幸せの醜い渡り鳥 その4

 それから日々は過ぎ去った。

 俺はほぼ毎日、咲奈がいる病室に通うようになった。その日の授業が終われば、すぐに教室を飛び出して病室に駆ける、そんな日々だった。バイトがある日だって、現場に出向く前のちょっとした空き時間に少しでも面会をした。

 言葉一つでここまで変われるものなのだと驚く。いや、これは自分を変えるための旅だ。



 夏が来た。夏の到来というのは同時にある日の到来を連れてくる。

 咲奈の誕生日だ。ギラギラと太陽が照りつける中、あちこちを奔走した。

 そして来たる誕生日当日。俺は白い鳥のぬいぐるみをプレゼントした。あの日見た渡り鳥があまりにも印象的で、滑稽だったので、そんな思い出を伝えるように咲奈の寝るベッドの横にある机の上に添える。表には出せなくても、笑ってくれてるといいなと思う。

 病状というか体調は春のまま変わらず。

 俺は変われたのだろうか。少しでも強くなれたのだろうか。自己満足に押しつぶされてはいないだろうか。俺は今、どんな顔をしているのだろうか。



 夏の暑さが過ぎ去り、秋がやってくる。一気に涼しくなって、秋の虫が鳴き始める。茜色に変わる街並み。

 食べ物がいっそう美味しくなる。最近はバイト先のまかないの秋の味率が増えて、そのおいしさに太ってしまったということを話した。

 こうやって、毎日喋り続けている。そうすれば、少しでも寂しさが薄れるだろうから。俺も咲奈も。

 近頃は常々こう思う。これは自己満足なんかじゃないと。偽善なんかじゃないと。確かに俺も幸せだ。咲奈は眠っているが、すごく幸せだと思う。でも、それは心の底から咲奈を想えてのことだ。

 毎日は眩く色づく。鮮やかに美しく。そんな毎日を咲奈にも見てほしいと、また一緒に喋り合いたいと、そう思う。



 冬が来た。街の色は消えていって、雪が降り、白く化粧される。これもまた美しいと言えよう。

 クリスマスが来た。またまたプレゼントを買ってくる。今度は猫のぬいぐるみだ。咲奈は倒れる前、ずっと猫が飼いたいと言っていた。

 こんなもので代わりになるだろうか。

 咲奈は幸せだろうか。

 俺は幸せを与えられているだろうか。

 街はどんどん冷え込んでくる。暖かさはどこにあるのだろう。

 ……今日は大晦日だ。夜道は寒い。特別に病院から許可を貰って、咲奈と一緒に年越しが出来ることが決まった。当然、年越しそばだったり、特別なものは持ち込めないけど。静かに細やかに新年を共に祝おうと思う。

 ほんの些細な幸せだ。

 ぽつんと頬に何かが落ちる。天を見上げてみれば、雪が降っていた。より一層寒さが増したような気がした。

 寒さと、早く咲奈に会いたいという想い一心に、駆け足で病室へと向かう。空へ上がる白い息が消えていく。

 そして、病院へとたどり着いた頃。





 咲奈の心臓が止まっていた。



 

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