遊んでるでしょう?」「真面目だよ。女の子の方が成長が早いからねぇ。当然さ。中学で追い抜いた?」「6年生の頃から伸びだして卒業式で並んでました。中学では、お互いスポーツしてたんでどっちも伸びたんですけど、僕は野球部で、妹はバレーボール部でした」「格好いいですね」「僕の顔が?」「イイエ。中学高校とスポーツしてた人って格好良いですよね?」素直の否定する薫「青春ってやつ?」杉山も頷く「ちょっと、そこスルーしないで❗」木島は、抗議する「私は帰宅部だったので。憧れてましたよ。何故怒っているんですか?」「でも香月先生は習い事してたでしょう?」「お茶とお華。まあそれなりにです。今となってはどこに活かして良いのやらと言ったところです」「本当にお嬢様だったんだ?」「知ってたの木島君?」「家事炊事も一切出来ないって威張ってましたよ」「威張ってませんよ!恥ずかしいと言った筈です」「ほら威張ってる。」「だから、威張って無いです」「恥ずかしいって思うなら堂々としないよ。」「アノさ、二人が仲良しなのはよく分かったから落ち着いてくれる」「杉山先生まで意地悪言わないでくださいよ」「ごめんね。でも愉しそうだったからついね。木島君もごめんね」「あぁいえ大丈夫です」「あっ時間だ。そろそろ戻らないと。失礼しますね」薫は荷物をまとめて出ていった「杉山先生は、上がりですか?」「ウン。木島君、香月先生も大分馴れて来たとは思うんだけど、時々話し掛けてやってよ。よろしくね」「はい。杉山先生、文野さんにもよろしく伝えて下さい」「あれ?知り合いだったの?」「教え子です」木島は剣道の振りを見せた「ああそうだったの。ウン喜んで」杉山も食堂を出ていった

独り残った木島は携帯を取り出した「もしもし俺、病院の近くで部屋空いてるとこ有る?女性独り入居の予定なんだよ。調べてみてくれない?よろしくね」携帯を仕舞うとさあて俺も帰ってご飯にしよ独り呟く

「ただいま。」「修司さんお帰りなさい」文野は玄関で修司を迎える「先にお風呂にしますか?」「ウン。そうする。夕食は、なぁに?」「今日は酢豚です」「へぇ。酢豚?時間かかったでしょ?」「そうでもないですよ。お風呂上がった頃に温めます」「急いで入るよ」「ゆっくりほぐしてください」「わかった」

文野は結婚を期に仕事をやめるつもりだったが水野の強い希望でパートタイマーとして10時出勤4時退社となりゆっくり家事もこなしている「ゆっくり浸かってきたよ」「お疲れ様です」文野はエプロンを外し修司にバグする「文野さんもお疲れ様」

「修司さん、夕ごはんにしましょう」「そうだね。戴きます」「どうぞ」二人は食卓に並んで座る。二人きりで向かい合うのは照れ臭いと言う文野の提案である。修司も隣の方が近くて良いと思う「今日ね木島君とばったり食堂で会ったんだ。香月先生と仲良しらしいよ」「良平君?彼は子供の頃から面倒見の良い子で、よく気がつくし、看護助手をしてるんですよね?」「そうなんだ。知ってたの?」「小学校まで道場に通っていました。真知子ちゃんと一緒に」「双子の妹さん?」「はい。どちらも強かったですよ地区大会ではベスト4入りはざらでした」「へぇ…。今はもうしないのかな?」「中学からサッカーをメインにしてたから。」「香月先生のお部屋は?」

「うーんまだ決まらないらしいよ」「困ったわねぇ。いっそうちの実家はどうかしら?」「実家?どういう事」「私の部屋のとなりにもう二つ使ってない部屋があるの。弟の使ってた部屋と物置になった部屋よ。」「勝手に決めるわけにはいかないでしょう?」「部屋が決まるまでよ。だって荷物を預っぱなしに出来ないし。マンスリーは次の人もじきにやってきちゃうのよ。薫さん可哀想よ!父さんに聞いてみるわ」「本当に良いのかい?他人を住まわせるんだよ?」「うちは昔から外国の人も泊まったりしてたから気にしないわ。それに病院の先生、いいえ薫さんだもの。父さんのお気に入りなのよ」「お気に入り…。」「勿論修司さんの後輩って事が一番だけどね」「よろしくお願いします」楽しい食事の筈がいつの間にか香月薫の部屋探しをする事が中心になってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る