第24話喜びと不安

先ずは夫である修司へ連絡を取る。「修司さん、今お昼休憩ですか?」「そうですよ。どうしたの?何かあった?」「ありました、今日は時間どおり帰ってこれそうですか?」「えっうん。抜けて行こうか?」「いいえ。違うの。いつもの時間で良いのよ。慌てないで。」「大丈夫なの?」「ええ全然大丈夫なの。驚かせてごめんなさい。お夕飯準備して待ってますね。今日は私のところに直で帰って来てね。」「わかった。じゃあまた後で」文野は商店街で、修司の好きな刺身とカボチャの煮物ほうれん草のおひたしの材料を購入して家に帰る。一方連絡を受けた修司は何があった?と気になるが時間どおりに帰ってきてと言われて一旦安心したものの気になって仕方がない。いつもは就業してから休憩室で皆と話すのだがそれもなしに速攻で帰宅したのであった

「ただいま。文野さん」玄関の扉を開くと同時に声をかける「お帰りなさい、修司さん。」と文野が出迎えて抱き付いた。「文野さんどうしたの?何があったの」「お風呂に入りますか?」「いや文野さんの話しが気になってー」「本当にごめんなさい、驚かせて。」「良いよ。それより」「赤ちゃんができました…。」「そうなの。やった。やったねぇ…」「一番に報告したくて。どこにも寄らないでって言っちゃったの」「お義父さん達には?」「修司さんに話した後じゃないと言えないわ」「そんな気にしなくても…。話したかったでしょう?」「ええ。勿論。でも杉山のお義父さんやお義母さんに話してからよ」「律儀だなぁ。」「古風でごめんね」「いや、気遣いが嬉しいよ。ごはん食べ終わったら電話しよう。」「ええ。さぁ召し上がれ」「僕の好きなものばかりだね。ありがとう。でもさっきの電話でチラッと話してくれても良かったのに。」「修司さんの顔を見て言いたかったのと赤ちゃんが授かった喜びをまずかみしめたかったの。だって出来にくいって言われてずっと再婚は考えなかったから。余計にね…だから修司さんに出会えて本当に良かった」文野の声が震えている。きっと怖かったんだろう。不安だった筈だ。一人でかみしめたいのも理解できる「これからのケアが大変だからね。色々制限もあるだろうし。僕も側で支えるからね。気になる事は聞いて下さい。一人で悩まないで下さい。側にはお母さんもいるし。」「ええ。ありがとう修司さん。ありがとう」食事を済ませて一緒に洗い物を片付けて杉山の実家へ連絡を入れる「文野さん、ありがとう。体大事にしてね。お母さんが側に住んでるから安心やわ。お母さん達には話してあるの?」「いえ、お義母さん達が先だと思って」「まあありがとう。こちらからもお母さん達にヨロシクお願いしとくわね」「はいお願いします」長い電話の後隣の立花家へ報告する

文野の両親も大喜びで昌代は涙を見せた「これからもお世話になります」「我々の出来ることなら出きる限り手伝いますよ」「楽しみねぇ。大事にするのよ❗」「はい」ひとまず必要な人には連絡を済ませ、修司は風呂へ文野はやっと水野に報告する「文野。おめでとう」「ありがとう。社長夫人のおかげよ❗」「お義母さんにも報告だけしとく。まだみんなには言わない方が良いでしょう?」「ええ。助かるわ」

有りがたいことにつわりもほとんど無く順調に時間が過ぎていく。最近、文野さん、太った?と言う言葉が本人の居ないところで囁かれている。上司には9ヶ月に入ったら退職する旨を報告済みで、引き継ぎをする社員を探している引き継ぎが始まって初めて文野が退職する事を発表し、「やっぱりなぁ…。最近、太ってる気がしたんだよなぁ…。」「太るって何よ。失礼ね」女性から総スカンを食らう無神経な男が数人。後はみんなからおめでとうと祝ってもらった。身体は順調だった。軽くつわりもあったが、全然辛くなかった。引き継ぎを無事終え、文野は予定どおり9ヶ月に入って退職した。育児休暇を取って復職の提案もあったが、丁重に辞退した。初めての子育てに専念したい事もある。後は少し、専業主婦もしてみたい。

杉山は、子育てにも協力してくれる。いっぱい育児記録を撮ろう。友人達から送られてくる子供の成長記録を羨ましく思っていたが、自身にそのチャンスが廻ってきたのだ。最初で最後かもしれない、年齢的にもあとひと月を楽しむのだ。それに出産前にすることもある。出産すると出歩くのも大変なので、髪をカットしたり、ベビー用品を揃えたり、ベビーベッドの準備やら色々やりたいことはあるのだ。杉山は文野が退職してから休日に一緒に選ぼうと待っていてくれた。二人でカタログを見比べたり、機能的に良いもの等それなりに楽しんだ。新居の家具選びより念入りになったのは当然である。

「このベッドは、丈夫そうね。でもずっと使う訳じゃないし、高級過ぎませんか?」「そうだねぇ。分不相応な気もするよ。他も見てみようよ」「そうですね。」最近は二人で並んで歩くときは修司が手を引いてくれる。最初は恥ずかしいと思っていたがお腹が大きくなると、見えづらくなることもある。足下の注意をするのに手を引いてもらうのは良いことだと思えてきた。結婚して気がついたが元々修司は、腕を組んだり手を繋ぐ事を率先するタイプのようだ。照れずに手を出してくれる。優しい男なのだ。

今日は平日だが先日休日出勤した代休で二人でお昼前から出掛けているのだ。

「お腹空かない?」「そうね。少し」「ちょっと何か食べようか?」「そうね。混む前にお昼を摂りましょうか?」「そうだね。何が良いかなぁ」「軽くで、良いですよ」「しっかり食べないとお腹空くよ?」「朝もちゃんと食べましたから…。」「お腹の子のために食べよう」「食べ過ぎですから」「大丈夫だよ」「いえ、食べ過ぎは、いけません」「医者の僕が大丈夫だって言っているだから」「イイエ。今の修司さんは、甘々の旦那様なだけです」「うん。僕は文野さん大好きだからね。甘々は、当たってる」「もう…。修司さんったら」助けて~。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る