第28話 教授の娘
「杉山先生、少し時間貰える?」杉山は、帰るところだったが部長からの引き留めで医局へ戻る「お疲れ様です。部長」「おつかれさん。引き留めて済まないね」「いえ。何かありましたか?」「実はね、君の師匠である足立教授の紹介で指導官をお願いしたいんだ」「指導ですか…。足立先生の紹介では断れないですね」「そうか。やってくれる?」「いつから来るんですか?」「来月」「ずいぶん急ですね?」「うん本人はアメリカにも留学してその足でこちらへ来るそうだ。」「アメリカからいきなり?どっか中央の病院で研修を受けた方が本人のためになるんでは?」「足立先生のたってのお願いなんだよ」「はぁ。面倒にならなきゃ良いですよ」「留学先でも研究レポートを出して医学誌でも発表したらしいよ。かなり優秀ですよ」「それなら大学病院とか行き先はたくさん有るのにどうして私が指導する必要が?」「杉山先生に期待してるんじゃない?」「めっそうもない事です」「まぁ頑張りなよ」「はぁ…。」深いため息をつく杉山であった
「と言うわけで担当医を拝命したんだ」「足立先生のご紹介だからしっかりね」「いまだになぜ僕なのか判らないんだ」「可愛い弟子に期待してるんじゃない?」「う~ん。でもさ不自然な気がするんだ」「そうなんですか?」「うん。具体的には、表現出来ないんだ。でも妙なんだよ」「まぁまぁ期待に添えるように頑張ってくださいね」「でもさぁ、帰る時間が遅くなる知れないよ。結婚したばかりの僕に嫌がらせかなぁ?」「そんな訳無いでしょう?修司さんらしくないわ」「文野さんは寂しくない?折角二人で居られるのに」「まぁそんなに一緒に居たいの?そんな修司さんが大好きです」そう言って文野は修司に抱きついた「文野…。毎回そうしてくれる」「良いですよ。折角の新婚生活ですもの」「うん。頑張れる気がしてきた」
そして研修医は、やって来た
「香月 薫です。よろしくお願いいたします」「杉山です。こちらこそよろしくお願いします」「足立先生のご紹介を承けていただきありがとうございます。お世話になります」「ところで足立教授とはどんなご縁があるの?」「足立先生とは家族ぐるみのお付き合いをさせて貰っていました」「家族ぐるみ?香月さんの親御さんが医療関係なのかな?」「はい父も大学病院に勤めておりました。杉山先生の事もお気に入りだったそうです」「僕?でも知り合いに香月先生っていらっしゃらないが」「父は退職する迄旧姓で通していたので」「旧姓?」「はい、母が一人っ子だったので母の籍に入ったんです」「へぇ~。そうなの。それでお父上の旧姓は?」「父は真島です。真島耕助」「あぁ真島教授だったのか。よく足立先生の研究室へ来てコーヒーを出したよ。」「はい父も杉山先生のコーヒーが好きだったそうです」「そりゃあどうも」「その父から杉山先生の下で勉強して連れて帰れと言われております」「えっとそれはどういう意味かな?」「うちは、女系のようで私も妹と二人姉妹なので病院を継ぐには婿を取りたいと言う考えなんです。妹は看護師になりました。できれば夫になる方は医者を望んでいます。父は杉山先生を望んでおります。如何でしょうか、私と結婚すると後々院長になれますよ」「無理」「即答ですか?少しも考えずに?どなたかお付き合いをされている方がおいでなのですか?」「私の条件も、結構いいと思うのですが私を選ぶ方が…。」「怒るよ。いい加減にしなさい。君は勉強しに来たんじゃないのかい?夫探しでここを選んだのか?君は一生を共にする人を父親の一言で決めて良いのかい?」「私も恋愛は苦手ですので、何回も見合いをするより父の気に入った人なら良いかと」「自分の人生なんだよ?」「それでもです。それに杉山先生は、良い方だと思いましたので」「ちっとも嬉しくないな。それに僕は結婚して妻がいるの。まだ新婚2ヶ月にもなってないよ」「新婚?独身者だと伺っていました…。父に確認します。大変失礼しました。どうぞご無礼をお許しください」「研修も取り止めた方が良いんじゃない?」「いえ、それは別問題です。杉山先生を不快にさせてしまったことお許しください。ご指導よろしくお願いいたします」大変な誤解はあったが研修は、実施される事になった。「香月先生、スタッフの紹介をしますのでこちらにどうぞ」香月は医局で他の医師、看護師、助手等の紹介が終わって病院の配置図と説明を受けることになった
「杉山先生、外来の方へお願いします」「分かりました。」待合室は予約時間に合わせて患者が何人もシートに腰かけて待っている
看護師が事前に患者の症状を聞き取ってカルテに入力している。それを見ながら直接患者と接していく。香月は杉山の患者に接する態度をじっくり観察して初日を終えた
仕事を終えて、病院の近くにマンスリーマンションを借りているのでコンビニで弁当を買って帰宅した。借りた部屋は2DKになっている。越してきたばかりだが、生活に必要な物は備わっている。2ヶ月だけなので薫自身の荷物だけ片付けておけば良いのだがそれどころではない。まず、父親に杉山の結婚のことを聞かなくては…。気が急いて夕食の弁当もテーブルの上に置きっぱなしである「お父さん、話す時間有る?」「おお、薫お疲れさん。どうだった?」「どうもこうもありませんよ。とんでもない事になりました」「何があった?」「杉山先生の事です」「なんだ?」「杉山先生は、結婚していました‼️」「まさか」「ご存知無かったのですね?」「当たり前だ。結婚してると知っていたら薫に彼を口説きなさいって言うわけがないだろう。何時だ?」「杉山先生は、2ヶ月近くなると仰っていました」「最近なんだなぁ。お前には悪い頃をしたな」「私より杉山先生に大変なご無礼を。謝罪は、しましたが、気を悪くさせたのは間違いありませんよ。父さんからちゃんと説明をしてくださいよ」「わかった。迷惑を掛けたね。研修は辞めるか?」「いいえ、折角勉強する機会を頂いたのでこのまま続けたいです。勿論、杉山先生が嫌だと言うなら辞めますけれど。」「わかった。また連絡する」
電話を切ってようやくテーブルの上に有るコンビニのお弁当にてを伸ばす「大変なことになったなぁ…。荷物を片付けるのは後にしよう」ひとり呟くと大きな溜め息をつく
一方「お帰りなさい。修司さん」「ただいま文野さん」玄関で約束通り文野にバグで迎えられて思わずぎゅっと抱き締める修司「どうかしたの?」「うん。散々だったよ」「えっ?何事ですか」「聞いてくれよ。文野さん。」「まずは部屋に上がってからね」背中をトントンと軽く叩いて修司から離れた文野は修司の鞄を受け取りリビングへ戻る「お茶にしましょうか?」「うん。」修司は、くたびれた様子でソファに座った。文野は温かいお茶を夫婦お揃いの湯飲みに入れて修司の隣に座った「熱いですよ」「ありがとう」修司はお茶を一口含み文野をみた「ふぅ。文野さんのいれたお茶を頂くと落ち着くよ」「そう?良かった」文野は素直に喜ぶ「文野、愛してる」「私も修司さんを愛してるわ」「うんありがとう…。実はね今日はこんな事があったんだよ」修司が今朝あったことを文野に話している途中で電話がなった「はい杉山です」「杉山先生の奥様ですか?本日は、大変失礼なことしました。申し訳ないです。」「恐れ入りますがどちら様でしょうか?」「あぁ重ね重ね申し訳ないです。私真島、いえ香月と申します」「初めまして杉山の家内でございます。」「私の早とちりで杉山先生を不快にさせてしまったことをお詫びしたくて連絡させて貰いました。」「夫から丁度話を聞いたところでした。すぐ変わりますのでお待ちくださいませ。」「修司さん、香月先生のお父様からです」修司はお茶を一口飲むと文野から受話器を受け取った「もしもし、お電話変わりました。杉山です。ご無沙汰しております」相手は見えないが頭を下げているのが可愛いとふと思う文野であった
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