第10話結婚するっておおごとなのね

文野が誠のプロポーズを受けたことを高野の両親に伝えた後、文野の両親への顔合わせやら挨拶やらで日常が激変した。「辞めるの?勿体ない。子供が出来るまで続けたら良いのに…。」同僚を始め上司にも引き留められたが、高野の希望と咲子の想いを受けて退職の道を選んだ

「まさか、先を越されるとは思わなかった。」「そうよね。結婚する気がない様に見えたもの」「決まってからが早かったけれど、無理してない?文野、我慢してないか心配よ」同僚達が心配するほど,結婚が決まり、退職するまで3ヶ月程しかなかったからだ。

「ゆっくり話そうと思ってたんだけど、全然時間がなくてごめんなさい。しばらくは今のアパートにいるし何かあったら連絡してね。」寿退社なので大きな花束が準備され、皆からお祝いの言葉を送られた。ただ同僚の森山達だけが、文野の我慢を心配していた「特に勉強することもないんだけど、いずれ会社のトップに立つ人に嫁ぐので作法やら色々教えて頂けるようなので。前以てできることをしておきたいんです。決して我慢してるんじゃないのよ?心配しないで。」「相手が取引先の専務じゃあ、文句のつけようがないじゃない❗️」「そう言うんじゃないの。彼よりはお義母さんとの付き合いが多くなるから」「友達だったんだよね?」「ええ、そうよ。急に意地悪くなったり、キツくなったりしてない?」「ううん、かえって娘が出来たって喜んでもらってる」「そう。それなら心配要らないね。」「うん。大丈夫です。ありがとうお世話になりました」退職の日は、高野が迎えに来てくれて、社員にも一緒に挨拶してくれた「まさか、高野専務がお相手とは、どうして教えてくれないんだよ❗️」「上手く行かなくなったら困るでしょう?お互いに。」「確かに…。でも結婚決まったなら、言ってくれても」「決まって直ぐ報告しましたよ。」「ええ、でも…。まさか、まさかでしょう」「決まって2週間で結婚式の日取りまで?」黙って頷く文野「余程。逃したくないんだね?望まれてるんなら大事にしてくれるよ❗️」「そうですね。ありがとうございます」文野は頭を下げる

退職した翌日いつも通りに目が覚めて朝ごはんを食べて、文野は高野家を尋ねる「おはようございます。文野です」インターフォンを押す「お早う、文野さん」「誠さん、まだいらしたんですか?会社は?」「文野さんが来るから休みを」「いけません。お仕事行って下さい」「今日は特別」「何故ですか?」「特別は特別だ」「でも…。」「いらっしゃい。文野さん」「おはようございます。お仕事休んで良いんですか?」「専務にも有給休暇をとる資格はあるでしょう?」「はぁ…。」「普段頑張っているからね。私が許可したんだ。予定もあるらしいし、」「では、私は出掛けてきます。」「あっはい。行ってらっしゃいませ。」「嬉しいねぇ」そういって康雄は車に乗り込んだ「中へどうぞ。母が待ってるよ」「お邪魔します。」

「おはようございます。」「お早う文野さん」「お早うございます皆さん」食卓を片付けるのを手伝いながら咲子が迎える「今お父さんを見送ったとことです」「まあ康雄さん喜んだでしょう?」「とってもニコニコしてた」誠が返事をする「早速だけど、文野さん一緒に出掛けましょう。誠は支度してるの?」「鞄を取ってくるよ」

誠は自室へ鞄を取りに行った「どちらへ?」文野は咲子へ尋ねる「内緒」咲子はウィンクしてみせる「えっ?嫌な予感しかないですけれど?」「そう?大丈夫よぉ」咲子はニコニコしている「行きますよ?」リビングに声をかけ誠は,車のキーを持つ「行ってきます」咲子の声に「行ってらっしゃいませ」とお手伝いさんの明るい声が響く

「お仕事昨日までだったんですってね。お疲れ様。今朝はどうだった?」「いつも通りに起きましたよ」「そうなのね。ゆっくり眠れた?」「そうですね。まだ退職した実感が無いのでお休みを取ってる感じです」「でも準備で忙しくなるからね?」運転しながら誠が会話に参加する。「ええ、マンションの部屋も片付けたり処分したり,することは幾らでも有るので。」

20分ほど車を走らせた後、駐車場に車を止めた「着きましたよ」誠が振り向いて声をかける「さぁ、文野さん、降りましょうか?」咲子は誠と文野を伴ってマンションへ入る

「おはようございます。高野さん」フロントのスタッフは顔馴染みのようでにこやかに挨拶を交わす「おはようございます」文野も咲子にならって挨拶する「誠,7階を押してね」「はい」7階に到着すると廊下を端まで歩く。「此処よ。さぁどうぞ,入ってくださいな」咲子は鍵を開けて部屋に入る

「見晴らしの良いところですね。高台に有るから廻りに高い建物も無くて、明るくて…。」「文野さんもここで良いかしら?」「えっ?」「この部屋は、元々私の所有している部屋なの」「はぁ。」「僕らが住むのにどうかって母さんが」「そんな…。私はてっきり離れに…。」「そのつもりだったんだよ!でも父さんが文野さんが気詰まりしないかと心配して。」「そんなこと」「ううん。私もその方が、文野さんの為にも良いかなと思う。お友達も訪ねやすいでしょう?。折角結婚しても夫の実家じゃあ気遣いして遊びに来てくれないし、文野さんも出掛けづらくなるし。スープの冷めない距離に部屋があれば良いかも。」「ありがとうございますお気遣い戴いて。」「本当にここで良いかしら?他の部屋を探しても良いのよ?ここはたまたま私が持ってるから直ぐに生活できる状態なのよ。手っ取り早く見て貰っただけなのよ?」「贅沢なくらいです」「そう。なら名義も変更しなくて良いかしら?それとも誠の名義に変更しようか?」「変更の必要性は感じないですね。」「手続きも手間なのでそのままで良いですよ。母さん名義で僕らが住んでも良いんでしょう?」「勿論ですとも。お掃除も先日入って貰ったから綺麗だし、直ぐ引っ越せば住めるわよ?」「でもこの家具は、どうするんですか?僕の趣味じゃないですよ。」「家具は離れに移すわ。そうしたら二人で使う家具を選ぶといいわ。早速、業者を呼んで移動させるわ。」「今からですか?」「善は急げよ❗️二人で家具を選んでおいてね。この家具は出来るだけ早く離れに移すから。」「離れを片付けなくて良いんですか?」「先週で空にしてあるのよ。あなた達の引っ越しがスムーズにいくように片付けてあるの。」「何から何までありがとうございます」頭を下げる文野に「文野さんに我が儘を聞いて貰ったのは私の方よ。あなたが快適に生活できる様に準備するのは当然ですよ。」「お義母さん…。」「やりすぎの時は言ってね。」「もう充分やり過ぎですけれど?」「あらまだまだよ」「…。」「させといてよ。気が済むまで。僕らは家具屋をまわろう。サイズを調べておかないと。部屋の間取り図有りますか?」「テーブルに置いたわよ。持っていくといいわ」「ありがとう。じゃあ行ってきます」「行ってらっしゃい。さあ私も忙しくなるわ」おもむろに携帯電話を取り出し執事の沢村を呼び出す「直ぐに参ります」咲子からの電話を受けた沢村は関係各所へ連絡しマンションへ向かう。咲子へ業者を連れて7階を訪ねる旨報告し、入口で関係者と落ち合いフロントを通って7階へ上がる。

一方、文野と誠はファミリーレストランでお茶を飲みながら何を購入するか話し合った「離れなら私が使っていた冷蔵庫で足りると思っていたんですけど新に購入する必要がありますね。」「今のやつ置いておけば良いじゃない?お義母さん使いませんか?」「普段あの部屋自体使ってないんだから良いじゃない。そこは甘えようよ」「冷蔵庫でかいし、移動も大変だよ。それに文野さんの冷蔵庫をうちの離れ用に運んじゃおう」「誰か貰う人が居たらあげましょう。前の職場に聞いてみます」「へぇ…。」「?何ですか?」「前の職場って昨日までいた会社を言えるって凄い意識してるんだと思ってさ。」「意識してますよ。誠さんの妻になると言う意識も」「そうか。僕だけボーッとしてる?」「そうなんですか?何ですか」「夕べ父が文野さんのために離れより別の部屋を探すべきだって言い出してさ」「お義父さんが…。」「自分が結婚した頃は,夫の家族と住むのは当然だったけれど,新婚時代は二人で過ごしたいと何度も思ったって…。」「まぁ。」「息子の嫁には気苦労をかけさせたくないって」「有り難いです。本当に有り難いです。」「うんだからね。幸せになろうね。文野さん」「はい」「じゃあ台所は食器棚もそのままにして中身だけは自分で揃えようよ。タンスとベッドを選ばないと…。」「ベッドルームの壁って何色ですか?」「間取り図に書いてあるよ。確か、茶色っぽい木野目だったんだよ」「では、そのままでいいですね」「ダブルベッドかキングサイズ?」「シングル二つじゃダメですか?」「何故シングルなのさ?」「えっ?ずっと一緒のベッドに寝るんですか?」「嫌なの?」「だって…。」「だって、何?」「恥ずかしいです」「何言ってるの?僕らは夫婦なんだよ?」「でも恥ずかしいです。ずっとくっついていられないです。」「僕は腕枕してずっと抱き締めて寝るつもりだけど?」「いやぁ無理」「無理じゃない。絶対そうするよ。覚悟しておいてね」「…。」「今日はうちに泊まってね」「えっ?どうしてですか」「君とずっと一緒にいたいから」「明日。又行きますよ?」「僕は明日仕事だから、文野さんと一緒にいられないもん」「えっと…」「泊まってね。大丈夫。セミダブルベッドだから、二人眠れる」「セミダブルベッド…。」「あの…」「泊まってね!」「分かりました。でも着替えを取りに戻りたいのですが、泊まるなると…。」「買えばって言いたいとことだけど。では、うちへ帰る前に文野さんのマンションに寄ろう。」「ありがとう。明日は帰れますか?」「僕が帰るまで待っててくれたら嬉しいな」「3、4日分の荷物を準備します。」「それが良いね。」「結婚前から泊まり込むってミットもなくないですか?」「全然。もう文野さんは妻認定されてる」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る