第18話 今の文野さんが好きです

盛岡では盛岡城址を散歩し北上川を眺めてゆったりとすごした。マリオス展望室は見事な景色で二人とも高所恐怖症でなくて良かったと思った程素晴らしかった。盛岡での観光を楽しんで二人は羽田空港を経由して地元に帰った。

「あのぅ、文野さん。僕は以前から考えてはいたんですが、これから先、一緒に過ごしませんか?」「それはどういう意味ですか?」「僕は文野さんが好きです。結婚を考えたお付き合いを考えています。」「ずいぶん急ですね。私はピント来てないんです。確かに杉山さんとはご縁を感じてます。」「お父上が入院している時から、見てましたよ。患者さん達から推された事もあるんですが、文野さんといると愉しいんです。なにもしていなくてもね」「買い被り過ぎです。その内飽きますよ?」「いや。飽きないです。自信あります。支えたいとか驕った気持ちじゃないんです。一緒に歩いていきたいと思うんですよ」「ありがとうございます。私は一度結婚に失敗しているので…。」「再婚する人は沢山いるじゃないですか。」「本当にとても嬉しく思います。」文野は大きく息をついた「思いきって話します。話を聞いたあとで気持ちに変化があっても私は気にしませんから杉山さんもどうぞそのつもりで…。」「一体なんですか?」「私は流産したことがあるんです。その時にお医者様から子供を望めない可能性があると言われました。杉山さんは子供好きでしょう?やはり時間がたつと寂しくなると思いますよ。二人だけだと」「子供に恵まれない夫婦は沢山いますよ。」「でも、分かっていたら子供が産める女性を選んだ方がいいと思います」「いつもその事を気にしているんですか?」「結婚したら子供がいるのが普通でしょう?あえて子供を望まない方もいますけれど」「僕は子供は天からの授かり物だと思います。」「でも子供はいた方が良いでしょう?」「正直居ないよりはいた方が愉しいかもしれないです」「そうでしょう?」「僕は、文野さんが産めないと言うならそれでも構いませんよ。文野さんが側に居てくれたら愉しいと思うんです」「…。」「文野さん?」「私はまだ自信が持てません。」「自信が必要ですか?」「この先ずっと一緒に居るんですよ?」「僕は自分が、愉しいと言う自信はあります」「そうなんですね。私はまだ分かりません」「ゆっくり考えてください。僕は急ぎません。子供が要らない訳じゃないですよ?授からないならそれはそれで他の過ごし方を考えれば良いだけです。」「杉山さん、後悔されるのが嫌なんです。折角好きになっていたのに…。」「優しいんですね。」「違います。嫌われるのが怖いんです。失敗してますから…。」「あれは文野さんのせいじゃないでしょ?」「いえ、私がしっかりしてないから先方の言葉に惑わされてしまって、飛び出したんです。彼とちゃんと会って話していればあんな好い人達を困らせることになら無かった。」「後悔してるんですか?もしかしてまだ彼を?」「それは無いですよ。もう10年以上も前の話です」「誤解が解けて未練があるのでは無いんですか?」「正直、後悔はしています。あんな別れ方、ずっと彼を酷い人だと思ってましたから。でも先日、つい先日、騙されていたと分かったんです。今までの彼への感情はどうしたら良い?単に私がうっかり者だったってことでしょう?何をしてたんだろう私と思うと混乱してるんです。でも今の家族を大事にしている彼を見て私と一緒に居てもああいう家族がいたのかしら?と羨ましくなりました。」「今度は僕とその家族を作りましょうよ❗」「私は子供が産めないかもしれないんですよ?」「家族のあり方は人それぞれですよ。夫婦二人だけの家族もあるし子だくさんの家族もある。僕らも僕らの形があっても良いじゃないですか?」「怖いんですよ。今更新しい事を考えるのが」「そう言う事を考えて来たから今の文野さんがいるんでしょう?僕は今の文野さんが好きなのでそれで良いと思います。」「違う文野さんなら好きになったか分からないです。いやまぁ多分文野さんならどんな文野さんでも好きになってたと思います。」「…。」「?何ですか。」「そんなに人を好きになるもの何ですか?」「文野さんだからですよ」「私…。」「僕だって今まで付き合った人がいなかった訳じゃないですよ。でも4,5年位前から付き合うなら結婚を考えるられる人と思っていたので考えていたので。選びすぎと言うか考えすぎと言うか。気持ちが振れなかったんですよ。その気になる程興味が持てなかったんです」「病院関係者の方が理解があるのでは?」「どうでしょう?確かにそう言う方も多いですよ。出会いも少ないですしね。僕は文野さんに興味を引かれたのはお父上が入院した日ですから」「えっ?」「お父上のオペに遅れて入ったんですよ。そこで庇ってあげた子供とそのお母さんが、来てたんです。そこで文野さんが事情を聴いて対応してましたよね?」「はいそうだったと思います」「側にいた男性は母親を責めていましたが、文野さんは違ったんです。子供さんの目の高さに合わせて腰を落として、怪我はしなかった?って聞いたんです」「だって父が守ろうとしたんなら無事じゃなきゃ…。」「その子供は擦り傷一つついてなかったですよ。でも身体中をさわってここは痛くない?って聞いてあげて。どこも痛くないって返事したら良かったねぇ。でも今は驚いて痛いけど分からなくなってるかもしれないから、帰って寝る時とか朝起きて痛いところがあったらお母さんにちゃんと言うのよ?我慢したら駄目よって言い聞かせてたんです」「そうでした?」「お母さんにもそう言うってましたよ。お子さんは驚いて痛いのが分からなくなってるかもしれないから気を付けてあげてくださいって。お母さんは済みませんでしたって謝ってましたけど。しばらく入院するはずだから空いてる時に顔を出してやってね。本人が喜ぶと思うのでと言ってました」「父は喜ぶと思いまして…。」「側の男性は呆れてましたよ。」「ええ。そんな事言うてる場合かって…。でも父はその子を助けるために飛び出したんでしょう?それなら無駄にならない方が良いでしょう?」「あなたもそのタイプなのですか?」「そうかもしれません。まだ死にたくはないですけど」「そのためにも僕がいると安心ですよ?」「それアプローチですか?」「アピールにはなるかと思って、あの手この手で。どうですか?」「楽しい方ですね。杉山さんは…。結婚しても変わりませんか?」「結婚したらもっとグイグイ行くと思いますよ。文野さんには」「これ以上ですか?う~ん…。」「あれ?マイナスイメージになっちゃいましたか?」「本当に面白い方ですねぇ。退屈しないです。ずっとそうだと疲れませんか?」「どうでしょう。僕は通常モードだと思ってます」「ゆっくり考えてみます。でも杉山さんももう一度考えてください。」「僕は今までに充分考えましたよ」「子供の」「それは運に任せましょう。それを理由に浮気も離婚も絶対にありません。何度も言いますが、僕は今の文野さんが好きなんです。」「ありがとうございます。私は意外と積極的な杉山さんに驚いています。」「意外でしたか?こんなもんですよ。」「ちょっと素敵です」「そうですか。プラスになるならいくらでも驚いて下さいね」ニッコリ笑う杉山は病院で見かける医師の笑顔とは違う優しさを感じるのであった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る