第13話あの日

あの日、衝撃を受けた。

12年前、柳沢母娘によって夫の浮気が発覚し、家を出た。

そして今度は、私に元夫を返すと言って元夫を差し向けた

普通、考えられない仕打ちである。

自分が病気になったから返す?訳がわからなくて思考が固まった

話を聞き流しているうちに段々腹が立ってきた。「何ですって?」「僕にもよく意味がわからなくて、君に聞けば分かるのかと思って会いに来た」と言う元夫。「あなたは訳のわからない人と一緒に生活してたの?子供だっているでしょう?」「詳しく聞き出そうとするとますます訳がわからなくなる。そして泣き出すんだよ」呆れて言葉がでない「それって単に夫婦喧嘩じゃないんですか?」「そんな筈はない。喧嘩する理由がない。心当たりもない」「…。」「君になら分かるの?」「さぁ。知っているのは本人だけじゃないですか?そんなくだらないことで私に会いに来たんですか?本当にあなた達を見ていると遅かれ早かれ、私は家を出ていたと確信したわ。あなたの奥様はお嬢様がそのまま大きくなったのね。大人にもなってない。もう帰ってください。私には用はありません」「待ってくれ、あや」「棲む世界が違うんですよ。」「あや。」「気安く名前を呼ばないで。私とあなたは他人なの。二度と巻き込まないで。二度と連絡してこないで」そういって文野は、席を立った「待ってくれ。文野」文野は、ホテルから出て駅に向かって歩き出す。高野も追いかける。「君を困らせる気は無かったんだ。済まない。でも顔を見ていると以前の君を思い出して…。どうして、あの時僕を残して家を出たのか知りたくなった」「…。終わった話です。もう思い出したくもない…」「待って、文野」「ちょっと失礼、立花さん。もう用はすんだの?」「杉山さん」「何?」「手を離してください。彼女はこのあと、俺と約束がありますので。」「そうなの?」「さぁ行きますよ。時間より早く着いたのでぶらぶらしてたんだよ~。丁度良かったみたいだね?」どうやら高野は諦めたようでホテルへと戻っていった。暫く歩いて喫茶店に入った。杉山はそこで文野が一緒にいた男が元夫だと知って驚く

確かに、結婚していても少しも不自然じゃないし落ち着きもあるし、しっかりしているのに独身なのは不思議だった。入院患者からもべた褒めされていた。そうだったのか、独身と言うか独身に戻ったからなのか。どこか、一線を引いてる雰囲気はあった。「もう12年も経って馬鹿なことを言い出すから呆れるやら情けないやら。自分はこの人のこと愛してたのか?一緒に居たいって思ったのか?嫌になってしまって…。離婚して今更ですけど。悔しくなってしまいました。杉山先生には変なところを見られてしまいました。お恥ずかしいですね。」「いやぁ。僕は立花さんが結婚してたって事に驚いてますよ。」「若気の何とかですよ。」「意外でした。」「でもいきなり何があったんですか?」「情けなくて…」よほどの事なのだろう。たまたま患者の家族で名前を知っていただけで根掘り葉掘り聞くこともないだろう。二人は暫くお茶をして別れた

あれから暫くして文野の父辰治が退院することになった

「立花さん、完全ではないので無理しない程度に動いてください」「はい。杉山先生お世話になりました」「僕は殆ど手をかけてませんよ、立花さんは手のかからない患者さんでした」

「ありがとうございました」文野と妻昌代に付き添われて退院した。

「お父さん、稽古は当分、お休みしてね」「やっと帰れるのに。私は出るよ。」「私が当分は稽古に出るから休んでいてください。」「見るだけなら良いですよ。見るだけなら…。立花さんまだ腕を振り回すのは駄目です」「杉山先生」「駄目です。退院ストップさせますよ?」杉山の一声は絶大だった「わかりましたよ。大人しく見学してます。」「それが良いですね。」「是非、先生も様子を見に来てください。」「そうですね。機会があれば。」「母さん。先生にご迷惑よ」「あらごめんなさい。でも先生ならお父さんも大人しくしてくれるかと思って」「私はそんなに手が掛かるのかね?」「そうでもないわ。でも全快するまではおとなしくしててね。子供達にも示しがつきませんから。」「文野さん、少し良いですか?」「はい?」両親が同室の患者達に改めて挨拶している間、杉山から声を掛けられた「先生どうしたんですか?」「l木下さんのお店は行きましたか?」「まだオープンしてないですよ?」「あれ、そうなんですか?」「ええ、あの時はメニューを決めるのに協力要請があったので。でも大体決まってるそうなの。その節はありがとうございました」「いいえこちらこそ、食事させてもらって、ありがたかったですよ。また行きたいなと思ってたんですよ。でも未だ開いてないので。いつ頃オープンかご存じですか?」「まぁ、無駄足させてしまってスミマセン。明日にでも木下さんにきいてお知らせしますね。それでは杉山先生の連絡先伺ってもよろしいですか?」「是非お願いします。開いてるなら毎日でも通いたい位好みの味でした」「ありがとうございます。その言葉もお伝えしますわ」

「文野さん、あれから例の人から連‼️絡は?」「ありませんわ。その節はご迷惑をお掛けして…。」「あ、いやそんなつもりで聞いたんじゃないんです」杉山は、慌てて頭を下げる文野を止めた「今度、短大時代の友人のお祝いがあって上京するんです。父の入院があって先延ばしになっていたんですが、久し振りに仲間で集まることになって。」「たまには遠くにいる友達と会うのも良いですね。」「本当は先月だったんです。私が都合悪くて急に行けなくなってしまって。」「まさに辰治さんの入院時期にぶつかったんですね?」「ええ。出かける2日前だったんです。大変でした。結局ひと月遅れで上京することになったんです」「それは楽しみですねぇ。」「ええ、友人に会えるのがとても楽しみなんです。もう10年以上会ってないんですもの」「いつ頃ですか?」「再来週の水曜日ですよ。」

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