わたしはワタシ

のぼり

第1話そんな馬鹿な話って…。

文野は、夕べ、突然の電話に驚いた 電話の相手は元夫だった。「明日夕方6時、ホテルのラウンジで待ってる7時まで待て会えない特は直接訪ねるから」「ちょっとどういうつもり?」「待ってるよ」一方的に電話は切れた。嫌な予感しかしない、取りあえず仕事終りにたずねるしかない。文野は、何もなかった様に晩御飯の支度に取りかかった。今日は母昌代が月1回、近所のご婦人方と女子会なので父仁也と2人だけの晩御飯だ。「電話じゃなかったかい?」「ウン。間違い電話よ。」「最近は固定電話はアンケートや、営業、あとは間違い電話だなぁ。固定電話は解約するか?」「でも父さん、道場の連絡先を固定電話にしてるでしょう?」「最近は携帯電話が主流だからなぁ。」「母さんとも相談してみたら?」今日の稽古が終わって風呂でさっぱりした父親はビールとグラスを手に居間に現れた

父親がそばにいる時じゃなくて良かった。文野は、深く息を吐いた。

翌日、電話の事が気になり仕事がはかどらない。「文野、どうしたの?何かあった?」同僚で友人の水野雅美が尋ねた「ゴメン。ぼーっとしてた。」文野は、慌ててパソコンの入力を始める「イヤ、良いのよ。誰だって調子が悪いことって有るじゃない?いつもと違う気がしただけ。普段バリバリ仕事してるから目についただけよ‼️」「ウン。ありがとう。大丈夫よ、気を付けます」「気にしないでいいってば」雅美は、笑って手を振った

その後は、これといった失敗もなく終業を迎えた。いつもより仕事は進んでいない気がするがミスがでなくて良かった。そう思いながら、文野は職場を出て駅に向かった「文野、お疲れ様、ねえこれから飲みに行こうか?」「ごめんね。今日は先約があって…。」「何だそうなの?」雅美は今日の文野が気になって声をかけてくれたのだろう。普段は子供の塾や晩御飯の心配をしているのに文野をお酒に誘うなんて「本当にありがとう。ごめんね。また明日」文野は駅に早足で向かった

指定されたホテルは最近建てられたおしゃれなホテルで職場から4つ先つまり、自宅からは9つ離れた駅の近くにある。1階のラウンジの奥の席に彼は一人座っていた「失礼します」文野はにこりともせず腰を下ろした「やぁ久し振り、元気だった?」男は文野とは逆に優しい声で懐かしそうに声をかけて文野を見ている「どういったご用件でしょうか」ついとげのある言い方になってしまう「まぁ落ち着いて、あやの事だから早足で来たんでしょう?コーヒーで良いかな?」黙っていると「コーヒーをひとつ」男は手をあげて近くにいたスタッフに注文した「何の用かと聞いているんです❗️いきなり電話してきて…」「君と話したかったんだ。色々とね」「もう終わったことでしょう?今更、あなたと話したいことなんてありません」「僕にはある。山ほどある。」優しいが強い口調で男が言った。「コーヒーです。」スタッフがコーヒーとミルクを置いた「ありがとうございます」文野の言葉に黙って一礼してさがって行った「僕には何故あやが家を出ていったのか聞く権利があると思う。」「…。」「聞かせてほしい。何がいけなかった?新婚の君を置いて海外へ出張したこと?両親から僕の知らないところで苛められてた?何があった?教えてほしい。」

「もう終わった事です。確かに12年前の事では高野家の皆さんにご迷惑をおかけしました。その件に関しては以前弁護士を通して申し上げました。それ以外話す事はありません。」「君の事だからそう言うと思った」「…。」「でも今日会いたいと言ったのは別件でね。再婚した妻の事だ」「はぁ?」文野は驚きを隠せない「失礼します」すぐ席を立った「待ってくれ。頼むから…」先程迄の余裕は、どこへ行ったのだろう。それ程大事なら私にあっている場合ではないだろうに。呆れて席に戻った。「ありがとう。妻が子宮癌になって入院しているんだ」「それはお気の毒に。それで?」「妻は君に僕を返したいって。馬鹿な話だと思うよ。病気になって変になったんだと…。」「…。」「でも何度も何度も何度も繰り返すんだよ。見ていられなくて君の気持ちも立場も考えずに申し訳ないと思ったけれど、何もせずにいられなかったんだ」文野は深い溜め息をついた「2度と連絡しないで下さい。他人の夫に興味はありません。今の奥様にそうお伝えください。」「あや、訳を教えてくれないか?紀久子に聞いても泣くだけなんだ」「だからって私に聞くこと?だから、世間知らずのお嬢様なのよ。結婚して母親になってもそのまんまなのね。くだらない事で私を巻き込まないで‼️」今度こそ文野は席を立った。そして早足で外へ出た「あや」後から高野が追いかけてきた「あや、待ってくれ」「嫌よ。放して。2度と連絡しないで」「手を放してくれないか」男が高野と文野の間の割り込んだ「何をする❗️」「文野さんは、嫌がってるでしょう、手を放してくれ」「杉山さん…。」「やぁ。このあと僕と約束してたでしょ?ちょっと早く着いちゃってぶらぶらしてたらこれだもの。文野さん相変わらずもててるね」「約束が…。そう…失礼した。あや、ごめんね。」「それとあやと呼ぶのは辞止めて下さい。」高野ははっとして「つい昔の癖で、ゴメン。」「では失礼。」杉山は、文野の手を握って歩き出した

10分歩いて一駅程歩いた頃、杉山は立ち止まり初めて後ろを振り向き高野が居ないことを確かめた「杉山先生」「すみません。怒ってます?突然訳もわからない俺が割り込んじゃって、ごめんなさい」「そんな、助かりました。こちらこそ巻き込んでごめんなさい。ありがとうございました。」二人で謝り合っている「ふふ、本当に驚きました。先生はあの辺にお住まいなんですか?」「違うんです。寝過ごして戻るところでした」「そのまんま戻らなくてよろしいんですか?」「別に待ってる人もいないので、大きい駅だからついでにどっかで飯でもと思って降りたんです。」「まぁ…。それより立花さんこそ大丈夫ですか?」「ええ。もう大丈夫です。」「ストーカーとかじゃないですか?」「いいえ違います。そんな人じゃないです」「昔からの知り合いですか?」「ええ。昔の知り合いです。長らく会っていなかったので」「揉めてたんですか?あっいえプライベートなことに立ち入る気は無いのですが、つい」「…夫、イヤ元夫です。」「夫?立花さん結婚してたんですか?」「10年以上前の話です。子供だったんです。彼も私も」「はぁ…。」杉山は呆気に取られた表情で文野を見ていた。

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