第26話 成長
文野と修司の長男京介はスクスクと育って3歳になった。風邪を引いたりすることはあるが殆ど家での生活なので外からうつってくることも少ない。隣家の立花家には出入りは多いが祖父母がかなり気を遣っているようだ。そんななか文野は、二人目を身ごもった。
2人目とは言え36歳になったので注意をしながらのお産となった。京介は段々大きくなる文野のお腹に声をかける。「僕のいもうとだよー。」「京介、まだ妹とは決まっていないんだよ。弟かもしれない」「おとうと?いもうとと何が違うの?」「京介がお兄ちゃんになるのは間違いないよ。」「ぼくはおにいちゃんになる」「優しい、強いお兄ちゃんになってね」「あかちゃん、はやくあいたいね」「もう少し待っててね」「おとうさん、あかちゃんはやくあいたいねぇ」「お母さんのお腹で大きくなるのを待ってるんだよ。京介もなかなか生まれて来なくてみんな待ってたんだよ」「そうなの?ぼくはみんなをまたせたの?」「京介も待ってるだろう?京介が生まれてくるときはみんなも待ってたんだ」文野のお腹をやさしく撫でて「まってるよぉ」と囁く
二人目のお産は予定日より2週間早まった。前もって準備をしていた文野はなにも心配していないが京介が実家の両親と一日中一緒に居るのが初めてなのが気がかりだったが、夜は修司と一緒に居られるので大丈夫であろうと思っていた。二人目は女の子であった
安産で母子ともに順調だ。流産して子供が出来にくいと言われて母親になることを諦めていただけに本当に幸運なことに出産は上手くいった
「あかちゃんはいもうとなの?おとうとなの?」「妹だよ。」「なまえは?」「麻由子よ。」「まゆこちゃん?」「そうよ。まあちゃんで良いよ」「まあちゃん、おにいちゃんだよちいさくてかわいい。」「京介。麻由子に優しくしてね」「うん。ぼくはまあちゃんのおにいちゃんだから」文野は4日めで退院した
ベビーベッドは京介のおさがりだが丁寧に使ったので新品と変わりない。ベビー服もおさがりがあるが杉山の実家からもお祝いで贈られてきた。麻由子が生まれてひとつき経って、杉山の実家から両親が訪ねてきた。麻由子を抱き上げるのと3歳の京介とおしゃべりしたりと楽しく過ごして帰って行った。「いっぱい写真を撮って孫自慢をするのよ」と杉山の両親は楽しんでいたようだ。
自宅で京介と麻由子を見ながら専業主婦をしている文野は休日はできるだけ修司の過ごしたいように心がけている。実家が直ぐ隣なのが幸いして、修司が土日もレポートを書いたり、まとめたい時は実家で過ごす。時々お茶を出しながら子供達と遊んで貰う。はたまたなんの予定もない時は思いっきり子供達も世話を任せて、ゆっくり実家で過ごす。文野にとっては最高の環境である。修司もたまには父さんと遊ぼうよと京介をつれて麻由子をバギーに乗せて散歩にも出かける。京介はもうすぐ4歳になるので、保育園を探す目的であちこちの保育園や公園を探している。文野も一緒に行くと途中から保育園探しが中心で公園で遊べないと京介が退屈そうである。それを見て修司は一旦帰宅したあと、二人で近くの公園で遊ぶ。本当に優しい父親である。隣に済む辰治は京介に剣道をさせるか迷っている。たまに道場で稽古を見ているが、辰治は道場を閉める予定なので京介がたった1人になってでも稽古を続けるか分からない。強制するきは全くないので文野や修司がもし京介に稽古をさせたいなら教えてあげたいとは思っている。ある日、兄弟の迎えに付いてきた4歳の女の子が自分も剣道をしたいと母親にせがんでいる。しかし、この道場はあと2年で閉まるのを公言しているので新しい門下生は受け付けていない。「ここは、もうすぐ閉まっちゃうのよ。お兄ちゃん達が最後なんだって」「おにいちゃんだけズルいよ。わたしも、やりたい」「先生がもう教えられないんだって」「いまおしえてるじゃない。なんでダメなの?」「先生にも都合があるのよ」「つごうって?」「もう静かに出来ないなら車に戻っていなさい」迎えの母親は、辰治達が気を悪くしないようにと気をかける「お母さんの、すみませんねぇ。私もそろそろ隠居する頃かと思ってね。」「いいえ、子供の言うことですから気にしないで下さい。だいたい飽きっぽい子なんです。せっかく習っていたピアノ教室も半年で辞めちゃって。英会話も、いつまで続くか分かりません。何が向いているのか分からなくて…。」「こんな小さい時から習い事を?」「お宅のお孫さんも習い事をしてるんじゃあ?」「さぁ…。聞いたことないなぁ。親子で愉しそうにしているがジィジが口出すことではないですからなぁ」
「お父さんがお医者様ですから賢いお子さんでしょう。」「さぁ…。どうですかね。」たしかに文野も修司も習い事をさせる話しは聞いた事がない。まぁ自分達が口出しすることはないのだが昌代に聞いてみようかな。
稽古が終わって片付けをしていると「じぃじー」と可愛い声が聞こえる「京介かぃ?」「あっじぃじ、いたいた」「どうした?」「お義父さん少しお話がありまして…」「修司さん。何だね?」「実は京介に稽古を付けて頂きたいんです」「京介に?」「はい。お義父さんが2年後には道場を閉めると聞いていたので迷ってたんですが、時間がある特で良いので。この子に教えてやって貰えませんか?」「ああ…そうだな。でも京介がその気があるのか分からんよ?」「じぃじーぼくにけんどうおしえてくれる?ぼくにはまだむずかしい?」「そんな事はないよ。京介の母さんは3歳の時から竹刀を握ってた。」「ほんと?」「ああ。京介の母さんはお転婆さんだったからな」「お転婆ですか?初耳です」「内緒だぞ…。じぃじと京介とお父さんの約束だよ」「うん。」「文野は正義感の強い子供でね。お友達が苛められると年上の子にでも向かっていく子だった。だからね。向かっていくからには無茶をしないこと。お互いが安全であること。を一番に考えるように教えたんだよ」「ただやり返すだけじゃいけないってことですね。」「応酬がエスカレートしたら取り返しが付かなくなるしねぇ。昔は子供の喧嘩に親は口出ししなかったが、落とし処は、親も見守っていたもんだ」「たしかに今時は喧嘩のしかたが分からないって言いますね」「兄弟ゲンカもしたことないって子供達も多いぞ」「京介もそうですかねぇ」「二人いればなんとかできるだろう。小さい子に優しくするのも良いが甘やかすのと違うからな」「ええ。ぼくも気を付けてます。文野が厳しいので。」「私達が結構厳しく育てたからなぁ」「最初の子供って甘いのでは?」「うちは違ったようだ。始めが肝心だと厳しかったと思うよ。途中から緩めようとしたが既に厳しさに馴れてしまって変われなかった」「でも今の文野はそのお陰でしっかりした女性に育ちましたから結果的には上々ですよ」「そうだねぇ。修司さんと巡りあえたんだからねぇ」「結果オーライってことで」「ああ正直、厳しく育てたことが仇になったのかと思ってたこともある。生真面目すぎて、娘の一生を台無しにしてしまったのではないかと考えたこともある」「お義父さん」「だから、あなたと出会って、二人の子供に恵まれて本当に良かったと思っているんだ。京介に私がおしえて良いのか?」「お義父さん。それは今まで教えていたお弟子さんに失礼ですよ。もっと自信を持ってください。」「弟子達は家に帰れば親や兄弟が居るだろう?」「京介には僕や文野が居ます。それに甘々なじぃじとばぁばも、2人居ます。大丈夫です。是非教えてやって下さい。お願いします」修司が頭を下げる。京介も側に来て「じぃじ、けんどうをおしえてください」と頭を下げた「わかった。稽古の時は厳しいぞ。我慢出来るか?」「はい」京介は元気に答えた「よしわかった。では稽古を付けてやろうな」「ありがとうございます」「じぃじありがとう」修司と京介は揃って再び頭を下げた
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