第3話なかなか近付けないひと

あの再会から高野は文野に会える様に時間をやりくりして納品に行くようになった。検品所は、普段5人の職員がいて、よほどの事でもない限り文野に会うことはなかった。「伝票の印鑑漏れがあります。再度提出してくださいね。」あの声は…高野は慌ててドアを閉めてしまった。ユニホームの裾がドアに挟まれて「いてっ」つい声が出た「大丈夫ですか?高野さん」近くに居た検品担当の住田が声をかけた「あっはい大丈夫です。」「高野さんボタンが取れかかってますよ」「大丈夫です戻って付けてもらいます」

「お時間あるなら私が付けましょうか?」心配そうに文野がやって来た「ありがとうございます。お願いします。」「ちょっと待ってて下さいね。ソーイングセットをロッカーから取ってきます。その間に検品を済ませて納品しちゃってください。時間を有効的に使いましょう。」そう言うとエレベーターで6階に上がってしまった。仕方がないので上着を脱いで検品を済ませる。椅子の上に置いててください住田の声に「ではお願いします」声をかけて納品の3階へ上がった。「またお願いします」販売部の担当と軽く打ち合わせを済ませて検品所に戻ると既にボタンが付けてあり、きれいに折り畳まれていた「高野さん、立花さんが畳んで置いてありますよ。今時、裁縫セットなんて持ち歩く子は少ないですよ。良かったですね」検品所の主任、斉藤が高野に話しかけた「本当に優しい子ですよ。悪い虫が付かないように皆で守ろうとしてるんです。」「悪い虫?」「ああゆう素直な子は騙されやすいと思うんですよ。われわれは、注意してますよ」無意識なのだろうか力が入っている気がする。もしかして僕にも警戒してるってことか?「あのぉ私もですか?」斉藤主任はニッコリ笑って「高野さんが悪い虫なら容赦しませんよ?」笑って行ってしまった

「…。」気を付けよう。

その後、お礼をきっかけに高野は文野に積極的に声をかける「皆さんでどうぞ」人気な菓子を6階に届けたり、帰る時間が合えば「送りましょう、立花さん」駅に向かって歩いていた文野は「お疲れ様です。高野さん」「お疲れ様。どうぞ乗ってください」「ありがとうございます。でも大丈夫です。電車で帰ります」「ええ、どうしてですか?」「はい?どうしてって送っていただく理由が有りません。」「理由?

」「では失礼します。」文野はさっさと行ってしまった。声をかけるのが精一杯であった。しかし、高野は文野へアピールすることはできたと満足していた。

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