第2話出会い

文野は杉山と再び歩き始めた。勿論手を放してもらった上である。

短大を卒業して、食品会社に就職した文野は総務部に配属された。総務部と言っても大企業でもないので給与計算、経理人事に関わる業務を皆で担当していた。そんな中、納品が重なって手が足りないときは検品の仕事も手伝うことがあった。文野は時々助っ人に名指しされて6階のフロアから駆けつけていた。短大時代に倉庫を管理している会社でアルバイトをしていて検品が嫌いじゃなかったからだ。食品は、細かい物も多い。チェックが漏れない様にコツを掴んでいたである。女性陣は、検品を苦手にする人も多く制服が汚れるのをいやがる人も多い。率先して検品の手伝いにいくのは文野だった。ある日、手伝いにいくと細かい商品を検品するのに手間取っている業者がいたので文野は早速エプロンを着けて近付いた。「お疲れ様です。春日さん応援に入りましょうか?」「ああ立花さん頼むよ。そっちのゲージ頼むよ。」「了解です。」文野は馴れた手つきキャスター付きのゲージを壁際まで移動してベルトをはずして荷解きを始めた。「一人でチェックするんですか?」一人の男性が近付いてきた「イエ、そちらが終わったらこちらを検品しやすいように広げてるんです」返事をしながらも文野は商品を汚さないように見易く広げていく。「成る程…」「では私と検品をお願いします」「エエっ…。」「専務、戻られたんですか?こちらも終わりますからお待ちになってて下さい」「初めまして、専務の高野です。販売関係の方に挨拶に伺ったんです。余り機会がなくて、よかったら名刺を受け取ってもらえますか?」そう言って文野の前に差し出した「ありがとうございます。高野 誠さんとお読みしてよろしいでしょうか」両手で受け取り名前を確認した「はい。高野誠ですよろしくお願いします。」「私は総務部所属の立花 文野と申します。」制服の胸ポケットから名刺を抜き取り差し出す「ありがとうございます。立花さん、あやのさんと読めない方のためにルビをふってあるんですね?」「ふみのと呼ばれる事が多いのであえてルビをふってあります。」そういって微笑んだ。「商品の検品はサクサク進んだねぇ。立花さん要領がいいからなぁ、本当に此方に異動してきなよ。」「わたしの本業は経理です。お手伝いだから皆さんも優しいんでしょう?」ニコニコしながらも商品を次々処理していく。「本当に戦力になるよなぁ、課長なんとかなりませんか?」「何とかって何だ❗️立花さんくらいだぞ嫌がらずにこっちの手伝いしてくれるの❗️経理の仕事が繁忙期だって此方は手伝えないんだよ?今のままで十分だ。」文野は専用ロッカーへエプロンを片付けて声をかける。「上に上がります。何かあったら呼んでくださいね」さっさと階段を上がって行く。高野は納品を終えて車へ戻るところだった3階の階段のところですれ違う「お疲れ様です。高野専務、吉田さん。」「お疲れ様です。立花さん」「彼女確か6階の総務部だよね?このまま階段を上るのか、タフだね」「今日は専務と一緒で良かったですよ。」「何で?」「立花さんに吉田さんって呼ばれたの初めてです。」「いつも忙しそうで気軽に声かけられないですもん」「そうなんだ?でも感じが良いよね」「でしょう❗️いつでもニコニコしてシャキっとしてて癒されるんです」「吉田さん結婚してましたよね?」「よ、嫁とは別格ですよ」「立花さんが結婚したら皆泣くだろうなぁ」「父親ですか?」「せめて兄でしょう?」「兄ね‼️そうかも」帰り道は会話が弾んだ楽しいままで戻った。

立花文野と高野誠の出会いだった。

その後は何度か納品で文野の勤務先を訪れたが文野に会う機会はなかった

ある日、職場からの帰り道、お年寄りが一人で歩いている。キョロキョロして同じところを行ったり来たりしている「どうかしましたか?何かおてつだい出来る事ありますか?」文野はゆっくりはっきりと声をかける「ありがとう。ここはどこかしら?私家に帰りたいの。私の家は?」女性は文野に助けを求めた「お宅はどちらですか?連絡がわかれば連絡しましょうか?」「私の家の電話番号、えーと何番だったかしら…」「あのお名前を教えていただけますか?」「名前…。名前…。」「どうしたの。大丈夫ですか?」「あら確か高野さん。」「やぁあなたは立花さん」「こちらの方が道に迷っていらっしゃる様子なので声をかけたのですが分からないらしくて…。」「わからない?病気ですか?」「可能性はあります。家族の方も探しているかもしれませんし。」「警察へ送りましょう。僕の車に乗ってください」「おばあちゃん、一緒に車に乗りましょうね。おうちを探してもらいましょう。」「ありがとうございます。」お年寄りは少し震えている様だった。「おばあちゃん手が冷たいですね長いこと歩いたの?」「わからない。どうして私は家が分からないんでしょう。」文野はおばあちゃんの手を両手で包んで温めてあげた。「大丈夫よ、大丈夫よ、きっと家族の方も探しているわ。」「お名前は?」「波多野です。」落ち着いて思い出したようだ「波多野さんですか?何故あの辺を一人で歩いていたんですか?」「どなたかとはぐれてしまったんでしょうか」「それなら警察に届けが出ているかもしれないな。とにかく急ごう。」無事警察署で訳を話しておばあちゃんを引き渡すことができた「良かったですね。家族の方に連絡がついて。安心しました。高野さんが居てくれて助かりましたありがとうございました」文野は深々と頭を下げる「お疲れ様、大体君も巻き込まれた方でしょう?」呆れ顔の高野「そうだ、折角だからご飯を食べに行きませんか?」「ご飯ですか?」「何か予定でもありますか?」「いえ特にはないですが親しくもない方と食事をするのは気が進みません」「これから仲良くなればいいんはない?」「そうは言っても殆ど会う事もないですし」「これから会えばいいじゃないですか?是非ご一緒しましょう❗️」「はぁ…。」結局高野の行きつけの店でご馳走になりマンションの前まで送ってもらった「今日はありがとうございました」「いいえ、とても楽しかった。また誘っても良いですか?」「はい」

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