第25話出会えた歓び
順調に過ごしていた文野だったが、予定日を過ぎても陣痛が起きず、気配もなかった。「お母さんのお腹の居心地が良いのかしら?」と言ってた昌代からも8日も遅れている事を心配され不安になった
「先生に相談して急遽入院することになったの。」「そうなの?荷物は?」「両親が付いてくれてるから大丈夫です。」「僕も顔を出すよ」「お仕事終わってからで良いですよ。全然陣痛も来ないし。」結局入院待ちの受付で修司には会えた。「文野さん、大丈夫?」「ええ。私は何とも」「杉山さん、杉山文野さん」と呼ぶ声が聞こえて産婦人科病棟へ案内される「お義父さんやお義母さんにはお手間を取らせて」「何を言ってるの。親だし、側に住んでいるんだもの当然でしょう?修司さんもお仕事戻ると良いよ」頭を下げて杉山は立ち去る部屋を案内されると文野はすぐに着替えて点滴の準備だ。心音も、問題ない。エコーも異常無し。主治医から促進剤の注射を打って陣痛を起こさせると説明があった「早く産まれると良いわね。」昌代も心配そうだ。「ありがとう、父さん母さん。後はスタッフにお任せするからもう帰っても大丈夫よ。多分、修司さんも、一旦帰ってからこっちに泊まると思うわ」「それじゃあ晩御飯をお弁当にしましょう!」「ありがとう、助かります。」「明日は無理でも明後日なら産んでるかもね」「身体もだるいから産んでスッキリしたい気もするわ。」「じゃあ私達はこれで。頑張れよ。文野」「は~い。」点滴の効き目は意外と早く3時間後には30分おきに痛みがやってくる「もしかすると自然に陣痛が始まるところだったんではないかしら?子宮も広がってきてるし」「うーん、これが陣痛なんですね。」子宮の収縮があるのでその度に痛みが来る。修司も文野の様子を見にやって来て驚いている「すみません。もっと早く連絡をしたかったんですが、奥さまが業務が済むまで知らせないで欲しいと言うので…。」「文野さんらしいです。ところで、これはひょっとすると今夜のうちに産まれるんですか?」「ええ。多分。」「一旦帰って直ぐ義父母をつれて戻りますよ」「杉山先生、多分あと3時間くらいは掛かりますよ。ゆっくりお風呂も入ってからいらしてください」「分かりました。ヨロシクお願いします」杉山は病院を出ると自転車で帰宅する。そして義父母へ今夜中には産まれると報告する風呂に入って着替えを準備して立花の実家で夕食を頂く。「さてでは行こうかね?」辰治の一言で病院へ向かう
文野の両親は病室で待つと言う。子宮が大分開いたのと陣痛の間隔が短くなったので分娩室の隣の部屋で状況を見ている「うーん、くぅっ」と痛みをこらえる文野、手を握り背中を摩る修司が「文野、しっかり。僕もいるからね。きつい時は僕の手を握って❗」「ありがとう修司さん。あっ、」と手を強く握る「頑張って深呼吸して❗」と声をかける
1時間後、無事出産が終わった「元気な男の子ですよ。おめでとうございます」「ありがとう、ありがとうございます。修司さんも、ありがとう。」「お疲れ様。良く頑張ったね」手を握り見つめ合う「お邪魔ですかぁ」「何言ってるの、当然でしょう?さぁ行くわよ。」二人のナースが愉しそうに部屋を出ていく。「愛してるよ。文野さん」「修司さん私も愛してるわ」「お子さんを連れて来ましたよ。杉山先生」「さっきガラス越しに会ったんだけどこんなに小さいんだなぁ。患者さんでも見てるんだけど自分の子供だと本当に小さいって実感するよ。それでもって可愛い。」「修司さんもう親バカ入ってますよ?」「誰がなんと言おうと可愛いって気持ちになるんだよ。不思議だねぇ」「両親に会わせてあげたいけれど。一旦お風呂に入れるんでしょう」「はい。きれいにして早く連れていきます。お部屋で待ってってください。お母さんも体をきれいにしましょうね」30分ほどして文野と赤ちゃんが部屋に到着した「可愛いわねぇ。まあまあちいちゃい足」「みんなこんなに小さかったのよねぇ」「修司さん抱いてみて」「何だか怖いですよね。壊れてしまいそうで…。」「医者でもそう思うのかい?」「そりゃあそうですよ。」「あらでも抱くのは上手ね」「そうですか?可愛いなぁ」デレデレの修司「お母さんもどうぞ」「そう?じゃあ私が先に抱っこしますよ。」嬉しそうに孫を抱いている昌代「修司さん名前は」「はい決めてます。この子の名前は京介です」「京介君かぁ。格好いいなぁ京介、京介」辰治は、恐る恐る抱き上げながら京介と呼んでいる「京介君かぁ。可愛いなぁ。赤ん坊は久しぶりで、おっかないよ」「上手ですよ。お義父さん」「ようやく会えたねぇ」「ええ。予定日から10日も、遅れてるから心配したよ。」「居心地が良かっただけなんでしょう。」「そうみたい。産科の先生は大丈夫って言ってくれたのよ。でもみんなが心配するから。もう産んでスッキリしたいって言ったらじゃあ産んじゃいましょう❗今日は宿直だしってー」「ラッキーだったね。文野さん」
無事我が子の顔を見て安心した文野は眠くなり横になる「寝てて良いよ。僕が見ておくから」「本当に?大丈夫ですか…。」「今ならまだお母さんが良いとか言わないでしょう?頑張るよ。先ずは文野さんを休ませたいんだ。体力を消耗するからね」「ありがとう修司さん。でも写真撮って実家に送ってあげて❗」「産まれたのは連絡してあるよ」「顔を見せてあげるとと良いわ」修司の携帯で撮影を始める昌代。早速抱き上げてカメラに京介の顔を向ける「ちゃんと撮れてますか?」何枚も写真を撮り動画も撮って母親の携帯に送ったらしい。「くれぐれも文野にありがとうと伝えてくれ」と話していたらしい。
5か目には退院の許可が出て自宅へ戻ってきた。母子ともに順調のようだ。入院中は、毎日お昼休憩の時に顔を見に来て抱き上げていたが退院したのでそれが出来なくて残念そうな修司であった。それでも大急ぎで帰ってきて、我が子を抱くあげ、毎日お風呂にいれてあげる「京介、お風呂は父さんとだぞう❗」と愉しそうに入れてくれる。気持ちいいのか、風呂から出ると良く寝てくれるのだ。手の掛からないよいこだ。杉山の実家から両親が遊びに来たが、手の掛からない子供だった。たまに風邪を引いたりしたが、京介は大病に掛かることスクスクと育っている
定期的な検診等も問題なく過ぎていく。
5カ月目頃から人見知りが始まったようだ。見慣れた顔には特に嫌がることもないが、文野の友人達が訪ねてきたときは大泣きして大変だった。「へぇ…文野の子でも人見知りってするんだね?」「それ、どういう意味よ。」「だって文野の子よぉ。何にも動じない気がしてさぁ」「ちょっとそれって私が変人みたいじゃないの?何気に失礼よ」「アハハごめんゴメン。私から見たら文野って何かあっても頼もしくて、動じない人なのよ。だからさ、子育ての事聴かれると私でも文野に頼って貰うこと有ったんだぁと思うと不思議なのよ」「頼りにしてるわよ、先輩。」「任せなさい」
気のおけない友人達ともまた会って会話が弾む。幸せな時である。
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