第22話そばに居ます

あれから二人は会うたびにインターネットで物件を探しては休みの日に二人で訪ねてみたが、意外と条件が揃うのは難しいようだ

「贅沢言わなきゃ選べるでしょう?」と昌代にも言われたが永く暮らすには駅に近く勤務先にも遠くなく庭が有り、駐車スペースも有り、と最低条件を守りつつ、譲れる条件を緩和しつつ探す。「あの修司さん、勤務先にも都合の良いところって駅が近ければ少し離れても良いのでは?」「文野さんが通勤する時遠くなるでしょう?」「私はどうとでもなるわ。修司さんが困らなければ良いと思うの」「駄目だよ。同じでしょう?」「あなたは緊急時の呼び出しがあるけれど私には無いもの。それにずっと勤め先が変わらないとは言えないし。」「僕だって勤め先が変わらないとは言えないでしょう?」「いっそうちの道場の2階は、どうですか?」「道場の2階って道場じゃないの?」「以前はね。5年前に建て替えた時に住めるようにしたんです。元々海外からの研修生を受け入れていたんだけど最近は断っているの」「そうなの?」「ええ年齢的な事もあるけれど、夏合宿とかで子供達が年に1回使うだけなの。勿体無いスペースなのよ」「でも夏合宿は?」「道場でも可能だし、今時は夜は家に帰る子供も多いの」「変わったねぇ。」「ええちょっとしたキャンプ気分を味わったりおじいちゃんの家に遊びに行けない子は泊まるらしいけれど。」「へぇ」

「父も道場をいずれはやめるからって人数も減らしてるの」「そうなの?お義父さんは、生涯現役って感じだけど…。」「この間怪我をして実感したらしいわ。お弟子さんに迷惑を掛けるのは申し訳ないって」「文野さんが代理をしていたんでしょう?」「ええそれも悪いと思ったんでしょうね。結婚したら家を出るわけだし」「文野さんは、どうしたいですか?」「どうって…。道場の事ですか?」「ええ続けたい?」「正直、楽しい事もあるけれどよそ様の子供を預かる事って大変で、結婚してまで続けたいとは思わないです。以前は再婚すら考えて無かったし道場も私が継げば良いのかな位には考えていました」「お義父さん達に相談して上に住まわせて貰おうか?」「でも気を遣うのは修司さんの方よ。私は実家だし、毎日親と顔を会わすの普通だし修司さんは気疲れしないかしら?」「2階の間取りを見せて貰っても良いかな?」「ええ。母に聞いてくるわ」文野は2階の鍵を持って戻ってきた。「では参りましょうか」道場では子供達の元気な声が響いている

廊下を通って奥に階段がある「結構広いですね」「今の子達は小学生の高学年でね。あの子達が中学生になったら道場を閉めるのよ」「中学生は、教えていないの?」「学校の部活動があるし今は塾通いの子も多いからってお断りしてるの。でもたまに来て良いですか?って遊びに来る子もいますよ。」「勿体無いスペースですね」「使い道はあると思うわ」

二階に上がると「ちょっと高いですか?」「わかります?下が道場なので音が響かないように少し高さを取ったのよ。間取りは6畳2つ8畳1つ4畳半が2つと後はバスルーム、キッチン物置きかなぁベランダに出ると広めの物干しもありますよ。子供達はキャンプのテントを張って寝泊まりしてたわ」「文野さん、最高ですよ。」「えっ、そうかしら?」「そうだよ。こんな良いところどうして浮かばなかったの?」「だって、実家だし、修司さんの気苦労を考えたら、とても考えられないですよ」「お義父さん達に相談して頼み込みましょう❗」「良いんですか?」「勿論、僕の勤務先はより近くなったし、文野さんも変わらない。お義父さんやお義母さんも寂しくさせない。好条件でしょう?」「修司さんのご両親は?嫌がら無いかしら?」「良かったと言うと思います。母には立花さんが寂しい思いをしないように遠くには越すなって言われてます」「まぁ…。有り難いです」「善は急げです。お義父さんに相談しましょう。これからの改装が必要なら僕の貯金もありますから。」どうやらせっかちなのは遺伝しているようだ

「道場の2階って…。」「ええ是非僕らを住まわせて下さい。賃料はお支払します」「元々使ってないから住むのは全然構わないのだが、新築じゃなくて良いんですか?」「あれほど綺麗な広い物件は、探してもありません。もしよろしければ譲って頂けないでしょうか?」「修司さん?」文野は初耳で慌てる「僕が買い取れば良いのでは?」「買い取り?」借地料を毎月支払えばお義父さん達の収入にもなりますよ」「いずれは文野に残すつもりでしたから要りませんよ」「父さん…。」「では、建物を僕達が買い取りましょう。2階に玄関を作って直接上がれるようにしたいんです。そして母屋の二階にも渡り廊下を作って往き来できたら便利でしょう?」「修司さん、いつからそんなこと考えていたの?」「今思い付いたんだ。良い考えじゃない?」「良く考えてからの方が良いのでは?」「スミマセン僕もせっかちなので。つい良い考えだと思うと突っ走っちゃいました」

あれから2月程置いて検討した結果、文野と修司は立花道場の2階へ新居を構えることが決まり改装工事を知り合いの工務店にお願いする事になった

文野と修司は結婚に向けての準備が本格化していた。入籍前から文野は修司の部屋に住んで新生活を始めていた。毎日一緒に眠り、一緒に目を覚ますことがトキメくのであった。

「新居を隣に構えるのは嬉しいけれど修司さんが気疲れしないかね?」「お父さん、工務店にゆっくりで良いからって相談したら?」「工務店の都合で半年先に工事が始まるならゆっくり出来るし。文野達も二人で過ごせるでしょう?」結果的に工務店の都合で改築工事は半年以上先に延びてしまったので新婚生活は、結果的に修司のマンションで過ごすことになった。道場の2階が出来上がってもすぐに越してこなくても良いではないか?二人のタイミングで来れば良い立花家では、そう結論を出したのだった。

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