第23話新しい生活

新婚生活3ヶ月後、文野は杉山のマンションの片付けに追われていた。新居を実家の道場の2階に構えた3日後に引っ越しだ。1週間仕事も休みを貰い、一人片付けている。修司は勤務の調整をして、定時に毎日帰ってくる。引っ越し当日と翌日翌々日迄休みを取っている「ほとんど僕の荷物なのにごめんね、行ってきます」そう言って朝出掛けていった。細々とした荷物は文野が車で運び整理している。改築に伴い新しくした家具が多いので出来上がった部屋は綺麗で掃除の必要が無いのでマンションから持ってきてそのまま仕舞っておけるのが良い。寝室のカーテンも、つけてあるがベッドがまだ届かない。引っ越しの当日に届くとのこと。リビングのソファなどは翌日届く。家電は杉山が使っていたものは寝室や仕事部屋の4後半の部屋に移してある。落ち着いてから修司自身でレイアウトするらしい。文野も4畳半を自室にあてがわれたが隣の実家の2階に自身がずっと使っていた部屋があるため特に運ぶ必要性を感じていない。日当たりが良いので洗濯物を干すのに良いかもと考えていた

冷蔵庫は修司の部屋に有ったものを1階の道場に設置して使って貰うつもりだ。新しい冷蔵庫、洗濯機テレビ、パソコンも前日には届いて設置する運びだ。使用中のテレビは当日寝室へ設置することになった。文野の実家の部屋はそのままで2回の渡り廊下を使って往き来が可能だ。ベランダの物干しの片隅に新しい物干し棹が準備されている。後はダンボールに詰めた衣服類を運ぶのと修司の書籍類が多いので本棚も一緒に当日引っ越す。今使っているリビングのテーブルは修司の自室で続けて使用するらしいなんだかんだ言って12畳のリビングは新しいソファセットやリビングテーブル、テレビなど良い感じで収まりそうだ

文野は自室を子供が授かったら子供部屋にと考えている。授かりにくいとは思うのだが。

引っ越しは予定どおりスムーズに終わった。荷物の搬入も上手く行った。食事も配達時間が遅れて1時間待たされてしまったが仕方がない。手伝ってくれた弟家族と文野の両親とで賑やかに引っ越し祝いを済ませた。「明日からは荷物の片付けね。」「明日マンションのカギを返して部屋の引き渡しがあるから昼に抜けるね」「わかりました。私も行きましょうか?」「大丈夫です。今日も挨拶したんでしょう?」「ええ」「それなら僕一人で良いよ」「わかりました。なんだか落ち着かないわね」「落ち着いて見えるけどね?」「そうなの?変な感じよ元々実家だからじゃないのかしら…。」「それはあると思うよ」「今日は疲れたから早く休もう」二人はベッドに入ったらぐっすり寝てしまった

翌朝、ベッドから起き上がるとそばに文野は居なかった。ドアを開けるとトーストの香りと紅茶の香りが漂う。「おはようございます修司さん」「おはよう。早いね」「ぐっすりです6時迄起きませんでした。」「もう一度休みますか?私は実家にでも行っております」「待って待って初日から里帰りとか?」「里帰り?」「まぁ座って下さい。お茶をいただきます」修司は、にこりと笑って席に着いた「コーヒーを落としますね」「紅茶で良いですよ。」「ではどうぞトーストと紅茶です。」サラダを出して並べる「不動産さんにカギを渡したら戻ります。その後出掛けましょう」「午前中にソファも届くから落ち着く頃ですね」「部屋らしくなるね」「段々揃ってきましたからね」

二人の新生活は、マンションでの生活からの延長なので大して変わりはしないのだが修司の通勤時間が短くなったのでゆっくりと出来る様だ「ねぇ、新生活はどうよ」「どうって普通に順調ですよ」「照れ隠しは良いから、新婚さんだし、イチャイチャしてるんでしょう?」「良い年してっと言いたいのかな?」「違うわよ。文野と修司さんが初々しい話を聞きたいのよ❗恋話みたいな…。最近、ウキウキした話しを聞かないからね。ちょっと楽しい。」「無いわ。そんな話…。」「ええ…。新婚だよ~。」「普通だもの~。」「淡々としすぎ。つまんない」「うちの家庭で遊ばないで❗」「ええ…。でも、うちとか言ってるし。やっぱり違うわよ」「だって私だけの事じゃないもの」「そうだねぇ。」「なぁに?」「ウウン。もう文野をからかうのは辞めた」「良かったわ」

何を言ってるんだろう?文野は意味が分からず頭を捻る。水野は文野が無意識に杉山の事を話す。意識させない方が口にするのだと気がついたのだ。いつも冷静な可愛い友人はやはり可愛いのだ。そんなこんなで順調に半年が経つ頃、修司は学会で東北へ昨日から出張中だ。お昼が終わって満腹なので眠いのだろうか、文野はうとうとしていた。「眠い。」「えっ?」「ごめん仕事中に眠くなった。お茶でも飲もう」席を立って給湯室で熱いお茶を準備する「珍しいねぇ。立花さん」「ええ。ちょっと…。」「お茶ですか?」「いや僕はこれからの外勤なんだ。カップを片付けに来たところ。」「私が洗っておきますよ?目が覚めるから丁度良いわ」「そうなの?ではお願いします。」「いえいえ、お仕事頑張って下さい。行ってらっしゃい」「ありがとう。行ってきます」文野は営業の斉藤のカップを洗ってお茶を差して席に戻る

「ゆっくり出来た?」「ええ、斉藤さんが外勤に出るからってカップを洗いに来たの。」「そこで洗ってあげたの?」「そうよ。ついでだもの…。お陰で目も覚めたし、丁度良かったわ」

「眠れないほど、熱々なのねぇ」「何を言ってるのよ。夫は昨日から出張中です!」「あらお留守番なの?付いていけば良かったのに」「何でよ仕事よ?」「終わる頃に待ち合わせれば良いじゃない?」「学会が終わったら友達と1泊するって言ってた」「早く帰りたいでしょうに」「戻ったら翌日から勤務だし。早く戻りたいけれど、滅多に会えない友人だからって言ってた。確かにそうそう会えないもの。」「そんなものかしら?」「そんなものよ❗私は実家で両親と夕御飯なのよ」「親孝行ねぇ」「直ぐ側だもの」「そう言えばそうよね。里帰りでもないか」「毎日顔見てるし。修司さんは、実家に顔を出してから2階に上がってくるわよ。」「妻より義父母大事?」「有り難いわ❗」

あれから修司が土産に買ってきたお菓子を食べながら休憩時間にお茶を飲む

「文野、最近あくびするね。」「ええ。ごめんね。何だか眠いのよ」「眠れないの?」「それがぐっすり寝てるのよ」「寝てるの?」「ええ、朝はスッキリ起きられるわよ」「なんだろうね?」「眠くなる病気って有るかしら?修司さんに相談してみるわ」「その方が良いんじゃない」その夕方来たく直後に水野から電話があった「文野、月の物ちゃんと来てる?」「えっ、うん実は2月遅れてるの」「水野の母がね、おめでたじゃないかって言うのよ」「まさか…。」「そう言う症状有るんだって。検査薬売ってるから調べてみれば?」「わかった。今から薬局に行ってみるわ」

果たして、試験薬は陽性と出た。文野は以前流産して子供は授からないと思い込んでいたが、でも、低い確率でも妊娠したのだ。でもがっかりさせたく無くて文野は病院できちんと検査を受けることにした。

翌朝、文野は仕事を休み、勤務先近くの産婦人科を訪ね、検査を受けた。

結果は…。陽性。つまり妊娠していたのだ。8週目に入ったところだそうだ。工務店の都合で急に改築工事が始まって新居へ引っ越してそれどころじゃなかったので遅れていることに気付いたのがつい最近だった。

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