第21話ゆっくり急ぐ
晴れて結婚申込みを認めて貰った文野と杉山だが、すぐに進展することはなかった。ひとつき過ぎてもお互い廻りに少しづつ広まれば良い程度に思っていたのだが、母親は、動いた。まず、杉山の両親への挨拶。文野も杉山が休みを取れるタイミングで挨拶をと考えていたがなるべく早くと急がされる。「母さん、私達まだ何も先の事は、決めてないの。だからゆっくりで良いと思うわ。修司さんだってお休みを取れるタイミングで…。」文野は母を止める「何を言ってるの。結婚するって決めたならできるだけ早く挨拶に行かないと。」気のはやる母親「でも先方の都合だってあるし、…。」「こんばんは~。杉山です。お邪魔します」飛んで火に入る夏の虫と言うべきか杉山の声が聞こえて慌てて玄関にむかう「お疲れ様。修司さん」「こんばんは、突然すみません。あのお父さんは?」「今町内会の集まりで出てるのよ」「遅くなりますか?」「何かあったんですか?」「実はうちの母が挨拶に伺いたいと」「あらっ」「?何です?」「うちも挨拶に伺いたいと話していたところなの」「あぁそうなんですか。でもうちの両親はせっかちなので明日にでも伺いたいと言ってるんです」「明日?まぁ大変、大掃除しなくちゃ」「あの延ばしてくれて構いませんから」「とんでもない。是非おいでくださいって伝えて下さい。」大歓迎の様子の昌代に杉山は戸惑っている「でも、うちが勝手に言い出した事ですから」「良いんですよ。それだけ早く話をまとめる気でいらっしゃるんだもの。有り難いわ」「お父さんは大丈夫かしら?」「これ以上大事な用事があるわけ無いでしょう?、大丈夫」「では母には明日で、連絡させてもらいます。本当にすみません。無理言って」「大丈夫です。心配しないで」「修司さん、明日の時間は?僕が昼に駅で待つ会わせるので2時頃で良いかな?」「お昼は?」「どこかで済ませて来るよ」「そんな、家で召し上がって貰って下さい」と昌代が言う「しかし…。」「父もそう言うと思います」「文野さん、良いの?」「ええどうぞ」「後で連絡します」そう言うと杉山は帰っていった
翌日、土曜日の朝は通常通り子供達の稽古があった。10時に稽古が終わると仁也は床屋へ行ってサッパリして着なれないスーツに着替える。昌代は和服姿だ。文野はワンピース姿だ。隣の市に住んでいる弟夫婦も来てくれた
12時過ぎに杉山がやって来た「こんにちは杉山です」「はーいいらっしゃい。どうぞお上がりください」文野が出迎える
「文野さん、父と母です」「こちらが僕がお付き合いしている立花文野さんだよ」「はじめまして、立花文野です。本日はお越しいただきましてありがとうございます」「はじめまして杉山です。突然伺ってごめんなさいね」「いいえ。どうぞ奥へ」廊下の奥から「どうぞこちらへ」と昌代が声を掛ける
ひととおりの紹介と顔合わせを済ませて昼食を準備する
食事は大勢の割には和やかに済んだ。職業柄人と接するのが上手な弟夫婦が話をうまく繋げてくれた「杉山さんはご兄弟にもお医者様がいらっしゃるんですか?」「いえ、うちは僕だけです兄貴は県庁で、弟はサラリーマンです」「うちは修司だけが独身で、他の子達は孫も居るんですよ。これで安心しましたわ。修司がいつ落ち着くか気になって…。本当にこの度は大事な娘さんと一緒にしてくださってありがとうございます」「こちらこそ、杉山先生とは、入院中からの付き合いでしてね」「そうですか。今後ともヨロシクお願いします」
慌ただしい一日が終わった。杉山の両親は、明日には帰るとの事文野は見送りについていくことにした。「文野さん、今日は本当にありがとう。急に伺ったのに色々お気遣い頂いて本当に感謝してます。」修司の母孝子と父尚司は、改めて挨拶をする「いいえ、こちらから挨拶に伺うつもりでしたので早くお会いできて嬉しかったです」「気にしてたらごめんなさいね。文野さんは、再婚と聞いてたからどんな方かと思ってたの。でもね、私達も再婚なの。だから再婚はうちでは何も気にしないで良いのよ。ご縁に恵まれたらその時を大事にしたら良いのよ。そうしてうちは良い子供達も授かったんだから。あなたも頑張ってね。修司をヨロシク」「ありがとうございます。どうぞよろしくお願いします」文野は頭を下げた
空港で見送った後、「嵐のようだった」と呟く修司。「素敵なご両親ね」「立花さん程じゃないよ」「うちの両親も素敵だと思うけれど、修司さんのお母さんもとても優しい方だわ」「口うるさいけれど良い母親だとは思うよ」「ええ。とても優しい方達だわ」「これからうちへ来ませんか?」「そうですね。これからの事も考えないといけないですものね」
そう言えば文野を部屋に招いたのは初めてだ
修司はふと思った。もよりの駅について「そう言えば初めてお邪魔します。何か買い物していきますか?」「そうですね。昨日両親が来ていたのでいつもよりは冷蔵庫も充実しては居るんですが…。」「それなら一旦お部屋に行きましょう」二人で修司の部屋に向かった
修司が話した通り冷蔵庫は充実していた。
「お茶を入れますね。急須はどこに有りますか?」「乾燥機のなかに入ってます」「有りました。修司さん茶葉は、有るけど湯呑みは?」「実はないんです。昨日もカップで飲みました。」普段お茶とか飲まないんですね?」「はい、急須も昨日も買いました。」「まあそうなの?」「母は文野さんの好みで選べば良いと言ってたよ。」「それなら後で買い物に行きましょう。他に必要なものとかも調べましょう」
「えーと食器類は、貰い物があって出してないだけなんだ。」「まずは一服して始めましょう❗私の私物も持ち込んで良いですか?」「も、勿論です。でも僕は新居は別に探そうかと考えているんです」「あら、ここで良くないですか?」「昨日、両親にもっと広い部屋を探すように散々言われまして…。」「どうしてまた…。」「二人で暮らすには窮屈だと言われました」「丁度良いと思うんですが?」「今は良いんですけど、今後増えた事を考えて始めから広めの部屋に越した方が良いのでは?と言うことになりまして」「…。でも授からないかも知れないですよ?」「気にしないで良いです。うちの親ってせっかちだから何度も引っ越しするより始めから新居を構えたら良いんじゃないかって」「うーんどうしましょうか?」「済みませんこっちの都合で…。気を悪くしないで下さい」「イイエ。効率的ですよ。そうですね。やはり新しい住まいを探す必要がありますね。不動産屋さんも訪ねてみましょう」
結局お茶を飲んで食器を探しだし、足りないものを書き出してみたが、住まいを探すのが一番となった「食器はうちも貰い物があって、使ってないものがあるんです時々バザーとかにも出してるんですけど、お気に入りは取ってあります」「僕はこだわりがないので片付けちゃうと何があったか忘れちゃうんです」「その時必要じゃなきゃしまっちゃうものね。わかるわ」
結局、立花家に立ち寄ることになった
「まあいらっしゃい。杉山さん」「お邪魔します。昨日はありがとうございました」「こちらこそもうご両親はお帰りに?」「はい戻りました。今日はこれからの事もあって相談にあがりました」「あのね、母さん、修司さんは新しく部屋を借りて引っ越しする予定なの」「引っ越し…。そうねぇ。今のお部屋の間取りは6畳の洋間2つと8畳のリビングキッチンです」「充分そうだけどね?」「家を構えたら?ってことだと思うんですが駅にも近いので良いんですけどね。結婚するので家を持てば落ち着くと思ったんでしょうね」「親心ってそんなものよ?」「そうなの?」「そうですよ。で、どうだった?良い物件見つかった?」「ネットで出ている物件を少し当たってみたんです。でも駅から遠かったり、勤務先にも不便だったりなかなかこれって気に入るのが無くて。「新築で家を建てるのはどうなの?」「新築かぁ…。」
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